子どもたちを一人で育てるようになってから、私の頭の片隅にはずっとある不安がありました。それは「もし自分の身に何かあったら、この子たちはどうなるのか」という問いです。親権者が自分しかいないという状況は、日々の忙しさに紛れて意識しないようにしていても、ふとした瞬間に重くのしかかってきます。子どもの入学説明会で「保護者は必ず一名以上ご記入ください」という欄を見たとき、役所で「親権者の署名」を求められたとき、そのたびに「この署名欄に自分以外の名前を書ける人がいない」という現実を突きつけられました。
あるとき、知人が急な病で入院し、その子どもの親権を巡って親族間で話し合いが難航したという話を耳にしたことがきっかけで、私は初めて「未成年後見人」という制度をきちんと調べるようになりました。調べてみると、親権者が一人しかいない家庭にとって、この制度への備えは決して特殊な話ではなく、むしろ最優先で取り組むべき課題だと分かってきました。
私には4人の子どもがいます。年齢も学年もそれぞれ異なり、進学のタイミングも、必要になる養育費や教育費の規模も一人ひとり違います。もし自分に何かあったとき、この子たちの生活と財産を誰にどう託すのかを具体的に決めておかなければ、いざというときに子どもたちを守れないという危機感が、制度を調べ、実際に準備を進める大きな動機になりました。今回は、その中で学んだ制度の仕組みと、実際に私が準備を進めた内容を、一般的な情報としてまとめておきたいと思います。
未成年後見人とは何か——親権者が一人の家庭で特に重要な理由
未成年後見人とは、親権者が死亡したり、何らかの理由で親権を行うことができなくなったりした場合に、未成年の子どもに代わって法律行為を行い、身の回りの世話(身上監護)や財産の管理を担う人のことです。民法第838条では、未成年者に対して親権を行う者がいないとき、または親権を行う者が管理権を有しないときに、未成年後見が開始すると定められています。
両親がそろっている家庭であれば、片方の親が亡くなっても、もう一方の親が親権者として子どもを育て続けることができます。しかし、親権者が自分一人しかいない家庭の場合、その親に万一のことがあれば、法律上、子どもには親権者が誰もいない状態になってしまいます。この場合、家庭裁判所が未成年後見人を選任する手続きに入りますが、あらかじめ後見人の指定がなければ、誰が後見人になるかは家庭裁判所の判断に委ねられることになります。
ここで重要なのが、民法第839条に定められた「遺言による未成年後見人の指定」という制度です。親権者が生前に遺言書の中で後見人を指定しておけば、家庭裁判所の職権による選任を待たずに、指定された人がそのまま未成年後見人になります。つまり、誰に子どもを託すかを自分の意思で決めておけるということです。両親がそろっている家庭では利用される機会が少ないこの制度ですが、親権者が一人しかいない家庭にとっては、子どもの将来を左右する極めて重要な備えになります。
遺言による指定がないまま親権者が親権を行えなくなった場合、家庭裁判所は子どもや親族等の申立てに基づいて未成年後見人を選任します。この場合、家庭裁判所は子どもの利益を最優先に候補者の適格性を審理しますが、審理には一定の期間を要し、その間、子どもの財産管理や重要な契約行為(進学に伴う契約、保険の手続きなど)が一時的に滞ってしまう可能性があります。また、申立てをする親族がいなければ、そもそも手続きが始まらないという事態も起こり得ます。遺言による指定は、こうした空白期間そのものを生じさせないための備えでもあります。
| 家庭の状況 | 親権者に万一のことがあった場合 |
|---|---|
| 両親がそろっている家庭 | もう一方の親が親権者として子育てを継続できる |
| 親権者が一人の家庭(遺言による指定なし) | 家庭裁判所が職権で未成年後見人を選任(誰になるか事前に確定しない) |
| 親権者が一人の家庭(遺言による指定あり) | 指定された人がそのまま未成年後見人に就任できる |
遺言による未成年後見人の指定方法
未成年後見人の指定は、遺言書の中に「未成年後見人として〇〇(氏名、住所、生年月日など)を指定する」という条項を記載することで行います。指定できるのは、親権を行う親のうち最後に親権を行う者に限られており、なおかつその人が管理権を持っていることが条件です。指定する人数に法律上の制限はなく、複数名を指定することも、優先順位をつけて第一候補・第二候補という形で指定することも可能です。
実務上のポイントとして、遺言書に記載する際は次のような情報を明確にしておくことが望まれます。
| 記載すべき情報 | 理由 |
|---|---|
| 後見人候補者の氏名・住所・生年月日・続柄 | 本人特定を確実にし、就任手続きを円滑にするため |
| 後見人となることへの事前の承諾の有無 | 指定後に本人が拒否すると後見人不在の状態に戻るため |
| 複数候補者がいる場合の優先順位 | 第一候補が就任できない場合に備えるため |
| 財産管理を担う人と身上監護を担う人を分けるかどうか | 役割分担を明確にし、負担の偏りを避けるため |
なお、遺言による指定があっても、その効力が生じるのは遺言者が死亡した時点です。指定を受けた人は、その事実を知った後、原則として10日以内に未成年後見人になったことを市区町村役場に届け出る義務があります。この届出によって、初めて戸籍上も後見人であることが公示される仕組みになっています。
未成年後見監督人の役割
未成年後見人の権限は非常に大きく、子どもの財産をほぼ自由に管理できる立場になります。そのため、後見人の権限濫用を防ぐ目的で「未成年後見監督人」という役職が用意されています。未成年後見監督人は、後見人の事務を監督し、財産目録の作成に立ち会い、後見人が子どもの財産と重大な利害関係にある行為(たとえば後見人自身が子どもの不動産を買い取るなど)をする際には、本人に代わって子どもの利益を代表する役割を担います。
未成年後見監督人も、未成年後見人と同様に遺言で指定することができます。特に、後見人候補者が親族で財産管理に不慣れな場合や、後見人候補者と子どもの財産上の利害が将来的に対立しうる場合には、監督人を別途指定しておくことで、後見事務の透明性を高めることができます。監督人には、後見人とは別の親族を指定することも、行政書士や司法書士、弁護士といった専門職を指定することも可能です。
実務上は、家庭裁判所が後見人選任の際に、必要と判断すれば職権で未成年後見監督人を選任することもあります。遺言で監督人まで指定していなくても直ちに問題になるわけではありませんが、財産規模が大きい場合や、後見人候補者が複数の子どもを一括して見る予定がある場合には、監督人の指定もあわせて検討する価値があります。
未成年後見監督人の具体的な職務としては、後見人が年に一度提出する財産目録や収支報告のチェック、後見人が子どもの財産を処分する重要な行為(不動産の売却、多額の借財など)を行う際の同意、そして後見人が欠けた場合や不適任と判断された場合に家庭裁判所へ後任候補を意見具申することなどが挙げられます。専門職を監督人に指定する場合は、後見人と同様に報酬が発生するのが一般的で、財産規模に応じて家庭裁判所が報酬額を決定します。監督人を置くことで事務コストは増えますが、その分だけ後見人一人に責任と判断が集中する状態を避けられるという利点があります。
後見人候補者の選び方——親族後見人と専門職後見人
後見人候補者を選ぶ際に多くの人が最初に考えるのは、自分の親(子どもから見た祖父母)や、きょうだい、あるいは配偶者の親族といった身近な親族です。子どもにとって顔なじみであり、生活環境の連続性を保ちやすいという利点がありますが、一方で次のような点も検討しておく必要があります。
| 候補 | メリット | 留意点 |
|---|---|---|
| 祖父母 | 子どもとの関係が深く、情緒的な安定を保ちやすい | 年齢的に長期の後見事務に対応できるか、体力・健康面の見通し |
| おじ・おば(親のきょうだい) | 比較的若く、長期にわたり対応しやすい | 自身の家庭や仕事との両立、財産管理の経験の有無 |
| 専門職後見人(弁護士・司法書士等) | 財産管理・法律事務を適正に処理できる | 報酬が発生する、子どもとの日常的な関わりは持ちにくい |
| 親族+専門職の組み合わせ | 身上監護は親族、財産管理は専門職と役割分担できる | 両者の連携・情報共有の仕組みが必要 |
専門職後見人を選ぶ場合、家庭裁判所への報酬付与の申立てを通じて、子どもの財産から報酬が支払われるのが一般的です。報酬額は財産規模や事務の複雑さによって家庭裁判所が個別に判断しますが、目安として月額1万円から数万円程度になるケースが多いとされています。財産が大きい家庭では、専門職に財産管理を任せ、日常の身上監護は信頼できる親族が担うという分離型の指定が、双方の負担を軽減する現実的な選択になり得ます。
候補者を決めるにあたっては、必ず本人の事前の意思確認をしておくことが欠かせません。遺言書に一方的に名前を記載しても、いざというときに本人が就任を辞退すれば、結局は家庭裁判所による選任手続きに戻ってしまいます。私自身も、候補として考えた親族には事前に率直に事情を話し、引き受ける意思があるかどうかを確認したうえで遺言書の記載を進めました。
子どもが複数いる家庭では、後見人を一人にまとめるか、子どもごとに分けるかという判断も必要になります。私の場合は4人の子どもがいますが、きょうだいがバラバラの家庭で育つことによる負担の大きさを考え、後見人は一人(または夫婦)にまとめ、身の回りの世話は一括して担ってもらい、財産管理の部分だけを専門職に分担してもらう形を選びました。兄弟姉妹を同じ環境で育てられるかどうかは、候補者の住居事情や家族構成にも左右されるため、早い段階で率直に相談しておくことが大切だと感じています。
遺言書の種類と選び方——自筆証書遺言と公正証書遺言
未成年後見人を指定する遺言書には、大きく分けて自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類があります。それぞれの特徴を整理すると、次のようになります。
| 比較項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 |
|---|---|---|
| 作成方法 | 全文・日付・氏名を自筆し押印(財産目録は自書でなくても可) | 公証人が遺言者からの口述をもとに作成 |
| 費用 | ほぼ無料(法務局保管制度利用時は1件3,900円) | 財産額に応じて数万円〜十数万円程度 |
| 証人 | 不要 | 証人2名が必要 |
| 紛失・改ざんリスク | 保管制度を使わない場合はリスクあり | 原本を公証役場が保管するため極めて低い |
| 家庭裁判所の検認 | 必要(法務局保管制度利用時は不要) | 不要 |
| 形式不備で無効になるリスク | 比較的高い | 公証人が関与するため低い |
未成年後見人の指定という重要な事項を扱う以上、私は形式不備のリスクが低く、原本が公的に保管される公正証書遺言を選びました。自筆証書遺言でも2020年から始まった法務局による自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、紛失・改ざんのリスクや検認手続きの手間はかなり軽減されますが、それでも文言の不備によって指定条項自体が無効と判断されるリスクはゼロにはなりません。子どもの将来に直結する条項だからこそ、公証人という専門家の目を通しておくことに意味があると考えました。
公正証書遺言の作成費用は、目的財産の価額に応じて公証人手数料令で定められています。目安として、財産額が500万円までなら手数料は11,000円程度、1,000万円までなら17,000円程度、3,000万円までなら23,000円程度が基準となり、これに遺言加算(財産総額1億円以下の場合11,000円)や、正本・謄本の交付手数料が加算されます。複数の子どもにそれぞれ財産を分ける場合は、各相続人ごとの取得額を基準に手数料を合算して計算するため、事前に公証役場や専門家に見積りを確認しておくと安心です。
実際に準備を進めた際の流れ
私が公正証書遺言を作成した際の大まかな流れは、次のようなものでした。まず後見人候補者となる親族に事情を説明し、承諾を得ました。次に、財産の一覧(預貯金、不動産、保険、投資性資産など)を整理し、誰にどの財産を残すか、後見人と後見監督人を誰にするかという大枠を紙に書き出しました。そのうえで公証役場に相談の予約を入れ、必要書類(戸籍謄本、印鑑証明書、財産に関する資料など)を準備し、証人2名を手配したうえで、公証人との事前打ち合わせを経て、最終的に公証役場で遺言書を作成しました。準備から作成完了までは、書類の収集も含めておよそ1か月から2か月程度かかりました。
財産管理と身上監護を分けて指定するという考え方
未成年後見人の職務は、大きく「財産管理」と「身上監護」の2つに分けられます。財産管理は、子ども名義の預貯金や不動産、保険金といった財産を管理し、必要な支出を行う職務です。身上監護は、子どもの日常生活、教育、医療といった身の回りの世話に関する意思決定を行う職務です。
法律上、未成年後見人はこの両方を一人で担うのが原則ですが、遺言による指定の際に、財産管理を担う人と身上監護を担う人をあえて分けて指定するという工夫も可能です。たとえば、日々の子育てや進路の判断は同居してくれる親族に、まとまった財産の管理は専門職や信頼できる別の親族に、というように役割を分散させることで、一人の後見人にかかる負担を軽減し、財産管理の透明性を高めることができます。
個人事業主として20年、投資家として20年、兼業大家として20年という時間の中で、私は事業用の預貯金、株式や投資信託などの金融資産、賃貸用の不動産といった、性質の異なる複数の財産を保有するようになりました。これらをすべて一人の後見人に管理してもらうのは現実的に難しいと感じ、日常生活に関わる部分は身近な親族に、不動産や投資性資産の管理は専門職に委ねる形で分離を検討しました。財産の種類が多い家庭ほど、この分離指定の効果は大きくなると感じています。
特に賃貸用の不動産は、入居者対応、修繕の判断、賃貸借契約の更新といった専門的な事務が継続的に発生します。身の回りの世話を担う親族にこうした事務まで背負わせるのは現実的ではないため、不動産管理会社との契約を維持しつつ、収支の最終確認や大きな意思決定だけを財産管理担当の後見人が行う体制を想定しています。投資性資産についても同様で、相場の変動に応じた売買判断を後見人自身が行うのではなく、証券会社や運用アドバイザーとの契約を維持したまま、大枠の方針だけを後見人が確認する形にしておけば、専門知識がない後見人でも対応しやすくなります。
生命保険金の受取人指定と後見制度支援信託
子どもの将来の生活費や教育費を確保する手段として、生命保険は多くの家庭で活用されています。ここで注意しなければならないのが、生命保険金の受取人を未成年の子ども自身に指定した場合、保険金は法律上、後見人が管理する子どもの財産になるという点です。後見人が適切な人であれば問題ありませんが、万一、後見人による財産の使い込みなどが起きた場合、子どもが本来受け取るはずだった保険金が目減りしてしまうリスクもゼロではありません。
このリスクに備える手段の一つが「後見制度支援信託」です。これは、後見人が日常的に使う分の金銭は手元に残し、まとまった金額は信託銀行等に信託しておく仕組みで、信託財産の払い出しや解約には家庭裁判所が発行する指示書が必要になります。これにより、後見人が単独で高額な財産を動かすことができなくなり、財産の使い込みリスクを構造的に抑えることができます。未成年後見の場面でも、財産規模が大きい場合には家庭裁判所からこの制度の利用を促されることがあります。
| 財産保全の手段 | 仕組みの概要 |
|---|---|
| 後見制度支援信託 | 信託銀行等に財産の大部分を信託し、払い出しに家庭裁判所の指示書を必要とする |
| 後見制度支援預貯金 | 信託銀行以外の金融機関でも利用できる同様の仕組み |
| 未成年後見監督人の設置 | 後見人の事務全般を第三者が継続的にチェックする |
| 生命保険金の受取人を後見監督人付きで指定 | 受取人指定時に監督体制をあわせて整えておく |
私自身は、加入している生命保険の受取人を子どもに指定したうえで、未成年後見監督人も遺言で指定し、さらに財産規模を踏まえて後見制度支援信託の利用も候補者と共有しておくことにしました。保険会社によっては、受取人が未成年者の場合の取り扱いについて相談窓口を設けているところもあるため、契約内容を見直す際にあわせて確認しておくとよいと思います。
子どもが複数いる家庭では、保険金の受取割合をどう設定するかも検討が必要です。均等に分けるのか、年齢や今後にかかる教育費の見込みに応じて傾斜をつけるのかによって、将来受け取る金額は大きく変わってきます。私の場合は、末の子ほど成人までの養育期間が長くなることを踏まえ、単純な均等割ではなく、年齢に応じた按分を検討しました。こうした細かい配分の考え方も、契約時に保険会社や専門家に相談しながら決めていくとよいと思います。
遺言執行者の指定という、もう一つの論点
未成年後見人の指定とあわせて検討しておきたいのが「遺言執行者」の指定です。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために不動産の名義変更や預貯金の解約・払い戻し、株式や投資信託の移管手続きなど、相続財産に関する具体的な事務を行う人のことです。未成年後見人が子どもの身上監護や財産の日常的な管理を担うのに対して、遺言執行者は遺言に基づく相続手続きそのものを進める役割であり、両者は法律上まったく別の立場です。
遺言執行者を指定していない場合、相続人(この場合は未成年の子ども)や利害関係人が家庭裁判所に選任の申立てをしなければならず、その間、預貯金の解約や不動産の名義変更が進まないという事態が起こり得ます。子どもが未成年である以上、相続手続きの当事者として実際に動けるのは法定代理人である未成年後見人ですが、後見人選任そのものにも時間がかかることを考えると、遺言執行者を遺言書の中であらかじめ指定しておくことで、相続手続き全体の停滞を防ぐ効果があります。
実務上は、未成年後見人候補者と遺言執行者を同一人物にすることも、あえて別にすることも可能です。財産の種類が多く手続きが煩雑になりそうな場合は、相続手続きの実務に慣れた専門職(弁護士・司法書士・行政書士など)を遺言執行者に指定し、未成年後見人には身近な親族を充てるという組み合わせも、実務上よく採られる方法の一つです。私自身も、財産の名義変更や解約手続きが多岐にわたることを踏まえ、遺言執行者には専門職を指定し、後見人候補者の事務負担を相続手続きの部分だけでも軽減できるようにしました。
未成年後見人の指定を怠った場合に起こり得ること
制度を調べる過程で、専門家への相談や公開されている事例解説を通じて、遺言による指定がないまま親権者が親権を行えなくなった場合に、実際にどのような支障が生じ得るのかを整理する機会がありました。よくある一般的なパターンをまとめると、次のようなものが挙げられます。
| 起こり得る事態 | 背景 |
|---|---|
| 後見人選任までの間、子ども名義の預貯金が動かせない | 法定代理人が不在の状態では金融機関が払い戻しに応じられないため |
| 候補になり得る親族が複数いて選任が難航する | 誰が適任かについて親族間の意見がまとまらないため |
| そもそも申立てをする親族がおらず手続きが始まらない | 未成年後見人選任の申立ては親族等からの申立てが前提となるため |
| 選任された後見人が財産管理に不慣れで事務が滞る | 専門知識のない親族が単独で不動産・金融資産を管理することになるため |
| きょうだいが別々の環境に分かれて育つことになる | 候補者の住居事情により、まとめて引き取ることが難しい場合があるため |
これらはいずれも、遺言による事前の指定があれば防げた、あるいは軽減できた可能性がある事態です。特に、子ども名義の預貯金が一時的に動かせなくなるという点は見落とされがちですが、学費の振込や生活費の支出が滞ることにも直結するため、親権者が一人しかいない家庭では軽視できないリスクだと感じています。
後見人報酬・後見制度支援信託の費用シミュレーション
専門職後見人や後見監督人を指定する場合、報酬が発生することは先に触れたとおりですが、これを長期で見るとどの程度の金額になるのか、目安として試算しておくことは実務上の判断材料になります。あくまで一般的な報酬相場をもとにした概算であり、実際の金額は家庭裁判所が財産規模や事務の複雑さを踏まえて個別に決定します。
| 財産規模の目安 | 月額報酬の目安 | 10年間の累計目安 |
|---|---|---|
| 1,000万円未満 | 1万円〜2万円程度 | 120万円〜240万円程度 |
| 1,000万円〜5,000万円 | 3万円〜4万円程度 | 360万円〜480万円程度 |
| 5,000万円以上 | 5万円〜6万円程度 | 600万円〜720万円程度 |
子どもが成人するまでの期間が長ければ長いほど、専門職への報酬は累積で大きな金額になります。たとえば財産規模が5,000万円以上の家庭で、成人までの期間が10年続いた場合、報酬だけで600万円を超える計算になり得ます。この試算を踏まえると、専門職に財産管理のすべてを委ねるのではなく、日常的な支出は親族後見人が担い、大きな意思決定や年に一度の収支報告のチェックだけを専門職に依頼するといった役割分担によって、報酬総額を抑えつつ財産管理の透明性を確保するという選択肢も現実的です。
後見制度支援信託を利用する場合の費用感についても触れておきます。信託銀行に財産を信託する際の手数料は金融機関によって異なりますが、信託時の手数料が数万円程度、その後の口座維持については無料とする金融機関が多いとされています。専門職後見人に長期間の財産管理をすべて依頼するよりも、信託の仕組みを併用したほうが、結果的にトータルの費用を抑えられるケースもあるため、報酬体系と信託手数料の両方を比較したうえで組み合わせを検討することをおすすめします。
よくある疑問(Q&A)
Q1. 複数の子どもがいる場合、未成年後見人は一人にまとめる必要がありますか
法律上、子どもごとに別々の後見人を指定することも、一人(または夫婦)にまとめて指定することも可能です。まとめる場合は、後見人一人にかかる事務負担や責任が大きくなる点に注意が必要です。分ける場合は、きょうだいが別々の環境で育つことになりやすく、生活の連続性という観点での検討が必要になります。どちらが望ましいかは、候補者の生活環境や財産の規模によって変わるため、候補者本人と率直に話し合ったうえで決めることが望ましいと感じています。
Q2. 遺言で指定した後見人が、いざというときに就任を辞退することはできますか
できます。未成年後見人への就任は義務ではなく、指定された人が家庭裁判所に対して就任を承諾しない意思を示せば、就任義務は生じません。この場合、家庭裁判所が改めて後見人を選任する手続きに入ることになります。だからこそ、遺言書に名前を記載する前に、候補者本人へ事前に事情を説明し、引き受ける意思があるかどうかを確認しておくことが欠かせません。
Q3. 未成年後見人は、自分の財産から子どもの生活費を負担する義務がありますか
いいえ、未成年後見人が自分の財産から子どもの生活費を負担する法律上の義務はありません。子どもの生活費や教育費は、原則として子ども自身の財産(親権者から相続した財産や、生命保険金など)の中から支出されます。後見人は、あくまでその財産を子どもの利益のために適切に管理・支出する立場であり、自己負担が発生する制度ではないという点は、候補者に説明しておくと安心材料になります。
Q4. 未成年後見人を指定した遺言書は、一度作成すれば内容を変更できませんか
遺言書は何度でも作り直すことができます。後から作成した遺言書のうち、前の遺言と抵触する部分については、後の遺言が優先されます。子どもの成長や候補者側の生活環境の変化に応じて、後見人や後見監督人の指定内容、財産の分配方法を見直し、必要であれば新しい遺言書を作成し直すことが可能です。定期的な見直しを前提に考えておくことが実務上は現実的です。
Q5. 未成年後見人と、子どもの日常的な世話をする人(事実上の同居親族)は同じでなければなりませんか
必ずしも同じである必要はありません。未成年後見人は法律上の権限と義務を持つ立場ですが、実際の日常生活の世話については、後見人の監督のもとで他の親族が協力する体制をとることも可能です。ただし、法律行為(契約締結や財産処分など)についての最終的な責任は後見人が負うことになるため、日常の世話をする人と後見人との間で、事前に役割と情報共有の方法をすり合わせておくことが望ましいといえます。
まとめ
親権者が一人しかいない家庭にとって、未成年後見人の指定と遺言書の準備は、決して先延ばしにしてよい課題ではありません。制度としての未成年後見人・未成年後見監督人の役割、遺言による指定の方法、自筆証書遺言と公正証書遺言それぞれの特徴、財産管理と身上監護の分離、生命保険金の受取人指定と後見制度支援信託といった仕組みを一つずつ理解し、自分の家庭の状況に合わせて組み合わせていくことが、子どもの将来を守る具体的な備えになります。
大切なのは、候補者本人との事前の対話を欠かさないこと、財産の内容を定期的に見直すこと、そして一度作った遺言書も子どもの成長や家族関係の変化に応じて更新していくことです。制度は複雑に見えても、一つひとつ整理していけば、決して手の届かないものではありません。
子どもの年齢が上がれば必要な養育費や教育費の見込みも変わりますし、候補者側の家庭環境や健康状態も年月とともに変化します。私は少なくとも数年に一度、遺言書の内容と財産状況、候補者の意向を見直すタイミングを決めておくようにしています。一度準備をして終わりにするのではなく、家族の状況に合わせて更新し続けることこそが、この備えを実効性のあるものにする鍵だと感じています。
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本記事は、未成年後見制度や遺言書の準備に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の法律相談やアドバイスを行うものではありません。実際に遺言書を作成する際や、後見人・後見監督人の指定、生命保険金の受取人設定などを検討する際には、弁護士、司法書士、公証人、税理士、ファイナンシャルプランナーといった専門家に個別の状況を相談したうえで進めることを強くおすすめします。


