投資家として20年、株式や投資信託への積立投資を通じて、相場の上げ下げを何度も経験してきた。中でも記憶に残っているのが、大きな暴落局面で積立投資の金額をどうするか悩んだ経験だ。「暴落時こそ買い増しのチャンス」という理屈は投資の教科書的な知識として頭では理解していても、実際に資産評価額が目減りしていく中で、積立額を増やす判断を下すのは簡単なことではなかった。今回は、実際にどう考え、どう行動したのか、その時の判断プロセスをできるだけ具体的に振り返っておきたい。積立投資を続けている読者、あるいはこれから始めようとしている読者の参考になれば幸いだ。
暴落が始まった当初の心境
相場が下落し始めた当初、保有している投資信託の評価額は数週間のうちに大きく目減りした。積立投資を長年続けてきたことで、ある程度の下落は経験済みではあったが、今回の下落幅は過去の経験と比べても大きく、正直なところ冷静ではいられない部分もあった。
投資を始めた当初は、下落局面のたびに一喜一憂し、時には積立を止めてしまいたい衝動に駆られたこともあった。しかし年数を重ねるごとに、下落局面もまた相場サイクルの一部であるという理解が深まり、以前よりは落ち着いて受け止められるようになってきたと感じている。それでも、今回のように過去最大級の下落幅を経験すると、頭で理解していることと、実際の感情の動きは別物だと痛感させられる場面が何度もあった。
家族を養う立場として、自分の資産が大きく目減りしていく様子を見ることは、単なる数字の増減以上の重みを感じる経験だった。子どもたちの将来のためにも積み上げてきた資産であるという意識が強いからこそ、暴落局面での判断には普段以上の慎重さが求められると感じている。
個人事業主として事業のキャッシュフローにも波がある中、資産の評価額まで大きく変動する状況は、精神的な負担として決して小さくなかった。それでも、積立投資は長期の資産形成を目的として始めたものであり、短期的な評価額の増減に一喜一憂すべきではないという基本方針は、頭の中では常に意識するようにしていた。
ニュースやSNS、経済メディアでは連日、相場の急落を伝える報道が続き、悲観的な論調の記事も数多く目にした。こうした情報に触れ続けることが、冷静な判断を妨げる要因になりかねないと感じ、意識的に相場関連の情報収集の頻度を減らすようにした。証券口座の評価額を毎日チェックする習慣も、この時期だけは意図的にやめ、週に一度程度の確認にとどめるようにしていた。
過去にも同様の下落局面を経験したことがあったが、今回はその時よりも保有資産の規模が大きくなっていたため、評価額の下落幅も金額ベースでは過去最大級のものだった。パーセンテージでは同程度の下落であっても、金額の大きさが心理的な負担に直結することを、身をもって実感する経験になった。
積立額を増やすべきか、維持すべきかの葛藤
暴落局面において、「株価が下がっている今こそ、同じ金額でより多くの口数を買えるチャンスだ」という考え方は、投資の基本セオリーとして理解していた。ドルコスト平均法の考え方に基づけば、価格が下がっている局面で多くの口数を購入できることは、長期的な平均取得単価を下げる効果があるとされている。しかし、実際に積立額を増やすという判断は、頭で理解していることと、実際に行動に移すこととの間に大きな距離があることを痛感させられた。
事業のキャッシュフローが不安定な中、生活防衛資金を削ってまで積立額を増やすことにはリスクが伴う。一方で、暴落局面でこそ将来的なリターンを最大化できるチャンスでもある。このジレンマの中で、最終的にどう判断すべきか、数日間にわたって悩み続けることになった。
悩んでいる間も相場は日々動き続けており、判断を先延ばしにすること自体が一つの選択になっているという事実にも気づかされた。「様子を見る」という選択肢も、実質的には「今の積立額を維持する」という判断と同じ結果をもたらす。この気づきによって、悩み続けるよりも、何らかの基準を持って早めに判断を下すことの重要性を強く意識するようになった。
同じように投資を続けている知人にも相談したところ、それぞれ異なる考え方や対応をしていることが分かった。積立を一時停止した人、逆に大きく増額した人、何も変えなかった人と、反応は三者三様だった。それぞれの判断の背景には、家計状況や年齢、投資経験の長さなど、個別の事情が反映されていることも見えてきた。この経験から、投資における正解は一つではなく、自分自身のリスク許容度と資金状況に照らして判断すべきものだと改めて理解した。
最終的にどう判断したか
結論として、積立額を大幅に増やすのではなく、あらかじめ決めていた「暴落時のルール」に従って、小幅な増額にとどめることにした。このルールは、暴落が始まる前の平時に、冷静な状態で決めておいたものだ。具体的には、基準となる指数が一定割合下落した場合に、積立額を通常の1.2倍から1.5倍程度に引き上げるという、あらかじめ数値化されたルールを設けていた。
このルールを最初に作ったのは、過去の別の下落局面を経験した後のことだった。その時は明確なルールがなく、感情に任せて場当たり的な判断をしてしまい、後になって「もっと落ち着いて対応できたはずだ」と反省した経験がある。その反省を踏まえ、次に同じような局面が来たときに迷わず行動できるよう、平時のうちにルールを言語化し、家族で共有できる場所に記録しておくようにした。
ルールを作る際には、増額の基準となる指数の下落率だけでなく、増額を実行する頻度(毎月一括で見直すのか、週単位で見直すのか)や、実際に注文を出すタイミングまで、できるだけ具体的に決めておいた。判断の余地を減らせば減らすほど、感情に左右されにくくなるという実感があったためだ。証券会社の積立設定画面をあらかじめ操作に慣れておくことも、いざというときに迷わず行動できる備えの一つになっている。
このルールがあったことで、暴落の渦中にいる感情的な状態でも、大きく判断がぶれることを防げたと感じている。もし事前にルールを決めていなければ、恐怖心から積立を停止してしまうか、逆に過度に積立額を増やしてリスクを取りすぎてしまうか、どちらかの極端な判断をしていた可能性がある。
ルールを決める際に意識したのは、「暴落の深さ」と「積立額の増額幅」を段階的に連動させることだ。下落幅が浅い段階では増額幅も小さく、下落が深くなるにつれて段階的に増額幅を大きくしていくという設計にしている。一度にすべての判断をするのではなく、下落が進むたびに機械的にルールを適用していくことで、感情の揺れに左右されにくい仕組みを作ることができたと感じている。
また、増額した積立額を将来的にいつ元の水準に戻すかについても、あらかじめ基準を決めておいた。相場が回復し、基準となる指数が一定水準まで戻った時点で、段階的に通常の積立額に戻していくというルールだ。増額したままにしておくと、相場が回復した後もリスクを取りすぎた状態が続いてしまうため、出口の基準まで含めてルール化しておくことの重要性を感じている。
生活防衛資金とのバランスをどう取ったか
積立額を増やす判断をする際、最も重視したのは家計全体、とりわけ生活防衛資金への影響だ。個人事業主として、収入が不安定になるリスクは常に念頭に置いており、生活費の6か月から1年分程度を現金や預金で確保しておくことを基本方針としている。この生活防衛資金には暴落中であっても一切手をつけず、あくまで事業の余剰資金の範囲内で積立額の増額を行うことを徹底した。
大家業を20年続けてきたことで得られている家賃収入という別のキャッシュフローがあったことも、この判断を後押しした要因の一つだ。事業所得だけに依存していたら、暴落局面での積立増額の判断はもっと慎重にならざるを得なかったと思う。事業所得・家賃収入という複数の収入源を持っていることが、こうした投資判断における心理的な余裕にもつながっていると実感している。
家賃収入は株式市場の値動きとは相関性が低いため、相場全体が下落する局面でも比較的安定したキャッシュフローを維持できる。この安定した収入源があることで、積立投資という値動きのある資産クラスに対して、より長期的な視点で向き合えるようになっていると感じている。事業所得・家賃収入・金融資産という複数の柱を持つことの意味を、今回の暴落局面で改めて実感した。
また、生活防衛資金の水準を見直す際には、単に「生活費の何か月分」という一般的な基準だけでなく、自分自身の事業の特性(繁忙期・閑散期の波、主要な取引先が急に失われるリスクなど)も踏まえて、やや厚めの水準に設定するようにしている。個人事業主にとって、生活防衛資金の適正水準は、会社員とは異なる基準で考える必要があると感じている。
生活防衛資金をどの金融機関にどう分散して置いておくかについても、今回の見直しの対象にした。一つの銀行口座にすべてをまとめておくのではなく、複数の金融機関に分散し、かつ一部はすぐに引き出せる普通預金、一部はやや金利の良い定期預金に振り分けるなど、流動性と金利のバランスを考えた配置に見直した。緊急時にすぐ使える現金を確保しつつ、無駄なく資金を管理する工夫を続けている。
暴落を経験して見直した投資方針
今回の暴落局面を経験したことで、事前にルールを決めておくことの重要性を改めて痛感し、投資方針そのものも一部見直すことにした。感情に振り回されずに行動できたという成功体験を積めたことも、次に同じような局面が訪れた際の自信につながっていると感じている。具体的には、暴落時の増額ルールをより明確な数値基準に落とし込み、感情の入り込む余地を極力減らす形に改訂した。また、生活防衛資金の水準についても、従来よりやや厚めに確保するよう見直しを行った。
以前、不要と判断した医療保障系の保険を解約し、浮いた保険料を積立投資に振り替えた経緯もあり、積立投資は自分にとって単なる資産運用の手段ではなく、家計全体の設計と密接に結びついたものになっている。暴落局面での判断は、この家計全体のバランスの中で考える必要があると改めて感じた。
投資先の資産配分についても、今回の暴落を機に見直しを行った。特定の資産クラスに偏っていた部分を、より分散を意識した配分に調整し、次回同様の局面が訪れた際の値動きの振れ幅をやや抑える方向で調整した。分散投資自体は基本的な考え方として理解していたつもりだったが、実際に大きな下落を経験することで、頭での理解と実感としての理解の違いを改めて感じさせられた。
具体的には、株式中心だった資産配分に、債券や、値動きの異なる資産クラスを一定割合組み込むことで、ポートフォリオ全体の値動きをやや穏やかにする調整を行った。株式のリターンを最大限追求するよりも、暴落局面でも冷静な判断を維持できる程度に値動きを抑えることを優先した結果の調整だ。関連記事の「海外資産への分散、為替ヘッジありなしをどう使い分けているか」でも書いているように、資産クラスの分散だけでなく、通貨や地域の分散も含めて、総合的にリスクをコントロールする視点を持つようにしている。
さらに、積立投資を行っている証券口座を家族名義も含めて複数保有しているが、それぞれの口座でどの程度のリスクを取っているかを一覧で把握できるよう、管理表を整備し直した。暴落時に慌てて全体像を把握しようとするのではなく、平時から資産全体を俯瞰できる状態を維持しておくことの重要性を、今回の経験から強く学んだ。管理表は月に一度更新し、資産全体のバランスに大きな偏りが生じていないかを定期的に確認する習慣もあわせて取り入れている。
子どもの教育資金への影響をどう考えたか
積立投資の一部は、子どもたちの教育資金の準備としても活用しているため、暴落局面ではこの点についても慎重に考える必要があった。関連記事の「教育ローンの金利、奨学金と比較して結局使わなかった理由」でも触れたように、教育資金は使う時期が決まっている資金であるため、進学時期が近い子どもの分については、より保守的な資産配分にシフトしておくことの重要性を、今回の暴落を通じて改めて実感した。
進学時期がまだ先の子どもの分については、時間的な余裕があるため、暴落局面でもリスクを取った運用を継続する判断をしたが、進学が近い子どもの分は、暴落前から現金化しやすい資産への配分を進めていたことが、結果的に安心材料になった。
4人の子どもがいると、それぞれの教育資金用口座が異なる進学時期に向けて準備を進めている状態になる。暴落局面では、すべての口座を一律に同じ方針で扱うのではなく、それぞれの口座が「あとどれくらいの期間、時間を味方につけられるか」に応じて、個別にリスク水準を判断する必要があると改めて感じた。この考え方は、暴落を経験する以前から意識してはいたものの、実際に資産評価額が大きく変動する局面を経て、より具体的な運用ルールとして落とし込むことができた。
教育資金という「使う時期が決まっている資金」と、老後資金のような「使う時期に幅がある資金」とでは、同じ暴落局面でも取るべき対応が異なる。この違いを明確に意識できるようになったことも、今回の経験から得られた大きな学びの一つだった。
老後資金については、まだ受け取りまで数十年の時間があるため、暴落局面であっても慌てて資産配分を変更する必要はないと判断している。むしろ、時間を味方につけられる資金だからこそ、長期的な視点でリスクを取った運用を継続することが合理的だと考えている。資金ごとに時間軸を明確に区分し、それぞれに適した対応を取るという考え方が、今回の暴落を経て、より実践的な形で自分の中に定着したと感じている。
まとめ
暴落局面において、積立投資の金額を増やすか維持するかという判断は、頭で理解している投資理論と、実際の心理的な負担との間で大きく揺れ動くものだった。事前に数値化されたルールを決めておいたことが、感情的な判断を防ぎ、冷静な対応につながったと感じている。
今回の経験を通じて、投資において最も重要なのは、相場が穏やかな時期にどれだけ準備をしておけるかだと改めて感じている。暴落の渦中では冷静な判断力そのものが失われやすいからこそ、平時のうちにルールを決め、資金配分を整えておくことが、結果的に自分自身と家族の資産を守ることにつながるのだと思う。
生活防衛資金を確保した上で、余剰資金の範囲内で積立額を調整するという基本方針を守りながら、今後も長期的な視点で積立投資を続けていきたいと考えている。暴落は避けられないものだからこそ、平時における備えの大切さを、今回の経験を通じて改めて実感した。
投資家として20年の経験を積んでも、暴落局面での心理的な揺れをゼロにすることはできない。それでも、経験を重ねるたびにルールを見直し、次の暴落に少しずつ備えていくことで、感情に流されない判断ができるようになってきたと感じている。これから積立投資を始める方、あるいは今まさに暴落局面で悩んでいる方にとって、今回の経験が何かの参考になれば幸いだ。
免責事項
本記事は筆者個人の経験と一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。投資には元本割れをはじめとするさまざまなリスクが伴います。実際の投資判断にあたっては、ご自身のリスク許容度を踏まえ、必要に応じてファイナンシャルプランナーなどの専門家にご相談ください。


