老後資金はいくら必要か+海外移住という選択肢|数字とリスク分散・年金制度で学ぶ資産形成シリーズ第13話

投資・資産運用

前回の第12話「年金と不動産――2つの終身収入を噛み合わせる」では、私が大家として20年向き合ってきた「終身の家賃」と、制度が保証する「終身の年金」を双子のキャッシュフローとして並べ、空室・修繕・流動性・災害・融資という影を正直に書きながら、老後の地面を「年金・家賃・株」の三本柱で支えるという発想に行き着きました。そしてその最後で、こう予告しました――次は、多くの人が一番知りたい問い、「老後資金は、結局いくら必要なのか」に正面から向き合い、生活コストそのものを見直す選択肢としての「海外移住」にも触れる、と。今回はその約束を果たします。シリーズ全体の見取り図は年金で学ぶ資産形成シリーズのハブページにまとめてありますので、行き来しながら読んでいただければと思います。

先に私の立場を申し上げておきます。私は4人の子を一人で育てている父親で、大家として20年、個人事業主として20年、投資家として20年やってきました。妻を病気で亡くしており、ひとり親として家計の地面を一段ずつ固めることの重みを、知識としてではなく経験として知っています。だからこそ、本話の主題である「老後資金はいくら必要か」という問いについて、最初にはっきり申し上げておきたいことがあります――「老後2000万円」のような一つの数字を、誰にでも当てはまる正解だと思わないでください。以下はあくまで私個人の見解であり、老後に必要な額は、家族構成・住まい・暮らし方・健康状態によって、人それぞれ大きく異なります。本話は不安を煽って何かを売るための記事ではありません。むしろ、独り歩きした数字に怯えるのをやめ、自分の数字を自分で出すための手順を、一緒に組み立てる回です。最終的な判断は、ご自身の状況や、必要に応じて金融機関・社会保険労務士・ファイナンシャルプランナーなど専門家の確認を踏まえて行ってください。

「老後2000万円」の数字の正体と独り歩き

「老後資金は2000万円必要」――この言葉を、一度も聞いたことがない人はいないでしょう。多くの人が、この数字を「公的に決まった、老後に必要な金額」のように受け取っています。けれど、私はこの数字が独り歩きしている現状を、ずっと危ういと感じてきました。まず大事なのは、この「2000万円」が、そもそも何を計算した数字なのかを正しく理解することです。

この数字のもとになったのは、ある一つのモデル世帯の家計の試算でした。ざっくり言えば、「高齢の夫婦が、年金などの収入だけで暮らすと、毎月の支出が収入をいくらか上回る。その不足分を、〇十年ぶんかき集めると、おおよそ2000万円になる」という計算です。つまり、2000万円という数字の正体は、「ある特定の世帯の、毎月の赤字を、ある年数ぶん足し合わせた合計」に過ぎません。決して「全国民が老後に必ず必要とする金額」ではないのです。前提となった毎月の支出額が変われば、不足額は変わる。受け取る年金額が変われば、不足額は変わる。何年生きるかの前提が変われば、合計は変わる。たった一つの前提を動かすだけで、結論の金額は1000万円にも3000万円にもなる――それが、この数字の本当の姿です。

では、なぜこの「2000万円」だけが、あれほど人々の記憶に焼きついたのか。私は、ここに二つの問題があると思っています。一つは、「不足額」という性格が抜け落ちて、「総額」のように誤解されたこと。本来は「毎月の収入で足りないぶんの累計」なのに、「老後に2000万円の貯金がないと暮らせない」という、まるで入場料のような響きで広まってしまった。もう一つは、数字が一人歩きすると、不安が商品になること。「2000万円足りない」という恐怖は、保険や投資商品、情報商材を売る側にとって、これ以上ないセールストークになります。私は、この数字に怯えて慌てて何かを買う、という行動こそが、老後設計で最も避けるべきものだと考えています。

誤解しないでください。私は「老後資金など考えなくていい」と言っているのではありません。むしろ逆です。老後資金は、人生で最も真剣に向き合うべきテーマの一つです。だからこそ、他人が決めた一つの数字を鵜呑みにするのではなく、自分の数字を自分で出すべきだと言っているのです。2000万円という数字は、「老後にはまとまった不足が生じうる」という事実に気づかせてくれる、入り口のベルとしては有用です。けれど、そのベルで目を覚ましたら、次にやるべきは、自分の家計に合わせて電卓を叩くこと。他人の家計の試算結果を、自分の人生にそのまま貼り付けてはいけません。この章でいちばん伝えたいのは、それだけです。

独身・夫婦・持家・賃貸で変わる必要額の出し方

では、老後に必要な額が「人それぞれ大きく異なる」とは、具体的にどういうことか。最も効くのは、家族構成住まいのかたちという二つの軸です。この二つで、必要額は驚くほど変わります。私自身、4人の子を育てるひとり親であり、大家として持家・賃貸の両面を見てきたので、この差の大きさは肌で感じています。順に見ていきましょう。

まず、独身か夫婦かという軸。「夫婦のほうが、独身の二倍お金がかかる」と思いがちですが、実際はそう単純ではありません。生活には「人数で割れる費用」と「人数で割れない費用」があります。食費や被服費は人数におおむね比例しますが、家賃・光熱費の基本料金・通信費・家電などは、一人でも二人でも、そう大きくは変わりません。だから、一人あたりの生活コストは、夫婦のほうがむしろ割安になる傾向があります。一方で、夫婦には年金が二人分入るという収入面の強みもある。逆に独身は、支出は割高でも自由度が高く、暮らしを小さく畳みやすい。どちらが有利という話ではなく、「収入(年金)も支出も、世帯のかたちで丸ごと変わる」という点を押さえることが大切です。ひとり親で老後を迎える私のような立場なら、子が独立した後の「一人分の暮らし」を前提に、収入も支出も組み直す必要があります。

次に、持家か賃貸かという軸。これは、老後の必要額に最も大きな差を生む要素だと、私は考えています。なぜなら、住居費は、老後の支出の中で最も重く、最も長く続く固定費だからです。持家でローンを完済していれば、老後の住居費は固定資産税・修繕費・管理費などに抑えられます。けれど賃貸なら、生きている限り毎月の家賃を払い続けなければならない。仮に家賃が月8万円なら、年96万円。これが30年続けば、それだけで約2880万円――それ自体が「2000万円問題」を軽く超える規模になります。賃貸の人は、この終身の家賃を、必要額の計算に必ず織り込む必要があります。

ただし、ここで「では持家のほうが必ず得だ」と早合点しないでください。持家には、購入時の頭金とローン、固定資産税、そして必ず来る大規模修繕(屋根・外壁・水回り)という、賃貸にはない出費があります。前回、私が大家として「修繕は予告なくまとまった額で来る」と書いた通り、自宅も例外ではありません。持家は「住居費がゼロになる」のではなく、「住居費のかたちが家賃から固定資産税+修繕費に変わる」だけです。さらに、持家は流動性が低く、売りたいときにすぐ現金化できないという弱点も抱えます。賃貸は身軽に住み替えられる自由がある。結局のところ、持家と賃貸はどちらが正解という話ではなく、「住居費という最大の固定費を、どういうかたちで・いくら抱えるのか」を、自分の必要額計算の中で正直に見積もることが本質なのです。

この二つの軸を掛け合わせれば、「独身・賃貸」「独身・持家」「夫婦・賃貸」「夫婦・持家」という四つの型が見えてきます。同じ「老後」でも、この四つでは必要額がまるで違う。だからこそ、「2000万円」という一つの数字は、四つのうちのどれにも正確には当てはまらないのです。次の章では、この「自分の型」に合わせて、必要額を自分の手で逆算する具体的な手順に入ります。

自分の必要額を逆算する手順(支出-年金=不足)

ここからが、本話の心臓部です。老後に必要な額を、他人の数字ではなく、自分の数字で出す。その計算式は、拍子抜けするほどシンプルです。「毎月の支出 - 毎月の年金収入 = 毎月の不足額」。そして、その不足額に、老後の年数(月数)を掛ければ、自分が用意すべき総額が見えてくる。難しい数式は一つもありません。順を追って、私自身の頭の中の手順をそのまま書きます(以下の金額は、計算の考え方を示すためのあくまで単純化した例であり、実際の支出・年金額は人によって大きく異なります)。

手順1:老後の毎月の支出を見積もる。まず、自分が老後にひと月いくらで暮らすのかを書き出します。ここで一番のコツは、いまの家計簿をベースにすることです。「老後の支出」を想像でゼロから作ると、必ずどこかがずれます。いまの一か月の支出から、老後に減る項目(子の教育費、通勤費、住宅ローンが完済するならその返済額)を引き、老後に増える項目(医療費、介護に備える費用、趣味や旅行など自由時間の費用)を足す。たとえば、夫婦で老後の月支出を仮に24万円と置きます。前章で見た通り、ここに賃貸なら家賃が丸ごと乗り、持家なら固定資産税と修繕積立が乗る。この一行目を、自分の「型」に合わせて正直に書くことが、すべての出発点です。

手順2:毎月の年金収入を把握する。次に、収入の柱である公的年金が、自分の場合いくら入るのかを確認します。ここは想像で済ませてはいけません。「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で、自分の見込み額を必ず実数で確認する。これは本シリーズで繰り返し勧めてきたことです。会社員として長く働いた人と、自営業中心だった人とでは、年金額は大きく異なります。私のように個人事業主として長くやってきた立場なら、会社員より基礎的な部分の比重が大きくなる。仮に、ここでは夫婦の年金合計を月20万円と置きましょう。独身なら、当然この収入は一人分になります。自分の年金の実額を知らずに老後設計を語るのは、地図を持たずに航海に出るようなものです。

手順3:差し引いて、毎月の不足額を出す。手順1の支出から、手順2の年金を引きます。先の例なら、支出24万円 - 年金20万円 = 毎月の不足4万円。これが、毎月、自分の資産から補わなければならない額です。「2000万円」という数字の正体が、まさにこの「毎月の不足」の累計だったことを、ここで思い出してください。あなたが出すべきは、この自分の不足額であって、他人の不足額ではありません。

手順4:老後の年数を掛けて、総額を出す。毎月4万円の不足が、仮に65歳から95歳までの30年(360か月)続くとします。4万円 × 360か月 = 1440万円。これが、この例の世帯が「年金以外に用意しておくべき総額」のおおよその姿です。前章の四つの型を思い出してください。もし同じ世帯が賃貸で、家賃ぶん支出が月8万円増えれば、不足は月12万円、30年で4320万円に跳ね上がる。逆に持家でローン完済済み、暮らしを小さく畳めば、不足はゼロか、むしろ年金内で収まることすらある。同じ計算式に、自分の数字を入れるだけで、必要額はこれほど動くのです。

そして、この逆算手順がもたらす最大の収穫は、「不足額=投資で埋めるべき目標額」が、はじめて具体的な数字として見えてくることです。「2000万円足りない」と漠然と怯えている間は、何をどれだけやればいいのか分かりません。けれど、「自分の不足は毎月4万円、総額1440万円」と分かれば、話は一変します。この1440万円を、現金の取り崩しだけで埋めるのか。それとも、前回語った「終身の家賃」を月4万円ぶん生む資産を築いて埋めるのか。あるいは、株という成長エンジンで30年かけて1440万円を育てるのか――埋め方を、自分で設計できるようになる。怯える対象だった数字が、攻略すべき目標額に変わる。これこそが、自分の手で逆算することの本当の意味です。私が「年金・家賃・株」の三本柱にこだわるのも、結局はこの「不足額を、複数のキャッシュフローで埋める」という発想に行き着くからです。複利を、借り手側で敵に回すのではなく、株主側・資産の持ち手側で味方につけて、この目標額に向けて雪だるまを転がしていく――それが、逆算の先にある実践です。

海外移住は本当に安く済むのか――為替・医療・年金受給の現実

さて、前章で「不足額は、支出を下げれば小さくなる」ことが見えました。支出の中でも最大の固定費は、住居費を含む「生活コスト全体」です。ならば、生活コストそのものが低い場所に移れば、必要額は劇的に下がるのではないか――この発想の先に現れるのが、近年現実味を帯びてきた「海外移住」という選択肢です。物価の安い国に移れば、同じ年金でゆとりある暮らしができる、という話を見聞きした方も多いでしょう。けれど、私は大家として・投資家として数字を詰める癖が骨身に染みついている人間です。だからこそ、この「海外は安い」という耳ざわりのいい話を、影のほうから冷静に検証しておきたい。結論を先に言えば、海外移住は「安く済むこともある」が、見落とされがちな三つの現実がある、というのが私の見立てです。

第一の現実は、為替リスク。これが最も重く、最も見落とされます。あなたの収入の柱である公的年金は、日本円で支払われます。一方、移住先での支出は、現地通貨建てです。つまり、円を現地通貨に換えて暮らすことになる。ここで、円安が進めば、同じ年金額で受け取れる現地通貨は減る。たとえば「月20万円の年金で、現地では月2000ドル相当の暮らしができる」と計算して移住したとして、円安が進んで1ドルあたりの円が大きく上がれば、同じ20万円で受け取れるドルは1500ドル、1300ドルと目減りしていく。物価が安いはずの国で、為替のせいで生活が苦しくなる――これは現実に起こりうることです。収入(円)と支出(現地通貨)の通貨がずれている限り、為替の変動が、そのまま生活水準の変動になる。これは、円という単一通貨に収入を依存している人が、海外で暮らすことの構造的なリスクです。この為替リスクの話は、本話の最後でもう一度、別の角度から取り上げます。

第二の現実は、医療。老後に最も頼りになり、最も金額が読めないのが医療費です。日本の公的医療保険(国民皆保険)は、世界的に見ても非常に手厚い制度です。海外に移住すると、この日本の医療保険の恩恵を、現地で受けられなくなる場合がある。移住先の医療制度に加入できるかは国によって条件が異なり、加入できても保障が薄かったり、民間の医療保険に高い保険料を払う必要があったりします。物価は安くても、医療だけは先進国並み、あるいはそれ以上の自己負担を求められる国も少なくありません。老後ほど医療にかかる確率は上がるのに、その最大の支えである日本の医療制度から離れることの重みは、生活費の安さと天秤にかけて、慎重に見積もるべきです。

第三の現実は、年金の受給そのもの。日本の公的年金は、海外に住んでいても、所定の手続きを踏めば海外の口座でも受け取ることは可能です。これは安心材料です。ただし、定期的な現況確認の手続きが必要だったり、受け取りの際に為替手数料や送金コストがかかったりと、国内で受け取るよりも手間とコストが増える側面があります。また、税金の扱い(日本と移住先のどちらに納めるか)も、移住先の国との取り決めによって変わってきます。「年金はそのまま海外で受け取れるから大丈夫」と単純に考えるのではなく、受給の手続き・コスト・税金まで含めて、移住先ごとに具体的に確認する必要があります。

これら三つの現実を並べて、私が言いたいのは「海外移住をやめろ」ではありません。「物価が安い」という見出しの数字だけで判断するな、ということです。為替・医療・年金受給という、見出しに出てこない三つのコストとリスクまで織り込んで、はじめて「本当に安く済むのか」が見える。前章で組み立てた逆算手順――支出を見積もり、年金を引き、不足を出す――を、移住先の通貨建て・移住先の制度で、もう一度やり直す。それができてはじめて、海外移住は感情論ではなく、自分の数字に基づいた選択肢になります。

移住を「国家リスク分散の一手段」として冷静に見る

ここまで、海外移住を「生活コストを下げる手段」として、その光と影を見てきました。けれど、本シリーズの大きな流れの中で、私は海外移住をもう一段深い文脈――「リスク分散の一手段」として捉えています。前回までで、私たちは資産を「年金・家賃・株・現金」という性格の違う複数の柱に分けて、弱点を打ち消し合うポートフォリオ思考を学んできました。その分散の発想を、「住む場所」と「資産を置く場所」にまで広げたとき、海外という選択肢が、また違った顔を見せます。

考えてみてください。資産形成において、私たちは無意識のうちに「日本」という一つの国に、何もかもを集中させていることが多い。収入は円建ての年金、資産は日本の不動産と日本円の預金、住む場所も日本。これは、資産を一つのカゴに盛っているのと、構造としては同じです。もし日本という国そのものに何か大きな変化――たとえば長期的なインフレや、円の価値の変動――が起きたとき、円建てに偏った資産と収入は、まとめて影響を受けることになります。前章で見た「為替リスク」は、海外で暮らす人にとってのリスクでしたが、裏を返せば、すべての資産を円で持っている人は、円という単一通貨に賭けているとも言えるのです。

ここに、本話と次回をつなぐ重要な発想が現れます。海外移住で「収入は円・支出は現地通貨」という為替リスクを負うことは、見方を変えれば、「資産や生活基盤の一部を、円以外に分散する」ことでもある。つまり、為替リスクという影は、そのまま「円集中リスクを和らげる」という光の裏返しなのです。すべてを円で持つことが安全とは限らない時代に、一部を外貨建ての資産で持つ、あるいは生活基盤の選択肢を国外にも持っておく――これは、一つの国に運命を委ねきらないための、国家リスクの分散という発想につながります。私自身は、日本に根を張って4人の子を育ててきた人間ですから、軽々に「海外へ」とは言いません。けれど、選択肢として「日本以外」を視野に入れておくこと自体が、心の余裕とリスク耐性を生むことは、確かだと感じています。

誤解のないように申し添えますが、これは「いますぐ資産を海外に移せ」「移住しろ」という煽りでは決してありません。あくまで私個人の見解です。外貨建ての資産は為替変動で円換算の価値が大きく上下し、損失が出る可能性もあります。海外移住には、言語・文化・医療・人間関係といった、お金では測れない大きなハードルもある。私が言いたいのは、ただ一つ――「日本円・日本という一つのカゴに、すべてを盛りきらない」という視点を持っておくことが、長い老後を生き抜くうえでの、もう一段のリスク分散になりうる、ということです。そして、その「円集中をどう和らげるか」という問いは、次回の主題に直結します。なぜなら、円の価値を静かに、けれど確実に蝕んでいく最大の要因こそが――インフレだからです。

まとめ

老後資金はいくら必要か、そして海外移住という選択肢。本話の要点を整理します。

  • 「老後2000万円」の正体:あるモデル世帯の「毎月の不足額をある年数ぶん足した合計」に過ぎず、全国民共通の正解ではない。前提を一つ動かせば金額は1000万円にも3000万円にもなる。数字に怯えて慌てて何かを買うのが、最も避けるべき行動。
  • 必要額は型で変わる:独身か夫婦か、持家か賃貸かという二つの軸で必要額は大きく動く。最大の変数は終身で続く住居費。賃貸は家賃を、持家は固定資産税+大規模修繕を、計算に正直に織り込む。
  • 自分の数字を逆算する:「毎月の支出 - 毎月の年金収入 = 毎月の不足」、不足に老後の月数を掛けて総額を出す。年金は想像せず「ねんきん定期便・ねんきんネット」で実額確認。この不足額こそが、投資で埋めるべき具体的な目標額になる。
  • 海外移住の三つの現実:為替(円建て年金は円安で目減り)、医療(手厚い日本の皆保険から離れる重み)、年金受給(海外でも受け取れるが手続き・コスト・税が増える)。「物価が安い」の一語で判断せず、移住先の通貨・制度で逆算をやり直す。
  • 移住=国家リスク分散の一手段:すべてを円・日本に集中させることも一種の「一点賭け」。為替リスクの影は「円集中リスクを和らげる」光の裏返しでもある。煽りではなく、一つのカゴに盛りきらない視点を持つこと。

このシリーズは、第1話で年金を「保険」として捉え直すところから始まり、制度の器を一つずつ解剖し、年金・株・不動産・現金を一枚の地図に束ね、前回は年金と不動産を「2つの終身収入」として噛み合わせました。本話では、その三本柱を土台に、ついに「老後資金はいくら必要か」という問いに、自分の手で逆算するという形で答えを出す道筋を示しました。改めて見えてくるのは、必要額は他人が決めるものではなく、自分の支出・年金・暮らし方から逆算して設計するものだということです。そして、その不足額を埋める手段として、年金・家賃・株という三本柱を組み合わせ、複利を借り手側で敵に回さず、株主側・資産の持ち手側で味方につけていく。海外移住という選択肢も、生活コストの削減と国家リスクの分散という二面から、冷静に天秤にかけられるようになります。

繰り返しになりますが、本記事は私個人の見解です。老後に必要な額は家族構成・住まい・暮らし方・健康状態で大きく異なり、本話の金額例はあくまで計算の考え方を示すための単純化したものです。外貨建て資産や海外移住には為替変動をはじめとするリスクが伴い、損失が生じる可能性もあります。まずはご自身の年金見込み額と生活費を実数で把握し、必要に応じて金融機関・社会保険労務士・ファイナンシャルプランナーなど専門家の確認を踏まえて判断してください。

このシリーズを最初から読みたい方は第1話「そもそも年金とは何か――”保険”として捉え直す」から、全体像は年金で学ぶ資産形成シリーズのハブページへ。年金以外のテーマも含めた資産形成全体の入り口は資産形成の統合ハブにまとめています。

そして次回――本話の最後で、円という一つの通貨にすべてを集中させることのリスクに触れました。その円の価値を、静かに、けれど確実に蝕んでいく最大の敵がいます。インフレです。毎月決まった額が入る「終身の年金」は、長生きには強いけれど、物価上昇には弱い。物価が上がり続ける時代に、年金という守りはどこまで通用するのか。そして、インフレに負けない資産設計とは何か。逆算した「自分の必要額」が、インフレによってどう膨らんでいくのかも含めて、正面から向き合います。第14話:年金とインフレ――物価上昇に年金は耐えられるか へ続きます。

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