📚 この記事は連載の第1話です。中国から学ぶ資産形成シリーズ【全15話まとめ】で全体像を、歴史・地政学×資産形成 完全ガイドで5シリーズ横断の地図をご覧いただけます。
- はじめに:オルカンの新興国比率を見て、私は手が止まった
- 「4000年の歴史」は本当か?まず数字で確認する
- 中国主要王朝の通史をざっと一気通貫で見る
- 日本との比較:王朝交代がない国に住む私たち
- 投資家が学ぶべき教訓1:永遠に強い国は存在しない
- 投資家が学ぶべき教訓2:国家にもライフサイクルがある
- 投資家が学ぶべき教訓3:歴史が長い国ほど「平均回帰」しやすい
- 個別株 vs 全世界分散:中国株への私のスタンス
- 借金・複利スタンスから見る中国
- 中国の不動産バブルと地方政府債務 ― 借り手側の複利が逆回転するとき
- 日本のバブル崩壊との相似 ― 投資家として冷静に比較する
- 4児パパとして子に伝えたいこと
- 関連記事と次回予告
- おわりに
はじめに:オルカンの新興国比率を見て、私は手が止まった
こんにちは。シンパパ資産設計士です。妻を病気で亡くし、4人の子どもを一人で育てながら、20年ほど大家業と個人投資、それから細々とした事業を続けている40代のシングルファーザーです。
先日、子どもたちが寝静まった深夜、いつものように証券口座を開いて、保有しているeMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)、いわゆる「オルカン」の構成比率を眺めていました。米国が約6割、日本が5%前後、欧州が10数%。そして、新興国の中に静かに鎮座する「中国 約3%」という数字。
正直に言うと、私はこの「3%」という数字を見て、しばらく手が止まりました。世界第2位の経済大国でありながら、世界株式の時価総額に占める割合は、日本(5%前後)よりも小さい。中国の人口は約14億人、日本の11倍以上です。なのに、株式市場で測ると日本以下。
「中国を投資対象として、自分はどう捉えるべきか」。これは個人的な見解ですが、ここ数年、私の中でずっとくすぶっていたテーマでした。「中国を避ける」のと「中国を理解する」のは、まったく別物です。投資家として、特に20年というやや長めの時間軸で資産形成をしてきた人間として、「よく分からないから避ける」では、子どもたちに胸を張れない気がしたのです。
そこで私は、改めて中国4000年の歴史を一通り学び直しました。司馬遷の『史記』、宮崎市定先生の中国史、近年の現代中国体制の解説書まで、夜な夜な読みあさりました。本記事は、その学び直しを通して「投資家としてどう中国を見るか」を、4児パパとして子どもたちに語るような気持ちでまとめたものです。
なお、これはあくまで個人の見解です。私は中国経済の専門家ではありませんし、政治評論家でもありません。「個別株として中国株を買え/買うな」と断定するつもりも一切ありません。あくまで一人のシングルファーザー投資家が、歴史から何を読み取り、自分の資産配分にどう活かしているか、というスタンスで読んでいただければ幸いです。
「4000年の歴史」は本当か?まず数字で確認する
よく「中国4000年の歴史」と言いますが、これは厳密には少し誇張があります。考古学的に王朝の実在が確認されているのは、紀元前16世紀ごろの殷(商)王朝以降。約3600年前です。それ以前の「夏王朝」は伝説の色合いが強く、実在性については学者の間でも議論があります。
ただ、文字記録(甲骨文字)が残り、連続した王朝交代の歴史が積み上がっているという意味で、世界的にもまれな長期記録を持つ文明であることは間違いありません。日本の有史(記紀から数えれば約1300年、考古学的にはもう少し古い)と比べても、その厚みは別格です。
投資家として面白いのは、ここからです。「4000年の歴史」という言葉に、私たちはつい「だから中国は底堅い」「だから将来も繁栄する」と連想しがちです。しかし、実際の中国史を丁寧に追っていくと、その印象はガラッと変わります。
中国主要王朝の通史をざっと一気通貫で見る
まずは、主要王朝を駆け足で並べてみます。子どもに説明するつもりで、なるべく平易にまとめます。
| 王朝 | 期間(概数) | 特徴・主要事件 |
|---|---|---|
| 夏 | BC2070頃〜BC1600頃 | 伝説上の最古王朝。実在性は議論中 |
| 殷(商) | BC1600頃〜BC1046頃 | 甲骨文字、青銅器文明、神権政治 |
| 周 | BC1046頃〜BC256 | 封建制、春秋戦国時代を生み出す |
| 秦 | BC221〜BC206 | 始皇帝の中華統一、わずか15年で崩壊 |
| 漢 | BC206〜AD220 | シルクロード、儒教国教化、約400年続く |
| 三国時代 | 220〜280 | 魏・呉・蜀。分裂と内戦の時代 |
| 晋・南北朝 | 265〜589 | 長期分裂、北方異民族の侵入 |
| 隋 | 581〜618 | 大運河建設、科挙制度、わずか37年 |
| 唐 | 618〜907 | 長安は世界最大級の国際都市、最盛期 |
| 五代十国 | 907〜960 | 再び大分裂 |
| 宋 | 960〜1279 | 経済・文化の黄金期、紙幣発明 |
| 元 | 1271〜1368 | モンゴル帝国による支配、初の異民族統一 |
| 明 | 1368〜1644 | 鄭和の大航海、その後鎖国化 |
| 清 | 1644〜1912 | 満州族支配、最大版図、アヘン戦争で衰退 |
| 中華民国 | 1912〜1949 | 辛亥革命、軍閥内戦、日中戦争、国共内戦 |
| 中華人民共和国 | 1949〜現在 | 文革、改革開放、世界第2位の経済大国へ |
こうして並べてみると、見えてくるパターンがあります。「統一→繁栄→腐敗→格差拡大→反乱→崩壊→分裂→次の統一」というサイクルです。中国史家の多くがこの循環パターンを指摘しています。
秦:たった15年で崩壊した「最強の統一国家」
始皇帝が中国を初めて統一した秦は、わずか15年で滅びました。度量衡の統一、文字の統一、万里の長城。やったことのスケールはすさまじいのですが、急激な改革と重税、苛烈な法治主義が反発を生み、陳勝・呉広の乱から一気に崩壊しました。
投資家として読み取れる教訓は、「短期間で急成長した組織は、内部の歪みも急速に蓄積する」ということです。これは個別株でも同じで、急成長企業のIPO後数年は、業績が良くてもガバナンスや内部統制で躓くケースをいくつも見てきました。
漢:約400年続いた長寿王朝、しかし真ん中で一度滅んでいる
漢は前漢(BC206〜AD8)と後漢(25〜220)に分かれます。間に王莽の「新」という短命王朝が挟まっています。教科書では「漢400年」とひとくくりにされがちですが、実際は一度滅びて復活した、と捉えるのが実態に近い。
「長く続いた」と言われる王朝でも、内部で何度も危機を経験している。これは「長期投資なら大丈夫」という素朴な発想への、ちょっとした警鐘でもあります。
唐:世界最大級の国際都市・長安の繁栄と安史の乱
唐の都・長安は、人口100万人を超え、ペルシャ人、アラブ人、日本人(遣唐使)、新羅人が行き交う国際都市でした。当時の世界GDPでも中国は圧倒的なシェアを持っていたと推定されています。
しかし755年、安史の乱が勃発。8年に及ぶ内戦で人口が激減し、唐は実質的に弱体化しました。「最盛期に見える時こそ、内部で爆発寸前の歪みが進行している」。投資家として、これはバブル末期の市場心理を考える上でも示唆的です。
宋:紙幣を発明した「世界最先端の経済国家」
宋は経済史的に特に面白い王朝です。世界初の紙幣「交子」を発行し、都市部の商業が爆発的に発達しました。GDPで見れば、当時の世界の半分以上を占めていたと推定する研究者もいます。
ところが、軍事的には弱く、北方の金、その後モンゴルに圧迫され続け、最終的には元に滅ぼされます。「経済大国=軍事大国」ではない、という現代にも通じるテーマがここにあります。
明・清:「世界一の富裕国」が産業革命に乗り遅れた
15世紀の明では、鄭和が大艦隊で東南アジア・インド洋・アフリカ東岸まで遠征しました。コロンブスより約90年早い大航海です。しかし明はその後、海禁政策(鎖国)に転じ、外向きのエネルギーを失います。
清の康熙帝・乾隆帝の時代(17〜18世紀)、中国は依然として世界最大の経済大国でした。経済学者アンガス・マディソンの推計では、1820年時点で中国は世界GDPの約33%を占めていたとされます。
しかし、その50年後にはアヘン戦争(1840年)で英国に敗れ、不平等条約を結ばされ、20世紀初頭には「眠れる獅子」どころか「列強の草刈り場」に転落します。
「世界GDPの3分の1を占める超大国が、わずか100年で植民地一歩手前まで転落する」。これは投資家として、絶対に忘れてはいけない事実だと私は思っています。
中華民国・中華人民共和国:100年間で2度のリセット
1912年の辛亥革命で清が倒れ、中華民国が成立。しかし軍閥割拠、日中戦争、国共内戦を経て、1949年に中華人民共和国が成立。さらに文化大革命(1966〜1976)で経済・文化が大きく停滞し、1978年の改革開放で再起動。そこからの約45年で世界第2位の経済大国にまで急成長しました。
つまり、20世紀の中国は「一度完全に近いリセットを受けた国」です。この破壊と再構築のダイナミクスは、日本のような連続性の高い国に住む私たちには、なかなか直感的に理解しにくいものです。
日本との比較:王朝交代がない国に住む私たち
日本は神話上、初代神武天皇から現在まで一系の天皇家が続いているとされます。実証的にも、少なくとも継体天皇以降1500年以上、王朝交代らしい交代は起きていません。これは世界史的にかなり珍しい。
その代わり、日本は「武家政権」が交代する形でダイナミズムを保ってきました。鎌倉幕府→室町幕府→江戸幕府→明治政府、というように。トップは天皇のまま、実権を持つグループが入れ替わる構造です。
中国は逆で、皇帝(王朝)そのものが入れ替わる。血筋も、出身民族も、首都の場所も、思想の重点も、王朝ごとにガラッと変わる。同じ「東アジアの大国」でも、内側の構造はかなり違うのです。
投資家として、私はこの違いを次のように捉えています。日本株は「同じプレイヤーが少しずつ変化していく市場」、中国株は「プレイヤーごと入れ替わるリスクがある市場」。どちらが良い悪いではなく、リスクの種類が違う、という理解です。
投資家が学ぶべき教訓1:永遠に強い国は存在しない
中国史を眺めて、まず突きつけられるのは「永遠の超大国は存在しない」というシンプルな事実です。
世界史を見渡しても同じです。ローマ帝国は約500年(西ローマまで)で崩壊。ビザンツ帝国を含めても約1500年。大英帝国は19世紀後半に世界のGDPの1割超を占めましたが、20世紀後半には植民地をほぼ全て失いました。ソ連は1922年に成立し、1991年に消滅。わずか69年です。
では、現在世界覇権を握るアメリカは?私は「アメリカも例外ではない」と考えています。ただし、これは「アメリカ株はもうダメ」という意味ではありません。「100年後、200年後も今のままの相対的優位を維持しているとは限らない」という意味です。
私が以前書いた「アメリカから学ぶ資産形成シリーズ第1話」でも触れたのですが、アメリカもまた、過去250年で何度も自己改革を繰り返してきた国です。歴史の長さで言えば、中国の足元にも及びません。それでも世界1位の経済大国であり続けている。これは奇跡ではなく、「過去250年の特殊事情」と捉えるべきだと私は考えています。
投資家が学ぶべき教訓2:国家にもライフサイクルがある
企業に成長期・成熟期・衰退期があるように、国家にもライフサイクルがあります。歴史人口学や、近年では大手ヘッジファンド創業者の著作などでも、国家興亡サイクルが定量的に論じられています。
大まかには「教育→技術革新→生産性向上→経済力→軍事力→基軸通貨→過剰債務→格差拡大→内部抗争→衰退」というサイクルが提示されています。中国史の王朝サイクルと驚くほど似ています。
これを投資家の自分に引き寄せると、こうなります。「いま絶好調の国に資産を集中させるのは、サイクル後期の国に集中投資することと同義になり得る」。
これは個人の見解ですが、だからこそ私は、特定国への集中投資を避け、全世界分散を主軸に据えています。サイクルのフェーズが異なる国を組み合わせることで、結果としてリスクが分散される、と考えるからです。
投資家が学ぶべき教訓3:歴史が長い国ほど「平均回帰」しやすい
3つ目の教訓は、少しテクニカルです。「歴史が長い国ほど、長期では平均回帰する」という仮説です。
中国は過去2000年間、GDPで世界1位だった期間が圧倒的に長い国です。1820年時点で世界GDPの約33%。それが20世紀半ばには5%未満まで落ち込み、現在は約18%まで戻ってきている。長期で見ると「世界の15〜30%」というレンジを行ったり来たりしている印象です。
日本も似ています。江戸時代、日本のGDPは世界の3〜4%程度。明治以降に大きく伸び、1980年代後半のバブル期には世界の15%超に達しました。現在は5%前後。長期で見ると「3〜10%」のレンジに収まっている印象です。
この「長期レンジ」を意識すると、「いまの時価総額比率が永遠に続く」という前提でポートフォリオを組むことの危うさが見えてきます。
個別株 vs 全世界分散:中国株への私のスタンス
では、私自身は中国株とどう付き合っているか。結論から言うと、「中国株を個別に買うことはしない。しかし、オルカン経由で結果として保有することは受け入れる」というスタンスです。
| アプローチ | 私の選択 | 理由 |
|---|---|---|
| 中国個別株 | 買わない | 政治リスク・情報非対称が大きすぎる |
| 中国ETF単体 | 買わない | 集中リスクが許容範囲を超える |
| オルカン経由(約3%) | そのまま保有 | 市場全体の判断を受け入れる |
| アンチ中国ETF | 買わない | 「逆張り」も一種の集中投資 |
「中国を避けるためにオルカンを売って先進国インデックスに切り替える」という選択肢もあります。実際、そうしている投資家も知っています。それも一つの見解として尊重します。
ただ私の場合、20年大家業をやってきた経験から、「自分の主観で『この国は危ない』『この地域は安全』と判断し続けるコストとリスク」を強く意識します。市場が決めた時価総額比率に乗っかる方が、長期では誤判断が少ない、というのが個人としての結論です。
借金・複利スタンスから見る中国
少し脇道にそれます。私は基本的に借金反対派です。住宅ローン以外の消費性負債は、長期では家計の複利を確実に蝕みます。借り手側の複利は、絶対に敵に回してはいけない。
ただ、事業性融資については別の見方をしています。「借入額+総借入コスト<期待リターン」が高い確度で成立するなら、借入は強力な武器になる。大家業20年で、私は何度かこの判断をしてきました。
中国はまさに、過去20年間、この「事業性レバレッジ」を国家規模で踏み込んだ国です。地方政府の融資平台、不動産デベロッパーの過剰債務、シャドーバンキング。これらが「期待リターン>借入コスト」だった間は、爆発的な成長を生みました。
しかし2020年代に入って、不動産バブル崩壊、大手デベロッパーの破綻、地方政府の財政難と、レバレッジの逆回転が始まっています。「借り手側の複利が敵に回り始めた」フェーズです。
これは中国を批判したいわけではなく、「事業性借入でも、サイクルが変わると地獄を見る」という普遍的な教訓として、私は子どもたちにも語り継ぎたいと思っています。
中国の不動産バブルと地方政府債務 ― 借り手側の複利が逆回転するとき
前の章で触れた「事業性レバレッジの逆回転」について、もう少し具体的に掘り下げてみます。ここは20年間、自分のお金と借入で大家業をやってきた人間として、どうしても他人事に思えない領域だからです。あらかじめお断りしておくと、以下はあくまで個人の見解であり、特定の企業や国の信用力を断定するものではありません。
2020年代に入って、中国の大手不動産デベロッパーが相次いで資金繰りに行き詰まりました。報道ベースで知られているとおり、巨額の負債を抱えた企業の経営危機が連鎖的に表面化し、建設途中で止まったマンション、いわゆる「爛尾楼(らんびろう)」の問題まで広がりました。私はこのニュースを見たとき、規模はまったく違えど、構造そのものは自分が大家業で日々意識していることと同じだと感じました。
不動産投資の本質は、「家賃などの期待リターンが、借入元本と総借入コスト(利息+諸経費)を上回り続けるか」というシンプルな問いに集約されます。地価が右肩上がりで、売れば必ず利益が出る局面では、借りれば借りるほど資産が膨らみます。これが「借り手側の複利が味方についている」状態です。ところが、地価の上昇が止まり、空室や値下がりが現実になると、同じレバレッジが今度は損失を増幅させる方向に働きます。これが「逆回転」です。
融資平台(LGFV)という、もう一つの借り手
個人的にもう一つ注目しているのが、地方政府の資金調達を担ってきた「融資平台(地方政府融資平台、LGFV)」と呼ばれる仕組みです。詳細はシリーズ第10話で改めて掘り下げる予定ですが、ごく大づかみに言えば、地方政府が直接は借りにくいお金を、傘下の投資会社を通じてインフラ開発などのために調達してきた構造です。
土地を担保に資金を借り、インフラを整備し、地価を上げ、その土地を売って次の開発資金にする。この循環が回っている間は、地方の経済も統計上は華やかに伸びます。しかし、土地が思うように売れなくなった瞬間、借入の返済原資が細り、利払いだけが重くのしかかってくる。これもまた「借り手側の複利の逆回転」の一形態だと、私は理解しています。
大家として実感を込めて言えば、レバレッジの怖さは「絶好調のときほど、自分が無敵に思えてしまう」点にあります。家賃が満室で入ってくる時期は、追加で物件を買い増したくなる。でも、その判断を続けた結果、サイクルが変わったときに身動きが取れなくなる。国家規模でも、個人の家計でも、この心理メカニズムは驚くほど共通している、というのが私の見立てです。
繰り返しますが、これは「だから中国は終わりだ」という崩壊論ではありません。巨大な国は、こうした問題を抱えながらも、政策や時間をかけて調整を進めていくものです。私が言いたいのは、「事業性融資は強力な武器だが、武器であるがゆえに、サイクルの読み違いは規模に比例した痛みを生む」という、借り手側の普遍的なリスクです。子どもたちが将来、住宅ローンや事業の借入を考えるときに、まず思い出してほしいのは、この一点です。
日本のバブル崩壊との相似 ― 投資家として冷静に比較する
中国の不動産問題を見ていると、どうしても1990年前後の日本のバブル崩壊が頭をよぎります。私自身はバブル期にはまだ子どもで、当事者として相場を張っていたわけではありません。ですが、大家業を始めてから、過去の不動産サイクルを徹底的に勉強する中で、当時の日本と現在の中国には、いくつも共通点があると感じるようになりました。もちろん、これも一人の投資家の個人的な比較であって、両者がまったく同じ道をたどると断定するものではありません。
共通点 ― 地価神話とレバレッジの全面展開
まず共通点を整理します。一つ目は「土地(不動産)の価格は長期的に上がり続ける」という、いわゆる地価神話の存在です。日本のバブル期には「土地は絶対に下がらない」という空気が社会全体を覆い、企業も個人も借入で不動産を買い進めました。中国でも、長く続いた経済成長を背景に、住宅は資産として持つもの、値上がりするものという感覚が広く共有されてきたと言われます。
二つ目は、家計や企業、地方の主体が、相当なレバレッジを不動産に集中させた点です。前章で触れたとおり、借り手側の複利が味方についている局面では、レバレッジは富を加速させます。日本も中国も、その加速を社会全体で享受した時期があった、という点は共通していると私は見ています。
| 観点 | 1990年前後の日本 | 2020年代の中国 |
|---|---|---|
| 共通する空気 | 「土地は下がらない」地価神話 | 住宅は値上がりする資産という前提 |
| レバレッジ | 企業・個人が借入で不動産取得 | デベロッパー・地方・家計の不動産集中 |
| 人口動態 | 生産年齢人口がピークを迎える時期 | 少子高齢化と人口減少局面入り |
| 政策対応 | 急激な金融引き締め後の長期停滞 | 段階的な調整を模索中(現在進行形) |
相違点 ― 同じには語れない理由
一方で、安易に「中国は日本の二の舞になる」と決めつけるのは、投資家として雑すぎると私は考えています。相違点も少なくありません。
一つは、政治・経済の体制がそもそも違うことです。日本は市場メカニズムと民主的な政策決定のもとでバブルとその崩壊を経験しました。中国は、政府が市場へより強く介入できる体制を持っています。これが調整をスムーズにする方向に働くのか、それとも問題を見えにくくして先送りするのか。ここは私には断定できませんし、専門家の間でも見方が分かれる論点です。
もう一つは、発展段階の違いです。バブル崩壊時の日本はすでに成熟した先進国で、一人当たりGDPは世界トップクラスでした。現在の中国は、地域差が極端に大きく、沿海部の都市は先進国並みでも、内陸部にはまだ発展余地が大きい地域が残っています。「伸びしろ」が残っているかどうかは、崩壊後の回復力を左右する重要な変数だと、私は捉えています。
では、この比較から投資家として何を持ち帰るか。私の結論はやはり「全世界分散」に戻ってきます。日本のバブル崩壊を経験した投資家がよく口にするのは、「日本株だけに集中していた人ほど、その後の30年で取り返しのつかない差がついた」という教訓です。一つの国の地価神話に資産の大半を賭けることの危うさ ― これは日本でも中国でも、そして将来のどの国でも共通する、と私は考えています。サイクルのフェーズが違う国を組み合わせておけば、どこか一国のバブル崩壊が、自分の資産全体を致命傷にする確率を下げられる。これが、二つのバブルを冷静に並べて見たうえでの、私なりの実務的な答えです。
4児パパとして子に伝えたいこと
うちには4人の子どもがいます。上は中学生、下は小学校低学年。「中国どう思う?」と聞くと、ニュースで見たイメージの断片を口にします。良い印象も悪い印象もごちゃ混ぜです。
私は子どもたちにこう伝えています。「中国を好きとか嫌いとか、すごいとか終わってるとか、そういう二択で語らない方がいい。4000年も続いてきて、いまも14億人が暮らしている、巨大で複雑な国だ。理解する努力をしながら、付き合っていく相手だ」と。
これは投資の話だけではなく、生き方の話でもあります。複雑なものを単純化したい誘惑に、私たちは常にさらされています。「中国すごい論」も「中国崩壊論」も、その誘惑への屈服の一形態だと、私は感じています。
妻が生きていたら、おそらく同じことを言っていたと思います。彼女は「白黒つける前に、もう一段詳しく見ようよ」が口癖の人でした。
関連記事と次回予告
本シリーズと並行して、ぜひ読んでいただきたい記事を紹介します。
- アメリカから学ぶ資産形成シリーズ第1話:250年で世界覇権を握った国の特殊事情を整理しました。中国史と対比すると、見え方が変わります
- 子ども4人の教育費総額を年度別一覧表で試算:長期の資産形成を考える出発点として
本記事は、中国シリーズ全15話の第1話です。今後の予定はこんな感じです。
- 第2話:中国はなぜ何度も繁栄と崩壊を繰り返すのか?
- 第3話:シルクロードと宋代経済から学ぶ「貿易立国」の本質
- 第4話:科挙制度と人材登用 ― 投資家としての「目利き」の鍛え方
- 第5話:明の海禁政策と「鎖国」のコスト
- 第6話:アヘン戦争 ― 世界一の富裕国が転落した瞬間
- 第7話:文化大革命の経済学的読み解き
- 第8話:改革開放と、日本のバブル崩壊の同時進行
- 第9話:中国不動産バブルの構造
- 第10話:地方政府融資平台と「隠れ債務」
- 第11話:人民元国際化はどこまで進むか
- 第12話:台湾海峡リスクをポートフォリオでどう扱うか
- 第13話:中国EV・半導体産業の競争力を冷静に評価する
- 第14話:日中関係200年史 ― 投資家の視点で
- 第15話:シリーズ総括 ― 4児パパの中国との付き合い方
シリーズ第2話:中国はなぜ何度も繁栄と崩壊を繰り返すのか? ― 王朝サイクルの構造を、投資家視点で深掘りします。 へ続く
おわりに
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。本記事はあくまで個人の見解であり、特定の投資判断を推奨するものではありません。中国株であれ、オルカンであれ、最終的な投資判断はご自身の責任とリスク許容度に応じて行ってください。
子どもたちが大人になった時、「中国とどう付き合うか」は、私の世代以上に重要なテーマになっているはずです。その時に、感情論ではなく歴史と数字をベースに考えられる大人に育って欲しい。一人のシングルファーザー投資家として、そう願いながら、この記事を書きました。
次回もお付き合いいただければ嬉しいです。それでは、また。


