「今年も医療費の領収書がレシートボックスにあふれている……でも医療費控除とセルフメディケーション税制、結局どっちを使えばいいんだろう」。確定申告の時期になると、毎年同じ疑問にぶつかる方は多いのではないでしょうか。私は個人事業主として働きながら、投資と兼業大家業も20年続けており、さらに4人の子どもを育てるシングルファーザーでもあります。子どもの人数が多い分、通院・薬局・歯科矯正といった医療費の項目も多岐にわたり、毎年2月になると「今年はどちらの制度を使うのが得か」を必ず計算し直しています。この記事では、実際に我が家で使っている試算方法と、個人事業主・大家という立場ならではの注意点を、具体的な数字を交えて解説します。
医療費控除とセルフメディケーション税制の基本をおさらいする
まず前提として、この2つの制度は「どちらか一方しか使えない」選択制の所得控除です。同じ年に両方を併用することはできません。それぞれの概要は次の通りです。
医療費控除は、1年間に自分や生計を一にする家族のために支払った医療費の合計額が、原則として10万円(所得金額が200万円未満の場合はその5%)を超えた場合に、超えた部分の金額を所得から差し引ける制度です。控除の上限は200万円まで。対象となるのは病院や歯科の診療費、処方薬代、通院のための交通費、一定の市販薬なども含まれ、範囲が非常に広いのが特徴です。
一方のセルフメディケーション税制は、健康の維持増進および疾病の予防への取り組みとして一定の健康診断や予防接種などを受けている人が、対象となるスイッチOTC医薬品(もともと医療用だった成分を含む市販薬)を年間で1万2,000円を超えて購入した場合に、その超えた部分(上限8万8,000円)を所得から控除できる制度です。要するに「病院にはあまり行かないけれど、風邪薬や湿布、鼻炎薬などの市販薬をよく買う家庭」向けの制度と言えます。
4人家族・我が家の医療費実態を数字で振り返る
子どもが4人いる家庭の医療費は、想像以上に積み上がります。私の場合、年間の内訳を大まかに分類すると次のようになります。
- 子どもたちの小児科・耳鼻科の通院費(季節の風邪やインフルエンザ、アレルギー性鼻炎の定期通院など)
- 歯科の定期検診と、そのうち一人が行っている歯列矯正の費用
- 私自身の人間ドックと、健康診断で引っかかった項目の再検査費用
- 薬局で購入する解熱剤・湿布・整腸剤などの市販薬
- 通院のための交通費(電車・バス代の実費)
このうち特に金額が大きいのが歯列矯正です。自由診療のため保険適用外で高額になりがちですが、発育を目的とした矯正治療は医療費控除の対象として認められるケースが一般的です。我が家でも矯正費用だけで年間の医療費控除対象額の大部分を占める年がありました。逆に、市販薬の購入額だけを見るとセルフメディケーション税制の上限である8万8,000円にはまったく届かない年がほとんどです。子どもが多いと通院回数そのものが多くなるため、結果的に「医療費控除向きの家計」になりやすいというのが、私の実感です。
比較表で制度の違いを整理する
毎年悩むポイントを整理するために、我が家で使っている比較の軸を表にまとめました。確定申告のたびにこの表を見返して、どちらを使うか判断しています。
| 比較項目 | 医療費控除 | セルフメディケーション税制 |
|---|---|---|
| 足切り額(下限) | 原則10万円(総所得200万円未満は所得の5%) | 1万2,000円 |
| 控除の上限 | 200万円 | 8万8,000円 |
| 対象費用 | 通院費・入院費・処方薬・一定の市販薬・通院交通費など幅広い | 指定されたスイッチOTC医薬品の購入費のみ |
| 適用の前提条件 | 特になし | 健康診断・予防接種など「一定の取り組み」の実施が必要 |
| 家族分の合算 | 可能(生計を一にする家族全員分) | 可能(生計を一にする家族全員分) |
| 向いている家庭 | 通院・入院・歯科矯正など医療費全体が多い家庭 | 大きな病気はないが市販薬をよく使う健康志向の家庭 |
この表を見ると分かる通り、子どもが多く通院回数が多い家庭は医療費控除、逆に持病もなく病院にかかる機会が少ない単身者や少人数世帯で市販薬をよく使う人はセルフメディケーション税制が有利になりやすい傾向があります。もちろん例外もあるため、実際には両方を仮計算して比較するのが確実です。
実際にシミュレーションしてみる
言葉で説明するより、具体的な金額で比較したほうが分かりやすいので、我が家に近い数字で試算してみます。仮に年間の医療費関連支出が次の通りだったとします。
- 通院費・処方薬代の合計(家族4人分):18万円
- 歯科矯正費用:35万円
- 市販薬(スイッチOTC対象品)の購入額:3万円
- 通院のための交通費:2万円
この場合、医療費控除の対象額は合計55万円です。そこから足切り額10万円を差し引くと、控除額は45万円になります。所得税率が仮に20%(住民税と合わせておおむね30%程度)の人であれば、単純計算で13万5,000円前後の節税効果になります。
一方でセルフメディケーション税制は、市販薬の購入額3万円から下限の1万2,000円を差し引いた1万8,000円が控除額です。同じ税率で計算すると節税効果は5,000円台にとどまります。この差は歴然としており、通院や歯科治療がある年は医療費控除一択と言ってよいでしょう。逆に、通院がほとんどなく市販薬だけで年間8万円以上使うような健康意識の高い家庭であれば、セルフメディケーション税制のほうが有利になる場合もあります。毎年両方を仮計算し、控除額が大きいほうを選ぶのが基本方針です。
個人事業主×大家というダブルワークならではの注意点
ここからは、給与所得者とは少し異なる、個人事業主かつ兼業大家という立場での注意点をお伝えします。
まず大前提として、医療費控除もセルフメディケーション税制も「所得控除」であり、事業所得や不動産所得を得るための必要経費ではありません。事業用の経費として計上できないため、確定申告書の第一表・第二表にある所得控除の欄に正しく記載する必要があります。事業所得と不動産所得を合算して申告している場合、所得金額が200万円を超えることがほとんどなので、足切り額は原則通り10万円になるケースが大半です。会社員時代のように給与所得だけで200万円未満、という状況は個人事業主歴が長くなるほど少なくなっていく印象があります。
また、不動産所得がある大家業の場合、修繕費や設備投資のタイミングで年によって所得が大きく変動することがあります。所得が少ない年はあえて医療費控除の足切り額が下がる可能性があるため、確定申告の直前に慌てて計算するのではなく、年間の所得見込みが固まった時点で一度シミュレーションしておくと安心です。私自身、大規模修繕を行った年は不動産所得が大きく圧縮され、結果として医療費控除の足切りラインが下がった経験があります。
もう一点、個人事業主は青色申告特別控除など他の控除も同時に使うため、所得控除の順番や合計額によって最終的な節税効果が変わってきます。医療費控除単体の金額だけで判断せず、申告ソフトや税理士に依頼している場合はシミュレーション機能を使って、複数パターンの所得税額を比較することをおすすめします。
領収書とレシートの管理方法
4人分の医療費領収書を1年間管理するのは、正直かなり手間がかかります。私が実践している管理方法を紹介します。
- 子ども別にクリアファイルを分け、通院のたびにレシートを入れる
- 月末に家計簿アプリへ医療費として入力し、年間の累計額を随時確認する
- 歯科矯正など高額な支払いは、支払明細書のコピーを別途保管する
- 通院の交通費はメモ書きでも認められるため、通院日と金額をスプレッドシートに記録する
- 確定申告書等作成コーナーの「医療費集計フォーム」に月次で入力しておき、年明けの作業を減らす
e-Taxで申告する場合、医療費控除の明細書の提出で足り、領収書そのものの提出は不要になりましたが、税務署から提示を求められた場合に備えて自宅で5年間保存しておく必要があります。子どもが多いとこの管理を怠るとレシートの山に埋もれてしまうので、月次での入力習慣が結果的に一番の時短になると感じています。
迷ったときの判断基準
毎年どちらを選ぶか迷う場合、私は次の順番で判断しています。
- まず家族全員分の医療費(通院・入院・歯科・処方薬・交通費)を集計し、10万円(または所得の5%)を超えているか確認する
- 超えている場合は、医療費控除の対象額から足切り額を引いた金額を計算する
- 次に市販薬(スイッチOTC対象品)の購入額を集計し、1万2,000円を超えている部分を計算する
- 両方の控除額を単純に比較し、大きいほうを選択する
- 金額差がわずかな場合は、翌年以降も継続して使う制度かどうか(健康診断を毎年受けているかなど)も加味して選ぶ
我が家の場合、子どもの通院や歯科治療がある限り、ほぼ毎年医療費控除に軍配が上がっています。実際にここ数年を振り返っても、セルフメディケーション税制のほうが有利だった年は一度もありません。ただし、子どもが成長して通院回数が減ってきたタイミングでは状況が変わる可能性もあるため、機械的にどちらか一方に固定するのではなく、毎年両方を計算する習慣そのものが節税につながると考えています。
知人から聞いた制度活用の話
余談ですが、以前知人から聞いた話として、児童扶養手当を受給しているひとり親家庭では、所得控除を最大限活用することで住民税の非課税ラインや各種手当の所得判定にも影響が出るケースがあるそうです。医療費控除やセルフメディケーション税制は所得税だけでなく住民税の計算にも反映されるため、単純な還付額以上の効果を持つ場合があるとのことでした。我が家は資産形成を優先してきた関係で該当する制度ではありませんが、所得控除が税額だけでなく所得判定全般に波及するという視点は、確定申告を考えるうえで参考になる話だと感じています。
よくある質問
医療費控除とセルフメディケーション税制は同じ年に両方使えますか
いいえ、併用はできません。どちらか一方を選択して確定申告書に記載する必要があります。年によって有利なほうが変わるため、毎年両方の金額を仮計算してから選ぶのが基本です。翌年は別の制度に切り替えることも問題ありません。
共働きでない場合、家族の医療費は誰がまとめて申告すればいいですか
生計を一にする家族であれば、実際に医療費を支払った人がまとめて申告できます。一般的には所得が高く税率が高い人が申告したほうが、還付額が大きくなる傾向があります。個人事業主と会社員が同居している家庭では、所得や税率を比較したうえでどちらが申告するか決めるとよいでしょう。
歯列矯正の費用はすべて医療費控除の対象になりますか
発育段階にある子どもの歯並びを治療する目的の矯正で、専門医が必要と判断した治療は医療費控除の対象として認められるのが一般的です。一方で、主に見た目を整える目的の美容目的の矯正は対象外とされることがあります。判断に迷う場合は、治療を受けた歯科医院に診断書や証明書の発行を相談しておくと安心です。
個人事業主でも会社員と同じように医療費控除の申告方法は変わりませんか
基本的な計算方法や必要書類は会社員と同じです。ただし個人事業主の場合は確定申告そのものを毎年行っているため、事業所得や不動産所得の申告書に所得控除として医療費控除の明細を追加する形になります。会社員のように別途「還付申告」として手続きする必要はなく、通常の確定申告の流れの中で完結します。
医療費控除とセルフメディケーション税制、どちらが得かは家庭の医療費の使い方次第で毎年変わります。4人の子どもを育てる我が家では、通院や歯科治療の機会が多いため医療費控除が有利になる年がほとんどですが、大切なのは「どちらか一方に決めつけない」ことだと感じています。個人事業主として事業所得・不動産所得を申告している方は、所得金額によって足切りラインも変わってくるため、年末が近づいたタイミングで一度、家族全員分の医療費と市販薬の購入額を集計し、両方のパターンで試算してみることをおすすめします。地道な作業ではありますが、その一手間が数万円単位の節税につながることも珍しくありません。


