📚 この記事は連載の第1話です。地政学で学ぶ資産形成シリーズ【全15話まとめ】で全体像を、歴史・地政学×資産形成 完全ガイドで5シリーズ横断の地図をご覧いただけます。
- はじめに:給油のたびに「また値上げか」とつぶやく4児パパの本音
- そもそも地政学とは何か:地理が国家戦略を決めるという発想
- シーパワー vs ランドパワー:500年続く構図
- ホルムズ海峡:世界経済の喉元
- マラッカ海峡と日本のシーレーン:第二の喉元
- 中東で石油が見つかる前と後で世界はどう変わったか
- 日本のエネルギー依存度:数字で見ると怖いほど偏っている
- 円安はなぜ起きるのか:エネルギー輸入と地政学の連鎖
- 中東の宗教対立:スンニ派サウジとシーア派イラン
- 個別株では地政学リスクから逃げきれない
- オルカン・S&P500が合理的に見える理由
- インフレ時に現金を持ち続けるリスク:複利は必ず味方につける
- 4児パパ視点:地政学は最高の「世界の見方」教材
- 大家として:建築資材コストと地政学
- 中東をめぐる100年の戦争史:これは「最近の問題」ではない
- イラン・サウジアラビア・アメリカ:原油市場を動かす三角関係
- 市場は「未来」を買う:封鎖されなくても価格が上がる仕組み
- 本シリーズで扱う今後のテーマ
- まとめ:ガソリン価格は世界の縮図
はじめに:給油のたびに「また値上げか」とつぶやく4児パパの本音
近所のセルフスタンドでレギュラーが175円を超えた朝、私は思わずため息をついた。妻を亡くしてから4人の子どもをワンオペで送り迎えする日々、車は完全に生活インフラだ。週に2回は満タンにする。1リットルあたり20円上がれば、月に4,000円〜5,000円が黙って消えていく。これは正直、家計の中で「ボディブローのように効いてくる」値上げだと感じている。
子どもたちに「なんでガソリン高いの?」と聞かれて、最初は「うーん、原油が値上がりしてるからかな」と適当に答えていた。でも、長男が中学生になり、社会の授業で「地政学」という言葉に触れて以来、私自身がもう一度ちゃんと勉強し直すことにした。学んでみると、ガソリン価格の裏には、明治以降の日本の宿命と、500年以上続く世界の覇権争いの構造がまるごと隠れていた。
これは個人の見解だが、資産形成を本気で考えるなら、地政学から逃げてはいけないと思う。なぜなら、私たちが普段触れている「株価」「為替」「金利」「物価」のすべては、最終的に地球儀の上で起きている「人とモノとエネルギーの取り合い」の結果として動いているからだ。本シリーズ「地政学で学ぶ資産形成」全15話の第1話として、まずは「なぜガソリン価格が上がるのか」というシンプルな問いから、世界の構造に踏み込んでみたい。
そもそも地政学とは何か:地理が国家戦略を決めるという発想
地政学(Geopolitics)とは、ざっくり言えば「地理的条件が国家の政治・軍事・経済戦略を規定する」という考え方だ。19世紀末から20世紀初頭にかけて体系化された比較的新しい学問で、当時の二人の理論家が現在も語り継がれている。
マハンの「シーパワー理論」
アルフレッド・セイヤー・マハンはアメリカの海軍軍人で、1890年に『海上権力史論』を著した。彼の主張はシンプルだ。「海を制する者が世界を制する」。19世紀の大英帝国がなぜ世界の4分の1を支配できたのか。それは強大な海軍と、世界中の交易路(シーレーン)と港湾を押さえていたからだ、と彼は分析した。この理論はその後のアメリカの海洋戦略の土台になり、現在の米第7艦隊が西太平洋に常駐している論理的根拠でもある。
マッキンダーの「ハートランド理論」
一方、イギリスのハルフォード・マッキンダーは1904年、「東欧を制する者がハートランドを制し、ハートランドを制する者が世界島を制し、世界島を制する者が世界を制する」と説いた。ここで言うハートランドは、ユーラシア大陸の中央部、おおむね現在のロシアからカザフスタンにかけての広大な内陸地帯を指す。海ではなく陸の力で世界を制するという、マハンとは正反対の発想だ。
この二つの理論は、対立しているように見えて実は補完関係にある。世界はざっくり「海から世界を見る勢力(シーパワー)」と「陸から世界を見る勢力(ランドパワー)」に分かれて、500年以上ぶつかり続けている、というのが地政学の最も基本的な世界観だ。
シーパワー vs ランドパワー:500年続く構図
現代に当てはめると、おおむね次のような対立構図が見えてくる。
| 勢力 | 主な国 | 特徴 | 武器 |
|---|---|---|---|
| シーパワー | 米国・英国・日本・豪州・蘭・スペイン(歴史的に) | 海洋交易と海軍力で繁栄。自由貿易・市場経済を志向 | 空母・潜水艦・基軸通貨・金融 |
| ランドパワー | ロシア・中国・ドイツ(歴史的に)・イラン | 広大な領土と陸軍力を背景に拡張。統制経済を志向しがち | 戦車・ミサイル・パイプライン・資源 |
日本は地理的に島国であり、戦後はアメリカと組むことで完全にシーパワー陣営に組み込まれた。これは個人的にはとても重要な認識だと思っている。なぜなら、日本人が積み立てているオルカンやS&P500の成績は、突き詰めればこのシーパワー陣営が世界経済の主導権を握り続けるかどうかにかかっているからだ。
ホルムズ海峡:世界経済の喉元
地政学を学んだ人が必ず最初に通る場所がある。それが「ホルムズ海峡」だ。ペルシャ湾(アラビア湾と呼ぶ国もある)とオマーン湾を結ぶ、北はイラン、南はオマーン(飛び地のムサンダム半島)に挟まれた、最も狭い部分でわずか約33kmの細い海峡。ここを世界の原油海上輸送の約20〜30%、LNGの約20%が通過している。
なぜここが「チョークポイント」なのか
チョークポイント(choke point)とは、文字通り「喉を絞める点」。世界の海上交通路には、ここを封鎖されたら物流が止まるという急所がいくつかあり、ホルムズ海峡はその中でも最重要クラスだ。代表的なチョークポイントを並べてみる。
- ホルムズ海峡(中東):世界の原油海上輸送の約20〜30%
- マラッカ海峡(東南アジア):日本向け原油の約8割が通過
- スエズ運河(エジプト):欧州とアジアを結ぶ大動脈
- バブ・エル・マンデブ海峡(紅海入口):紅海とインド洋の境
- パナマ運河(中米):太平洋と大西洋を結ぶ
- ボスポラス海峡(トルコ):黒海と地中海の出入口
日本にとってのホルムズ海峡の意味は重い。日本の原油輸入のうち、中東依存度は約95%、そのほとんどがホルムズ海峡経由でインド洋に出て、マラッカ海峡を抜けて日本に到着する。つまり、日本人の通勤も、トラック輸送も、火力発電も、すべて「ホルムズ→マラッカ」という細い管に依存して動いている。ここで何か起きれば、ガソリン価格は一瞬で跳ね上がる。これは脅しではなく、地理的事実だ。
マラッカ海峡と日本のシーレーン:第二の喉元
ホルムズ海峡を無事に抜けたタンカーが、次に必ず通らなければならない関所がある。それが「マラッカ海峡」だ。マレー半島とインドネシアのスマトラ島に挟まれた、全長約900km、最も狭い部分では幅2.7kmほどしかない細長い海の道で、ここを日本向け原油の約8割が通過すると言われている。私はこの数字を知ったとき、「日本の生命線は、中東とマラッカという二段構えの細い管にぶら下がっているのか」と背筋が寒くなった。
地図を子どもたちと広げてみると、よく分かる。インド洋から太平洋へ抜けるには、このマラッカ海峡を通るのが圧倒的に近い。仮にここが封鎖されれば、タンカーはインドネシアの南をぐるりと回るロンボク海峡やスンダ海峡に迂回するしかなく、航海日数も燃料コストも跳ね上がる。輸送費の上昇は、最終的に私たちが払うガソリン代や電気代に乗ってくる。地理が家計に直結するというのは、まさにこういうことだ。
なぜシンガポールが世界の要衝なのか
このマラッカ海峡の東の出口に位置するのが、都市国家シンガポールだ。国土は東京23区ほどの小ささなのに、一人当たりGDPでは日本をはるかに上回る豊かな国になっている。その繁栄の源泉こそ、まさにこの海峡という地理的優位だと私は理解している。世界中のタンカーやコンテナ船がここを通るからこそ、シンガポールは中継貿易・金融・石油精製・船舶燃料供給(バンカリング)の一大ハブとして栄えた。地政学的な急所を「押さえている」国は、それだけで富を生み出せるという、シーパワー理論の生きた実例だと思う。
だからこそ、米国も中国もこの海域に強い関心を持っている。シーパワー陣営にとってはシーレーンの安全確保、ランドパワー陣営にとっては「いざというとき喉元を絞められる弱み」を解消したい思惑がある。中国が陸路のパイプラインや一帯一路に巨費を投じるのも、このマラッカ海峡への依存(いわゆる「マラッカ・ジレンマ」)から逃れたいからだと言われている。これは個人の見解だが、私たち日本人がオルカンやS&P500を通じて世界に投資するとき、こうした海の道の安全保障の上に成り立っていることは、頭の片隅に置いておく価値があると思う。
中東で石油が見つかる前と後で世界はどう変わったか
20世紀初頭まで、中東は「乾いた砂漠と遊牧民の土地」というイメージで、欧州列強の関心は主にスエズ運河を経由するインド航路の確保に向いていた。状況が一変したのは1908年、現在のイラン南西部で初の大規模油田が発見されてからだ。続いて1927年にイラク、1932年にバーレーン、1938年にサウジアラビアとクウェートで巨大油田が次々に発見される。
第一次世界大戦で艦船が石炭から石油に切り替わり、第二次世界大戦では戦車・航空機・トラックがすべて石油で動くようになった瞬間、中東の砂漠は「世界で最も価値ある土地」に変わった。戦後、米国はサウジアラビアと「石油を米ドルで売る代わりに王家の安全保障を米国が保証する」という事実上の取り決め(いわゆるペトロダラー体制)を結ぶ。これによってドルは世界中で必ず必要とされる通貨=基軸通貨としての地位を不動のものにした。
この瞬間、世界の金融と中東の石油が固く結びついた。今でも金融政策が中東情勢で揺れるのは、根っこにこの構造があるからだ。
日本のエネルギー依存度:数字で見ると怖いほど偏っている
資源エネルギー庁の公表データを参考に、日本のエネルギー輸入の構造をざっくり整理してみる(個人の見解を含むので参考程度に)。
| 項目 | 概況 |
|---|---|
| 一次エネルギー自給率 | 約13%(先進国の中でも極めて低水準) |
| 原油の中東依存度 | 約95% |
| LNGの輸入元 | 豪州・マレーシア・カタール・米国など分散傾向 |
| 原油輸入のホルムズ海峡経由 | 実質的にほぼ100%(中東産はすべて海峡通過) |
この数字を初めて見たとき、私は正直、夜眠れなくなった。子どもたちの未来のために積み立てているNISAも、保有している築古アパートも、結局はこの細い海峡が機能している前提の上に成り立っている。だからこそ「分散」が大切なのだと、肌で理解できるようになった。
円安はなぜ起きるのか:エネルギー輸入と地政学の連鎖
「地政学」と「円安」は一見すると別の話に見えるが、4児パパの家計の中ではしっかり一本の線でつながっている。私なりに、その連鎖を整理してみたい(これも個人の見解なので参考程度に)。
- 中東やウクライナで地政学リスクが高まる
- 原油・LNG・小麦などの国際価格が上がる
- 自給率の低い日本は、高くなった資源を大量に「輸入」せざるを得ない
- 輸入代金を払うために、企業が円を売ってドルを買う(実需の円売り)
- 円が売られて円安が進む
- 円安になると、同じ1バレルの原油を買うのにより多くの円が必要になる
- 輸入物価がさらに上がり、ガソリン・電気・食品が値上がりする
つまり、地政学リスク→資源高→輸入額増→円売り→円安→物価高、という連鎖が回る。さらにここに日米の金利差という金融的な要因が重なると、円安はもう一段加速する。私が子どもの頃に習った「資源のない国・日本」というフレーズは、令和の家計にここまで重くのしかかるのかと、毎月の請求書を見ながら実感している。
4児家計の実感:食費と光熱費という最前線
我が家は育ち盛りの子どもが4人いるので、とにかく食べる。お米は月に20kg近く消えるし、パン・牛乳・卵・肉は底なしだ。この数年、お米も食用油も小麦製品も、じわじわと値上がりし、内容量が静かに減る「ステルス値上げ」も増えた。輸入小麦や輸入飼料の価格は、ウクライナ情勢や為替に直結している。光熱費も同じで、真冬の電気・ガス代は数年前の感覚より明らかに重い。火力発電の燃料であるLNGの価格と円安が、そのまま検針票に乗ってくるからだ。
だからこそ私は、現金だけで資産を持つことの怖さを痛感している。地政学リスクと円安が同時に来る局面では、円という通貨そのものの購買力が削られていく。これは個人の見解だが、外貨建ての資産(オルカンやS&P500のようなドル建て資産を内包する投信)を一定割合持っておくことは、こうした「日本人であることのリスク」に対する静かなヘッジになると考えている。給油のため息も、検針票のため息も、突き詰めれば同じ地政学の地図の上で起きているのだ。
中東の宗教対立:スンニ派サウジとシーア派イラン
地政学を語る上で宗教の話を避けては通れない。イスラム教には大きく二つの宗派がある。多数派のスンニ派(世界のムスリムの約85〜90%)と、少数派のシーア派(約10〜15%)だ。両派の分裂は、預言者ムハンマドの死後(西暦632年)、後継者を誰にするかという問題に端を発する。
| 宗派 | 主な国 | 立ち位置 |
|---|---|---|
| スンニ派 | サウジアラビア・UAE・エジプト・トルコ・パキスタン・インドネシア | 多数派。アラブ諸国の主流。米国寄りの国が多い |
| シーア派 | イラン・イラク(多数派)・バーレーン(多数派)・レバノン(一部) | 少数派。イランを盟主として連帯。反米色の強い国が多い |
この対立構造は冷戦終結後もまったく解消されておらず、シリア内戦、イエメン内戦、レバノンの政治、イラクの内政、これらすべてに「サウジ vs イラン」の代理戦争的な構図が透けて見える。ホルムズ海峡の北岸(イラン)と南岸(サウジ・UAE・オマーン)が、それぞれシーア派とスンニ派の盟主にあたるという事実は、極めて重い。ここで一発の銃声が鳴れば、地球の裏側にいる4児パパの給油代が上がる。
個別株では地政学リスクから逃げきれない
「じゃあ、エネルギー関連の個別株に投資すれば中東リスクに賭けられるのか」と考える人もいると思う。私も20代の頃はそう考えて、商社株を集中保有していた時期があった。結論から言うと、これは想像以上に難しい。
- 原油高騰=資源株上昇とは限らない。減産合意・在庫水準・需要見通しで複雑に動く
- 地政学イベント(戦争・テロ・制裁)は予測不可能で、ポジションを取った瞬間にハシゴを外される
- 個別企業の経営判断(プロジェクト中止・税制変更)に振り回される
- 結局、原油先物・ETF・個別株のどれを選んでも、長期で勝ち続けるのはプロでも難しい
20年投資家をやってきた個人の感想として、地政学を勉強すればするほど、逆に「個別株への集中投資はギャンブルに近い」と感じるようになった。だから今は、コア資産はオルカンとS&P500、サテライトに高配当ETFと国内不動産、という超王道のポートフォリオに落ち着いている。
オルカン・S&P500が合理的に見える理由
「世界中に分散しても、結局アメリカが下がったら全部下がるじゃないか」という意見もよく聞く。確かに短期ではそうだ。でも地政学の視点から見ると、オルカンやS&P500には大きな構造的優位がある。
- シーパワー陣営(米英日豪)の主要企業をまるごと保有できる
- 基軸通貨ドル建ての資産を自然と持つことになる
- 世界のチョークポイント(ホルムズ・マラッカ・スエズ)の安全保障を担う国の企業群に乗れる
- 仮にランドパワー側が伸びても、グローバル企業として収益を取り込める
これは個人の見解だが、地政学を学べば学ぶほど、結局「自分はシーパワー陣営の一員である日本人として、シーパワー陣営の経済成長に乗るのが最も合理的」という結論に行き着く。それを最も低コストで実現してくれるのが、オルカンとS&P500の積立投信なのだ。難しいことを考え抜いた末に、最もシンプルな答えに戻ってくる、というのは面白い体験だった。
インフレ時に現金を持ち続けるリスク:複利は必ず味方につける
地政学的リスクが高まるとき、エネルギー価格が上昇し、それが川下に波及してあらゆるモノの価格が上がる。いわゆるコストプッシュ型インフレだ。このとき、現金を銀行に置いているだけだと、実質的な購買力は静かに削られていく。仮に年2%のインフレが10年続けば、100万円の実質価値は約82万円まで目減りする計算になる。
私の基本スタンスとして、借金は基本反対派だ。リボ払い・消費者金融・住宅ローンの借りすぎは、複利の力が完全に「敵」として襲いかかってくる。一方で、20年大家をやってきた経験から言えるのは、「借入額+総借入コスト<期待リターン」が明確に成り立つ事業性融資(収益不動産購入や事業拡大)に限っては、複利の力を「味方」にすることができる、ということだ。家賃という安定収入で元利返済を上回るキャッシュフローを生み出せる物件であれば、レバレッジは強力な武器になる。
逆に、株式投資の側では複利は100%味方だ。配当再投資型のインデックス投信を20年、30年と回し続ければ、複利のカーブはどこかで必ず角度を変えてくる。借り手側で複利を敵に回さず、株主側で複利を味方につける。この鉄則は地政学的リスクが高まる時代こそ、より重要になると感じている。
4児パパ視点:地政学は最高の「世界の見方」教材
長男が中学生、次男が小学校高学年、下の子たちはまだ小さい。我が家ではガソリンを入れに行くとき、できるだけ子どもたちと一緒に行くようにしている。価格表示を見ながら「先月より高い?安い?」と確認する。高ければ「中東で何かあったかもね」と地球儀を一緒にのぞきにいく。これは私が亡き妻と決めていた育児方針の一つで、「世界の出来事は他人事じゃない」と肌で感じさせる小さな儀式のようなものだ。
子どもにNISAやiDeCoの数字を見せても、たぶんピンとこない。でも、ガソリン価格・お米の値段・お菓子の内容量、こうした身近な変化と地球の裏側のニュースをつなげて見せると、彼らの目の色が変わる。地政学は、子育てにおける最高の社会科教材だと、シングルファーザーになって思うようになった。
大家として:建築資材コストと地政学
20年大家として木造アパートと中古戸建てを運営しているが、ここ数年で痛感しているのが、修繕費・建築資材費の急騰だ。ウッドショック、鉄鋼価格、銅線価格、給湯器の半導体不足、そして輸送コストとしての燃料費。これらはすべて、地政学リスクと密接につながっている。
原状回復で給湯器1台交換するだけでも、5年前より3〜5万円は高くなったと感じる。これがやがて家賃に転嫁され、不動産価格にも反映される。逆に言えば、インフレ時に実物資産(不動産)を持っていることは、地政学的な物価上昇圧力に対する一定のヘッジになる。これも、私が築古アパートを手放さない理由の一つだ。
もう少し具体的な金額で、私が肌で感じている資材インフレを書いておきたい(あくまで私の物件での実感値で、地域や時期で変わるので参考程度に)。まず、いわゆるウッドショックの影響が大きかった時期は、ちょっとした間仕切りや床の下地補修に使う構造材・合板の単価が、体感で1.5倍前後に跳ね上がった。以前なら材料費1万円台で収まっていた小工事が、2万円台後半まで膨らむ、という具合だ。クロスの張替えも、職人さんの人件費上昇と相まって、6畳一間で以前より1〜2万円は上振れするようになった。
特に痛いのが給湯器だ。半導体不足の時期には「お金を出しても部品が入ってこない」という、お金より供給が止まる怖さを初めて味わった。退去後すぐに次の入居者を入れたいのに給湯器が手に入らず、空室期間が延びて家賃収入を取り逃がす。これは修繕費そのものより、機会損失として効いてくる。給湯器本体も、エコジョーズタイプで以前は工事込み8〜10万円程度だったものが、今は12〜15万円程度を覚悟する場面が増えた。エアコンも同様で、銅やアルミといった金属相場・輸送費の上昇が効いて、1台あたり数万円単位で高くなった印象だ。
こうして並べてみると、修繕費の高騰は職人さんの人手不足という国内要因もあるが、根っこには資源高・円安・輸送コスト・半導体という地政学要因がべったり張りついている。20年大家をやってきて思うのは、家賃というインカムは比較的ゆっくりしか上げられない一方、修繕費という支出は地政学イベントで一気に跳ねる、という非対称性だ。だからこそ、保有現金にある程度の修繕予備費を厚めに積んでおくこと、そして物件を「インフレに連動して価値を保ちやすい実物資産」として長期で持ち続けることの両方が大事だと、私は考えている。
中東をめぐる100年の戦争史:これは「最近の問題」ではない
ニュースで「中東情勢の緊迫」と聞くと、つい最近持ち上がった問題のように感じてしまう。でも、長男と一緒に年表を作ってみて改めて思ったのは、中東の対立は数十年どころか100年以上にわたって続いている、ということだ。これは個人の見解だが、私たち投資家がここを「一時的なニュース」ではなく「世界経済の構造的リスク」として捉え直すことには、大きな意味があると感じている。
主な出来事を時系列で並べてみる(年号や経緯は概略で、解釈には諸説あるため参考程度に。特定の国・宗教・立場を評価する意図はなく、あくまで経済への影響を考えるための整理として書いている)。
| 時期 | 主な出来事 | 市場・エネルギーへの含意(概略) |
|---|---|---|
| 1948〜 | 第一次中東戦争(イスラエル建国をめぐる対立) | パレスチナ問題の出発点。以後の地域不安定化の起点 |
| 1956 | 第二次中東戦争(スエズ動乱) | スエズ運河という大動脈の重要性が世界に再認識される |
| 1967 | 第三次中東戦争(六日間戦争) | 領土と聖地をめぐる対立がさらに固定化 |
| 1973 | 第四次中東戦争 → 第一次オイルショック | 原油価格が急騰し、世界経済が「石油の力」を痛感した転換点 |
| 1979 | イラン革命 | 親米王政が倒れ反米色の強い体制へ。第二次オイルショックの引き金 |
| 1980〜1988 | イラン・イラク戦争 | 産油国同士の長期戦。タンカー攻撃でホルムズ海峡の脆弱性が表面化 |
| 1991 | 湾岸戦争 | 原油価格が乱高下。米国の中東関与が一段と深まる |
| 2003 | イラク戦争 | 地域秩序が再び大きく揺らぎ、原油市場に長く影を落とす |
| 2011〜 | シリア内戦 | 大国の思惑が交錯する「代理戦争」的様相。難民・人道問題も深刻化 |
| 現在進行形 | イスラエルとパレスチナの問題、イランとイスラエルの緊張 | 完全解決に至らず、原油市場が反応しやすい状態が続く |
こうして並べてみると、ある事実が見えてくる。中東の緊張は、特定の年に偶発的に起きたのではなく、ほぼ途切れることなく続いてきたということだ。第一次オイルショック(1973年)も、イラン革命(1979年)も、当時の家計を直撃した。私が生まれるより前の話だが、年表の上では「原油価格が世界を揺らした瞬間」がいくつも刻まれている。
つまり、中東リスクは「いつか起きるかもしれない例外的な災害」ではなく、「常にそこにある構造的なリスク」だと捉えるのが、私には腑に落ちる見方だ。だからこそ、特定の国の情勢に賭けるのではなく、何が起きても極端に崩れにくいポートフォリオを組んでおく、という発想に行き着く。これは個人の見解だが、100年の年表は「分散しておきなさい」という、過去からの静かなメッセージのようにも読めるのだ。
イラン・サウジアラビア・アメリカ:原油市場を動かす三角関係
現在の中東情勢、ひいては原油価格を理解するうえで、私が特に意識しているのが「イラン・サウジアラビア・アメリカ」の三角関係だ。それぞれの立ち位置がまったく異なり、その緊張のバランスが原油市場を大きく揺らす。ここでも、どの国が善でどの国が悪という話ではなく、あくまで経済への影響を考えるための整理として、中立的に書いておきたい。
イラン:反米色の強い世界有数の資源国
イランは石油・天然ガスの埋蔵量がともに世界トップクラスの資源国だ。一方で、米国との対立が長年続いており、核開発をめぐる問題で国際社会との緊張が繰り返されてきた。経済制裁が強化されたり緩和されたりするたびに、イラン産原油が市場にどれだけ出回るかが変わり、それが原油価格に直接効いてくる。しかも、地理的にホルムズ海峡の北岸を押さえているため、「封鎖を示唆する」という言葉そのものが市場を動かす力を持っている。
サウジアラビア:世界の価格決定力を握る産油大国
サウジアラビアは世界最大級の産油国であり、原油の増産・減産を通じて国際価格に大きな影響力を持っている。OPEC(石油輸出国機構)の中心的存在として、世界の供給量を調整する「蛇口」のような役割を担ってきた。同時に、イスラム教スンニ派の中心国でもある。シーア派の盟主であるイランとは長年のライバル関係にあり、周辺国を通じた影響力争い、いわゆる代理戦争的な構図がしばしば指摘される。
アメリカ:中東の安定を重視してきた軍事大国
アメリカは世界最大の軍事大国であり、戦後長く中東の安定を重視してきた。石油供給が止まれば世界経済全体が打撃を受けるため、サウジアラビアとは深い関係を築く一方、イランとは長年対立してきた。前述したペトロダラー体制(石油をドルで取引する仕組み)も、この米・サウジの関係を土台にしている。
この三者の力関係が崩れたり緊張したりするたびに、原油市場は敏感に反応する。たとえば「イランとアメリカの緊張が高まった」「米軍が中東に増派された」といったニュースが流れるだけで、原油先物が動く。これは個人の見解だが、4児パパの私が給油でため息をつくとき、その価格表示の奥では、この三角関係のさざ波がリアルタイムに織り込まれている、と考えると、ニュースの見え方が少し変わってくる。
市場は「未来」を買う:封鎖されなくても価格が上がる仕組み
地政学と家計のつながりを語るうえで、どうしても外せないのが「先物市場」の存在だ。最初に知ったとき、私は「なるほど、だから実際に何も起きていなくても値段が動くのか」と腑に落ちた。
原油やガソリンの価格は、いま実際に流通している量だけで決まるわけではない。投資家や企業が「これから先、原油は足りなくなるか、余るか」という未来の見通しを織り込んで売買する、先物市場で形成される部分が大きい。つまり、市場は現在ではなく「未来」を買っているのだ。
だからこそ、こんなことが起きる。
- 「イランがホルムズ海峡の封鎖を示唆した」というニュースが出る
- 「米軍が中東に増派された」と報じられる
- 「イスラエルとイランの緊張が高まった」と伝わる
これらは、いずれも「まだ実際には何も起きていない」段階の情報だ。それでも、もし本当に封鎖されれば世界的な原油不足に陥る可能性があるため、投資家や企業はそのリスクを先回りして価格に織り込む。結果として、海峡が一滴も止まっていなくても、地球の裏側にいる私の給油代が上がる、という現象が起きる。
これは個人の見解だが、この「市場は未来を買う」という性質こそ、投資家が地政学を学ぶ本当の意味を教えてくれると思っている。私たちが地政学を学ぶのは、戦争や封鎖を正確に予測するためではない。むしろ逆で、「予測できないことが必ず起きる」と腹の底から理解するためだ。ホルムズ海峡の封鎖リスクも、イランとイスラエルの衝突も、サウジアラビアの政策転換も、その時期や規模を正確に当てられる人はいない。
だとすれば、私たち個人にできるのは「未来予測」ではなく「未来への備え」だ。生活防衛資金を厚めに持ち、敵に回る借金を減らし、長期で積み立て、世界全体に分散しておく。地政学を学べば学ぶほど、特定の企業や特定の国に賭けるのではなく、世界全体へ分散投資するという考え方の合理性が、じわじわと体に染み込んでくる。難しい地図をたどった末に、結局いちばんシンプルな結論に戻ってくるのだ。
本シリーズで扱う今後のテーマ
「地政学で学ぶ資産形成」シリーズは全15話を予定している。各話のテーマは以下の通り。
- 第2話:なぜ中東は争い続けるのか(スンニ派 vs シーア派の500年)
- 第3話:マラッカ海峡と日本のシーレーン
- 第4話:ロシアのエネルギー戦略とパイプライン政治
- 第5話:中国の一帯一路とランドパワー復活戦略
- 第6話:台湾有事が世界の半導体に与える影響
- 第7話:北極海航路と温暖化が変える地政学
- 第8話:アフリカ大陸争奪戦と資源外交
- 第9話:基軸通貨ドルとペトロダラー体制の現在地
- 第10話:金(ゴールド)と中央銀行の購入動向
- 第11話:食料安全保障とウクライナ・小麦の話
- 第12話:レアアース・レアメタルと中国依存
- 第13話:宇宙・サイバー空間という新しい戦場
- 第14話:日本の安全保障と防衛関連株
- 第15話:地政学を踏まえた、シンパパ流ポートフォリオ最終解
まとめ:ガソリン価格は世界の縮図
セルフスタンドの表示価格は、地球の裏側で起きていることのリアルタイムレポートだ。
給油のたびに私が子どもたちに伝えているのは、シンプルなことだ。「この175円の中には、ホルムズ海峡の波の音と、サウジ王家の判断と、米国の金融政策と、円相場のすべてが詰まっているんだよ」。難しい話に聞こえるかもしれないが、結局はそういうことだ。
資産形成に地政学を取り入れる意味は、儲けるためというより「振り回されないため」だと私は思っている。地球儀の上で何が起きているかを理解していれば、株価の急落でも、ガソリン高でも、円安でも、必要以上に怯えずに済む。むしろ、長期積立をコツコツ続け、現金保有リスクを意識し、複利を味方につけ続けることの大切さが、より腹落ちするようになる。
これは個人の見解だが、シングルファーザーとして、20年大家・20年個人事業主・20年投資家として、私は今後も「地球儀を眺めながらの資産形成」を続けていくつもりだ。子どもたちが大人になる頃、この世界がどう変わっているか分からないが、変わらない原則は必ずある。シーパワーとランドパワーは今日もぶつかり続けているし、ホルムズ海峡は今日も静かに、世界の喉元を支えている。
あわせて、子ども4人の教育費総額を年度別一覧表で試算もぜひ読んでみてほしい。地政学とNISA・教育費は、一見遠いようでまっすぐつながっている。
シリーズ第2話:なぜ中東は争い続けるのか(スンニ派 vs シーア派の500年) へ続く
※本記事は4児シングルファーザーで個人事業主・大家・個人投資家でもある私の見解です。投資・税務・法律に関する最終的な判断はご自身の責任で行ってください。特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。

