就業不能保険は必要か|個人事業主の収入保障の考え方

就業不能保険は必要か|個人事業主の収入保障の考え方 保険・教育費

「もし僕が病気やケガで働けなくなったら、この家族の生活費は誰が払うのか」——個人事業主として20年、投資家として20年、兼業大家として20年やってきた中で、何度も繰り返し考えてきたテーマです。会社員であれば健康保険から傷病手当金が出ますが、個人事業主にはその仕組みがありません。この不安につけ込む形で、就業不能保険・所得補償保険という「働けなくなったときの収入」を守る保険が数多く売られています。結論から言うと、僕自身はこれらの保険には加入していません。傷病手当金がないという構造的なリスクは事実として認めたうえで、それを保険料としてではなく、生活防衛資金と複数の収入源で備えることにしたからです。今日は、4人の子を育てる個人事業主として、僕がどう考えてこの結論にたどり着いたかを、できるだけ具体的な数字とともに整理します。

  1. 個人事業主に「傷病手当金」がない、という現実
  2. 就業不能保険と所得補償保険は何が違うのか
    1. 就業不能保険(生命保険会社の商品)
    2. 所得補償保険(損害保険会社の商品)
  3. 保険料はどれくらい?年代・保障月額別の目安
  4. 免責期間60日をどう考えるか
    1. なぜ免責期間があるのか
  5. 小規模企業共済・貯蓄との役割分担
    1. 小規模企業共済は「休業保障」ではない
  6. 必要保障額は生活費から逆算する
    1. ステップ1:固定費を洗い出す
    2. ステップ2:事業の固定費も忘れずに加える
    3. ステップ3:公的保障・既存資産で埋まる部分を差し引く
  7. 4人の子を育てる個人事業主として僕が出した結論
  8. 確定申告における保険料の取り扱いと見直しのタイミング
    1. 保険料控除の区分を契約時に確認する
    2. 保険料は「事業経費」にはできない
    3. 収入・家族構成の変化に合わせた定期的な見直し
  9. 就業不能保険で給付対象外になりやすいケースを事前に確認する
    1. 精神疾患は「別枠」で判断されることが多い
    2. 告知義務を軽く見ると、いざという時に給付が下りない
  10. 無保険のまま3年間働けなくなった場合の資産シミュレーション
  11. 加入前によくある失敗パターン
    1. 1. 保障月額を「額面収入」で決めてしまう
    2. 2. 免責期間と生活防衛資金の額が噛み合っていない
    3. 3. 複数の保険に重複加入して、給付時に減額査定を受ける
    4. 4. 事業拡大・借入のタイミングで保障額を見直していない
    5. 5. 「なんとなく不安だから」という理由で加入を決めてしまう
  12. 就業不能保険に関するよくある質問
    1. Q1. 就業不能保険と医療保険はどちらを優先すべきですか?
    2. Q2. 個人事業主向けの団体型就業不能保障はありますか?
    3. Q3. 一度加入したら見直しはしなくてよいですか?
    4. Q4. 保険会社が就業不能と認定するまでの流れはどうなっていますか?
    5. Q5. 就業不能保険に入らない場合、何で備えればいいですか?
  13. まとめ
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個人事業主に「傷病手当金」がない、という現実

会社員であれば、病気やケガで働けなくなった場合、健康保険から傷病手当金が支給されます。おおよそ標準報酬日額の3分の2にあたる金額が、最長1年6ヶ月にわたって支給される制度です。月給30万円のサラリーマンであれば、月20万円前後が最大1年半近く振り込まれ続けるということです。これは会社員にとって、想像以上に大きなセーフティネットになっています。

ところが個人事業主が加入する国民健康保険には、この傷病手当金にあたる制度が原則としてありません。つまり、個人事業主が働けなくなった瞬間から、収入はゼロになります。しかも自営業の仕事の多くは「自分が動かなければ売上が発生しない」構造になっているため、入院している間も、自宅療養している間も、キャッシュインは止まったままです。

項目 会社員 個人事業主
傷病手当金 あり(標準報酬日額の約2/3・最長1年6ヶ月) 原則なし
休業中の社会保険料 会社と折半継続 全額自己負担で継続
収入が止まるタイミング 傷病手当金開始まで有給等でカバー可能 働けなくなった当日から実質ゼロ
障害年金 厚生年金分が上乗せ 国民年金部分のみ

この表を見ると分かる通り、個人事業主は「収入が止まるリスク」に対して構造的に弱い立場にあります。これは怠け・準備不足というより、制度上そうなっているという話です。だからこそ、公的保障で足りない部分を、貯蓄や小規模企業共済など、自分でコントロールできる仕組みで意識的に埋めていく必要があります。「保険に入れば安心」と短絡的に考える前に、まずはこの構造を正しく理解することが出発点になります。

就業不能保険と所得補償保険は何が違うのか

「働けなくなったときの収入」を保障する民間保険には、大きく分けて就業不能保険と所得補償保険の2種類があります。名前が似ているため混同されがちですが、設計思想がかなり違います。

就業不能保険(生命保険会社の商品)

就業不能保険は主に生命保険会社が扱う商品で、長期の就業不能に備える設計になっています。保険期間は60歳・65歳満期など長期で、入院・在宅療養を問わず、所定の就業不能状態が一定期間継続すると、契約時に決めた保険金額(月額)が満期または回復まで支払われ続けます。持病があると加入しづらい反面、一度給付が始まれば長期間にわたって安定した保障を受けられるのが特徴です。

所得補償保険(損害保険会社の商品)

所得補償保険は主に損害保険会社が扱う商品で、短期〜中期の就業不能をカバーする設計です。保険期間は1年更新が基本で、支払い期間も1年・2年など短めに設定されていることが多く、その分保険料は比較的抑えられます。ケガや病気で働けない状態になった際、実際の所得の減少分に応じて保険金が支払われる「実損てん補」タイプが多いのも特徴です。

比較項目 就業不能保険 所得補償保険
主な取扱 生命保険会社 損害保険会社
保険期間 60歳・65歳満期など長期 1年更新が中心
給付期間 回復または満期まで長期 1〜2年程度が多い
給付方式 定額給付が中心 実損てん補が多い
保険料 やや高め・年齢で上昇 比較的割安
持病がある場合 加入・条件が厳しくなりやすい 比較的加入しやすい商品もある

商品としての設計思想は上記の通り異なりますが、どちらも「働けなくなったら保険会社からお金が振り込まれる」という点は共通しています。以下では、この2つの保険にどれくらいの保険料がかかり、どんな制約があるのかを具体的に見たうえで、僕自身が最終的にどちらにも加入しないという結論に至った理由を説明していきます。

保険料はどれくらい?年代・保障月額別の目安

保険料は年齢・性別・保障月額・免責期間・保険期間によって大きく変わります。あくまで目安ですが、就業不能保険で「保障月額10万円・免責60日・65歳満了」のプランに加入した場合の月々の保険料イメージは、おおよそ次のようになります。

年齢 保障月額10万円の目安保険料(月払) 保障月額15万円の目安保険料(月払)
30代 1,500円〜2,500円程度 2,200円〜3,700円程度
40代 2,000円〜3,500円程度 3,000円〜5,200円程度
50代 3,000円〜5,500円程度 4,500円〜8,000円程度

この表はあくまで一般的な相場感であり、保険会社・商品・健康状態・喫煙の有無・精神疾患の免責の有無などで上下します。ポイントは、保障月額を上げるほど保険料は比例に近い形で上がっていくため、「なんとなく安心な金額」を先に決めてしまうと、保険料が家計を圧迫しかねないという点です。そしてもう一つ見落とされがちなのが、この保険料を60歳・65歳満期まで払い続けた場合の総支払額です。仮に40代で月3,000円の保険料を65歳まで20年払い続けたとすると、それだけで72万円になります。給付を一度も受けずに満期を迎えれば、この72万円は掛け捨てとして消える計算です。

また、就業不能保険には「ハーフ払い」といって、就業不能状態が一定期間続くまでは満額の半分だけ支給されるタイプの商品もあります。ハーフ払いのタイプは保険料が安くなる設計ですが、それでも「保険料を払い続ける」という構造自体は変わりません。僕はこの総支払額を見たとき、同じ金額を毎月貯蓄・投資に回した場合とを比較して考えるようになりました。

免責期間60日をどう考えるか

就業不能保険を検討するときに必ず出てくるのが「免責期間」です。免責期間とは、働けない状態になってから保険金の支払いが始まるまでの待機期間のことで、多くの商品で60日や180日といった設定があります。この期間中は、たとえ就業不能状態であっても保険金は支払われません。

なぜ免責期間があるのか

免責期間が設けられている理由は、短期の風邪や軽いケガなど、数日〜数週間で回復するような一時的な就業不能まで保障対象にしてしまうと、保険料が跳ね上がってしまうためです。免責期間を長く設定するほど保険料は安くなり、短く設定するほど保険料は高くなります。

免責期間 保険料水準 向いているケース
免責なし・7日 高め 手元資金がほとんどない場合
免責60日 標準的 2ヶ月分程度の生活防衛資金がある場合
免責180日 割安 半年分の生活防衛資金を確保できている場合

この「免責期間」という考え方は、僕が最終的に保険に加入しないと判断する上でも役に立ちました。免責期間が60日ある商品に加入しても、最初の2ヶ月は結局、生活防衛資金でしのぐ必要があるということです。であれば、「免責期間中をしのぐための貯蓄」と「免責期間後の保険金」を別々に用意するのではなく、最初から生活防衛資金そのものを厚めに積み増しておけば、保険料というコストをかけずに同じ安心感を得られるのではないか、と考えるようになりました。免責期間を短くすればするほど保険料が上がる、という関係は、裏を返せば「貯蓄で自分の免責期間を長く取れる人ほど、保険に頼る必要性は下がる」ということでもあります。

免責期間の設計は、単独で決めるものではなく、次の章で触れる貯蓄・共済とのバランスの中で決めるべきものだと僕は考えています。

小規模企業共済・貯蓄との役割分担

個人事業主の「働けなくなったときの備え」を考える際、就業不能保険だけで完結させようとすると、保険料がかなり高額になってしまいます。ここで重要になるのが、小規模企業共済や現金貯蓄との役割分担です。

小規模企業共済は「休業保障」ではない

小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者が加入できる、いわば「経営者の退職金制度」です。月額1,000円から70,000円まで掛金を設定でき、全額が所得控除の対象になるため節税効果も大きい制度ですが、これは廃業・退職・老齢時などに共済金を受け取る仕組みであり、病気やケガで一時的に働けなくなった際の「休業中の生活費」を保障するものではありません。ここを混同すると、必要な備えが抜け落ちてしまいます。

制度 主な目的 就業不能時に使えるか
小規模企業共済 廃業・引退時の退職金代わり 原則、任意解約や貸付制度を使わない限り不可
生活防衛資金(預金) 短期の収入減対応 即時に使える。免責期間の穴埋めに最適
就業不能保険・所得補償保険 中長期の収入減対応 免責期間経過後、保険金として使える

ただし小規模企業共済には、契約者貸付制度があり、掛金の範囲内で比較的低金利の借入ができます。急場をしのぐ手段の一つにはなりますが、あくまで「借入」であり、いずれ返済が必要な資金である点は忘れてはいけません。僕自身がたどり着いたのは、生活防衛資金(預金)を厚めに積み増して短期〜中期の収入減はここで受け止め、小規模企業共済は将来の廃業・引退時の備えとして別枠で積み立てる、という2層構造です。以前は就業不能保険・所得補償保険を間に挟む3層構造も検討しましたが、次の章で計算する必要保障額をそのまま「必要な貯蓄額」に置き換えて考えることで、保険料というコストをかけなくても同じ役割を果たせると判断しました。

必要保障額は生活費から逆算する

就業不能保険に入るかどうかにかかわらず、「働けなくなったら毎月いくら足りなくなるのか」を計算しておくことは、家計管理の土台として欠かせません。ここでは、実際に毎月出ていく固定費と生活費を洗い出し、そこから逆算する手順を整理します。

ステップ1:固定費を洗い出す

  • 住居費(住宅ローン・家賃・管理費)
  • 水道光熱費
  • 通信費
  • 教育費(学校納付金・給食費・習い事)
  • 保険料(生命保険・自動車保険等)
  • 食費・日用品費
  • 国民健康保険料・国民年金保険料

ステップ2:事業の固定費も忘れずに加える

個人事業主の場合、自分が働けなくなっても、事務所の家賃、外注費の一部、リース料などの事業固定費は止まりません。生活費だけでなく、事業を維持するための最低限の固定費も上乗せして考える必要があります。

ステップ3:公的保障・既存資産で埋まる部分を差し引く

障害年金(国民年金の障害基礎年金)、家賃収入がある場合は大家業からの収入、配偶者控除等の税制メリットなど、既にカバーされている部分を差し引きます。

この3ステップを、我が家(子ども4人)のケースに近い形で試算すると、次のようなイメージになります。

項目 月額目安
住居費 120,000円
食費・日用品 90,000円
教育費(4人分の学校関連・習い事) 80,000円
水道光熱・通信費 35,000円
保険料・社会保険料 45,000円
事業の最低限の固定費 30,000円
合計(生活費+固定費) 約400,000円
大家業からの家賃収入(見込み) ▲150,000円
障害年金等の公的保障(見込み・条件により変動) ▲80,000円
差引:自分で備える必要がある月額 約170,000円

このように数字を並べてみると、「なんとなく安心な金額」で決めるのがいかに雑であるかが分かります。子どもが4人いる家庭は、教育費という削りづらい固定費が大きな比重を占めるため、単身者や子どものいない世帯に比べて、この「自分で備えるべき月額」はどうしても大きくなりがちです。逆に言えば、家賃収入など他の収入源を持っている場合は、その分だけ備えるべき金額を圧縮できるということでもあります。僕はこの約170,000円という月額を、保険金額ではなく、生活防衛資金として確保しておきたい「月あたりの取り崩し余力」として位置づけました。仮にこの状態が1年続いても資産が尽きないようにするには、約170,000円×12ヶ月=約204万円が一つの目安になります。

4人の子を育てる個人事業主として僕が出した結論

ここまでの考え方を踏まえて、僕自身がどう結論を出したかをお伝えします。まず、生活防衛資金を、一般的によく言われる「生活費の3〜4ヶ月分」よりも厚めに、上で計算した「自分で備えるべき月額」の1年分をめどに積み増しました。そのうえで、就業不能保険にも所得補償保険にも加入しない、という結論を出しています。

理由はいくつかあります。まず、保険料を60歳・65歳満期まで払い続けた場合の総支払額は決して小さくなく、給付を一度も受けなければそのまま掛け捨てで消えます。次に、免責期間や告知義務、精神疾患の給付制限など、実際にお金を受け取れるまでの条件がかなり細かく、「払っていれば必ずもらえる」という単純な仕組みではないこと。そして何より、僕自身が事業所得だけでなく、家賃収入・配当収入という複数の収入源を持っていることが、就業不能保険が果たすはずだった役割の多くを、すでに肩代わりしているからです。

個人事業主として20年、投資家として20年、兼業大家として20年やってきた経験から言えるのは、「収入源が複数あること自体が、就業不能保険の代わりになる」ということです。事業所得だけに依存していると、働けなくなった瞬間に収入がゼロになりますが、家賃収入や配当収入など、体が動かなくても入ってくるお金の柱を持っていれば、生活防衛資金で埋めるべき金額はその分小さくて済みます。一人で4人の子どもを育てる前提で家計を組み直す中で、一番強く感じたのは、収入が止まるリスクへの備えは、民間保険に頼らなくても、生活防衛資金・複数の収入源・小規模企業共済という3つを重ねることで十分に機能する、ということでした。

小規模企業共済は将来の廃業・引退への備えとして継続しつつ、「働けなくなった今この瞬間の生活費」は生活防衛資金と複数の収入源で守る。この線引きを曖昧にしないことが、個人事業主として家族を守るうえでの土台になると考えています。

確定申告における保険料の取り扱いと見直しのタイミング

就業不能保険・所得補償保険を検討する過程で調べておいてよかったのが、確定申告での保険料控除の扱いです。ただし先に断っておくと、控除があるからお得、という理由だけで加入を決めるのは本末転倒だと僕は考えています。控除で戻ってくるのは、あくまで自分が払った保険料の一部にすぎず、それを「メリット」として加入を正当化するのは、セールストークとしてはよく使われますが、冷静に見れば筋が違う話だからです。そのうえで、制度の中身自体は知っておいて損はないので、簡単に整理しておきます。

保険料控除の区分を契約時に確認する

就業不能保険は生命保険会社が扱う商品であれば「介護医療保険料控除」の対象になることが多く、年間の支払保険料に応じて所得税で最大4万円、住民税で最大2万8,000円の控除を受けられます。一方、損害保険会社が扱う所得補償保険は、控除の対象外となる商品が大半です。同じような保障内容に見えても、税務上の扱いがまったく違うことがあるため、もし今後検討する機会があれば、「この保険料は生命保険料控除の対象になるか」を確認したうえで、それでも保険料以上のメリットが本当にあるのかを控除抜きで判断することをおすすめします。

保険の種類 控除区分の目安 確定申告での記載欄
就業不能保険(生保系) 介護医療保険料控除の対象になることが多い 生命保険料控除の欄
所得補償保険(損保系) 控除対象外の商品が多い 該当欄なし(要確認)

保険料は「事業経費」にはできない

個人事業主として気をつけたいのは、就業不能保険・所得補償保険の保険料は、事業のための支出であっても事業所得の必要経費には計上できないという点です。これはあくまで個人の生活を守るための保険であり、事業の売上を生み出すための直接的な支出ではないと扱われるためです。事業用の火災保険料や賠償責任保険料と混同して経費に計上してしまうと、税務調査で否認される可能性があるので注意が必要です。控除を受けられるのは、あくまで所得控除としての生命保険料控除・介護医療保険料控除の枠内に限られます。

収入・家族構成の変化に合わせた定期的な見直し

保険に加入していなくても、この「働けなくなったら毎月いくら足りないか」という数字は、収入の増減や子どもの人数・年齢の変化に合わせて一度きりで終わらせず、定期的に見直す必要があります。僕自身、確定申告で前年の事業所得を確定させるタイミングに合わせて、この必要な貯蓄額の再計算を毎年のルーティンにしています。子どもが独立して教育費の負担が減れば必要な金額は下がりますし、逆に新たな借入(物件購入など)をすれば、その返済分だけ必要な金額は上がります。確定申告という「1年に一度、家計の数字と向き合う機会」を、生活防衛資金の見直しのタイミングとして活用するのは、忙しい個人事業主にとって効率的なやり方だと感じています。

就業不能保険で給付対象外になりやすいケースを事前に確認する

就業不能保険は「働けなくなったら何でも保障してくれる」わけではありません。約款を読み込んでいくと、どのようなケースが給付対象外になるのかが細かく決められていて、正直なところ、これが僕にとって加入を見送る大きな決め手の一つになりました。個人事業主として複数の保険を比較検討してきた中で、特に注意すべきだと感じたポイントを整理します。

精神疾患は「別枠」で判断されることが多い

うつ病や適応障害など精神疾患による就業不能は、商品によって扱いがまったく異なります。給付対象に含める代わりに給付期間を短く制限している商品もあれば、そもそも精神疾患を免責事由として給付対象外にしている商品もあります。近年はメンタル不調による長期休職が珍しくないため、精神疾患をどこまでカバーするかは、就業不能保険を選ぶうえで保険料と同じくらい重視すべき比較ポイントだと感じています。

告知義務を軽く見ると、いざという時に給付が下りない

加入時には、過去の病歴・現在の通院状況・服薬の有無などを正確に告知する義務があります。「この程度なら書かなくても大丈夫だろう」という自己判断で告知を省略すると、告知義務違反を理由に契約を解除され、本来受け取れるはずだった給付金が一切支払われないケースがあります。健康診断の再検査項目や、数年前に一度だけ通院した既往歴なども、対象になるかどうかを保険会社や代理店に確認してから申告する姿勢が重要です。

注意すべき事由 内容
精神疾患の免責・給付制限 商品によって給付対象外、または給付期間に上限を設定
告知義務違反 既往症・通院歴の未申告で契約解除・給付不能となるリスク
就業不能の認定基準 「入院」「医師の指示による在宅療養」など所定の状態に該当しないと給付対象外
妊娠・出産に関連する就業不能 正常分娩に伴う就業不能は対象外とする商品が多い
故意・自傷行為によるもの ほぼ全ての商品で免責事由として明記

無保険のまま3年間働けなくなった場合の資産シミュレーション

就業不能保険が実際にどれくらいの差を生むのかを数字で確認するために、仮に何の備えもないまま長期間働けなくなった場合と、就業不能保険に加入していた場合とで、資産がどのように取り崩されていくかを比較してみます。前提は、月間生活費・固定費を40万円、家賃収入等の他の収入を月15万円とし、差引25万円を毎月取り崩す必要があるケースです。

経過月数 無保険の場合の資産残高イメージ 仮に就業不能保険(月15万円給付)に加入していた場合
3ヶ月経過 ▲75万円(貯蓄取り崩し) 免責期間中のため同じく貯蓄取り崩し
6ヶ月経過 ▲150万円 免責60日経過後から給付開始、取り崩しは月10万円ペースに縮小
12ヶ月経過 ▲300万円 ▲約145万円(給付でカバーされた分だけ取り崩しが軽減)
36ヶ月経過 ▲900万円 ▲約445万円

あくまで単純化した試算ですが、就業不能状態が長引くほど、保険の有無による資産の減り方の差は雪だるま式に広がっていくことが分かります。ただ、ここで見落としてはいけないのは、「3年間まるまる働けなくなる」というのはかなり極端なケースだということです。実際には、数週間〜数ヶ月で回復するケースが大半で、3年規模の長期就業不能はごく一部の重い病気やケガに限られます。そのうえ、この試算はすでに家賃収入で月15万円を相殺した後の数字であり、収入源を複数持つこと自体が、保険なしでも取り崩しペースを大きく抑える効果を持っています。僕は最終的に、この900万円という最悪ケースの数字に対しては、「保険料を払い続けて備える」のではなく、「生活防衛資金を厚めに積み増し、家賃収入・配当収入という複数の収入源を維持する」ことで備える方を選びました。極端な最悪ケースのために数十年間保険料を払い続けるより、その分を貯蓄と投資に回して、複数の収入源そのものを太くしていく方が、僕にとっては合理的だと判断したからです。とはいえ、この落差の大きさは家庭ごとに事情が違うので、一度自分の数字でシミュレーションしてみることはおすすめします。

加入前によくある失敗パターン

就業不能保険・所得補償保険を検討する中で、実際によく見聞きする失敗パターンを5つにまとめました。僕自身は最終的に加入しないと決めましたが、こうした「入り方の失敗」を知ること自体が、この保険にどれだけ複雑な判断が求められるかを理解する材料になりました。これから検討する方は、チェックリストとして活用してください。

1. 保障月額を「額面収入」で決めてしまう

事業所得(額面)をそのまま保障月額の基準にしてしまうと、実際には税金・社会保険料・事業経費相当分まで保険金でまかなおうとする過大な設計になり、保険料が不必要に高くなります。保障月額は、必要経費と税・社会保険料を差し引いた「手取りベースの生活費」から逆算するのが基本です。

2. 免責期間と生活防衛資金の額が噛み合っていない

免責60日の商品に加入しているのに、生活防衛資金が1ヶ月分しかない、という組み合わせは、免責期間中に資金がショートするリスクを抱えたままになります。免責期間の日数分は、必ず貯蓄で穴埋めできるかを事前に確認しておく必要があります。

3. 複数の保険に重複加入して、給付時に減額査定を受ける

収入に対して過大な保障を複数の保険会社で契約すると、モラルリスク(保険金目当ての故意の事故等)を懸念され、給付時に按分・減額される場合があります。加入している保険会社・保障額はすべて申告する必要があり、後から発覚すると契約解除のリスクもあります。

4. 事業拡大・借入のタイミングで保障額を見直していない

物件購入や設備投資で借入が増えたにもかかわらず、就業不能保険の保障額が加入当初のままというケースは少なくありません。返済負担が増えた分だけ、就業不能時に必要な金額も増えている、という視点を忘れがちです。

5. 「なんとなく不安だから」という理由で加入を決めてしまう

就業不能保険は基本的に掛け捨て型で、給付を受けずに満期を迎えれば保険料は戻ってきません。それ自体は悪いことではなく、リスクに備えるためのコストとして割り切るべきものです。ただ、その判断を「なんとなく不安だから」という感情だけで下してしまうと、必要以上に手厚い保障を、必要以上に長く払い続けることになりがちです。世間の「保険は入っておくべき」という漠然とした空気に流されるのではなく、公的保障の中身と自分の家計の数字を先に整理したうえで、本当に必要かどうかを感情を排して判断することが大切だと感じています。

就業不能保険に関するよくある質問

Q1. 就業不能保険と医療保険はどちらを優先すべきですか?

A. 医療保険は入院・手術にかかる「一時的な支出」を保障するのに対し、就業不能保険は働けない期間の「継続的な収入減」を保障するもので、役割は異なります。ただ、僕自身はどちらも民間保険には加入せず、医療保険が担うはずだった部分は高額療養費制度と生活防衛資金で、就業不能保険が担うはずだった部分も生活防衛資金と複数の収入源で代替する方針に統一しました。役割は違っても、「公的保障で足りない部分を、保険料ではなく貯蓄で埋める」という考え方自体は共通しています。

Q2. 個人事業主向けの団体型就業不能保障はありますか?

A. 商工会議所やフリーランス向けの各種団体・協同組合などが取り扱う団体保険の中に、個人で加入するより割安な保険料で就業不能・所得補償を準備できる商品が用意されている場合があります。ただ、保険料が割安であること自体は、加入すべき理由にはなりません。僕は団体型・個人型を問わず、これらの保険商品全般について、生活防衛資金と複数の収入源で代替できると判断し、加入しない方針にしました。割安さに惹かれて検討する前に、そもそも自分に必要な保障かどうかを、公的保障の中身を踏まえたうえで一度立ち止まって考えることをおすすめします。

Q3. 一度加入したら見直しはしなくてよいですか?

A. 保険に加入していなくても同じです。収入の増減、子どもの人数や生活費の変化、借入の増減などによって「働けなくなったときに自分で備えるべき金額」は変わるため、最低でも年に一度、確定申告で前年の所得が確定するタイミングに合わせて、生活防衛資金の額を見直すことをおすすめします。

Q4. 保険会社が就業不能と認定するまでの流れはどうなっていますか?

A. 一般的には、医師の診断書をもとに保険会社が定める「就業不能状態」の基準に該当するかどうかを審査し、免責期間の経過を確認したうえで給付が開始されます。診断書の取得や必要書類の準備に時間がかかることもあるため、就業不能状態になったらできるだけ早く保険会社に連絡することが大切です。

Q5. 就業不能保険に入らない場合、何で備えればいいですか?

A. 僕自身が実践しているのは、①生活防衛資金を、通常言われる3〜4ヶ月分より厚めに、「自分で備えるべき月額」の1年分程度をめどに確保する、②事業所得だけに依存せず、家賃収入や配当収入など複数の収入源を持つ、③小規模企業共済は就業不能時の備えとは切り離し、あくまで将来の廃業・引退時の備えとして継続する、という3つの組み合わせです。保険料を払い続けなくても、この3つを重ねることで、実務上は十分に機能すると感じています。

まとめ

個人事業主には会社員のような傷病手当金がなく、働けなくなった瞬間から収入が止まるという構造的な弱さがあります。ただ、この弱さを埋める手段は就業不能保険・所得補償保険だけではありません。免責期間の考え方や必要保障額の逆算方法を実際に数字で追っていくと、「なんとなく」ではなく生活費・固定費から逆算して必要な金額を出したうえで、それを保険料としてではなく、生活防衛資金として自分で持っておくという選択肢も十分に成立することが分かります。また、小規模企業共済はあくまで廃業・引退時の備えであり、就業不能時の生活費保障とは役割が異なる点にも注意が必要です。子どもの人数が多い家庭ほど教育費という削りにくい固定費が大きくなるため、自分で備えるべき金額は大きくなりがちですが、家賃収入など他の収入源があればその分を差し引いて考えることができます。僕自身は、生活防衛資金・複数の収入源・小規模企業共済という3つの仕組みを組み合わせることで、就業不能保険・所得補償保険に加入しなくても、収入が止まるリスクに現実的に備えられると考え、その結論にたどり着きました。

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免責事項:本記事は筆者個人の経験と一般的な考え方に基づく情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品・共済制度への加入(または非加入)を推奨するものではありません。保険料や保障内容は年齢・健康状態・保険会社・加入時期等により異なりますので、実際の加入にあたっては必ず複数の保険会社・共済制度の最新の資料をご確認のうえ、ファイナンシャルプランナーや保険の専門家にご相談ください。また、税制や社会保険制度は改正される可能性があるため、最新の公的情報もあわせてご確認ください。

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