「大家をやっているのに、自宅は賃貸なんですか」と聞かれることがあります。実は私自身、投資用不動産を複数保有する一方で、自分たち家族が暮らす自宅については、持ち家と賃貸のどちらが合理的か、これまで何度も検証を繰り返してきました。子どもたちの成長に合わせて住み替えを検討するタイミングが来るたびに、改めてゼロから比較し直しています。
今回、4人の子どもたちの生活環境の変化を機に、久しぶりに本格的な再検証を行いました。不動産投資家としての知見を自宅の住み替え判断に応用すると、一般的な「持ち家か賃貸か」論とは少し違った視点が見えてきます。この記事では、その検証プロセスと、私なりに出した結論を共有します。
そもそも「持ち家か賃貸か」を投資家目線で考えるとどう違うか
世の中の「持ち家vs賃貸」論争の多くは、家計の支出比較として語られます。月々の家賃と住宅ローン返済額を比べ、資産として残るかどうかを論じるパターンが典型です。
しかし、不動産投資を20年続けてきた立場から見ると、自宅も一つの「不動産」であり、収益不動産と同じ物差しで評価すべき部分があります。具体的には、次のような視点です。
– 自宅を購入した場合、その資金は投資用不動産や金融資産に回せば得られたはずのリターンを失う「機会費用」を伴う – 持ち家は流動性が低く、ライフステージの変化に対して身動きが取りにくくなる – 賃貸は流動性が高い代わりに、長期的には資産形成に直結しない支出になる – 自宅を賃貸に出す・将来売却するという出口を想定するなら、立地や物件性能が収益不動産と同じ基準で評価される
つまり「持ち家は資産、賃貸は消費」という単純な二分法ではなく、「自宅という不動産にどれだけの資金を固定化するのが合理的か」という資金配分の問題として捉え直すのが、投資家としての自宅住み替え判断だと考えています。
現在の住まいと家族構成の変化
4人の子どもを育てる中で、住まいに求める条件は年々変化してきました。子どもの人数が多い家庭では、部屋数や生活動線、学校や習い事へのアクセスなど、考慮すべき要素が単身世帯や夫婦のみの世帯とは大きく異なります。
今回住み替えを検討したきっかけは、子どもたちの成長に伴い、これまでの住環境では手狭に感じる場面が増えてきたことでした。ひとり親家庭として、家事や子どもの送迎の動線をできるだけ効率化したいという実務的な要請もあります。関連記事「家事の分担、子どもに任せていること・任せていないこと」でも触れていますが、限られた時間の中で家事と仕事を回すには、住環境そのものの効率も無視できない要素です。
賃貸継続シナリオの試算
まず、現在の住まいを賃貸のまま維持、あるいは同程度の条件の賃貸物件に住み替えるシナリオを試算しました。賃貸のメリットは、初期費用が抑えられること、修繕義務が原則として貸主側にあること、そしてライフステージの変化に応じて柔軟に住み替えられることです。
一方で、賃貸を続ける場合、支払った家賃は将来的な資産として残りません。長期間にわたって同水準の家賃を払い続けた場合の総支払額を試算し、同じ金額を持ち家取得の頭金や住宅ローン返済に充てた場合との比較を行いました。この比較では、単純な総支払額の差だけでなく、賃貸で浮いた初期資金を投資に回した場合の運用益も加味するのが、投資家としての視点です。
賃貸を選んだ場合に浮く資金を、想定利回りで運用し続けたと仮定したシミュレーションでは、長期的には一定の運用益が積み上がる計算になりました。ただし、この試算はあくまで「想定利回りで運用が順調に進んだ場合」という前提付きであり、実際の相場変動リスクは度外視していません。
持ち家取得シナリオの試算
次に、自宅を購入するシナリオを試算しました。購入時には物件価格に加えて、諸費用(仲介手数料、登記費用、不動産取得税、火災保険料など)がかかります。一般的に物件価格の6〜8%程度が目安とされることが多いですが、物件や地域によって幅があるため、あくまで目安として捉える必要があります。
持ち家取得のメリットとして大きいのは、住宅ローン控除など税制上の優遇措置を活用できる点、そして団体信用生命保険により、万が一の際にローン残債がなくなる保障機能を持つ点です。特にひとり親家庭にとって、団体信用生命保険は「自分に何かあっても子どもたちの住まいは守られる」という安心材料になります。この点は、単純な損得計算だけでは測れない価値だと感じています。
一方で、持ち家は将来の資産価値の変動リスクを直接負うことになります。人口動態や地域の将来性によっては、購入時よりも資産価値が下落するリスクも当然あります。この点は、投資用不動産の物件選定と同様、立地評価が極めて重要になる部分です。
「投資用不動産の物件選定基準」を自宅選びに応用する
今回の検証で最も意識したのは、自宅を選ぶ際にも、投資用不動産を選ぶときと同じ基準を適用するという点です。具体的には次のような基準です。
– 最寄り駅からの距離や交通利便性(将来の賃貸需要・売却需要にも直結する) – 周辺エリアの人口動態、開発計画の有無 – 建物の構造・築年数と将来の修繕コスト見込み – 学校区や生活インフラなど、子育て世帯としての実需要件
投資用不動産であれば「将来この物件を貸せるか、売れるか」という出口を必ず意識しますが、自宅であってもこの視点を持っておくことで、万が一将来的に自宅を売却して住み替える、あるいは賃貸に出して別の場所に移るという選択肢を残すことができます。「一生この家に住み続ける」という前提を置かない限り、自宅も出口を意識した資産として評価すべきだというのが、20年大家業を続けてきた私の考え方です。
ライフステージの変化と流動性のトレードオフ
ひとり親家庭という立場上、子どもたちの独立後の生活設計まで見据えると、住まいの流動性は非常に重要な要素になります。子どもたちが4人とも独立した後、今の住まいの広さが必要かどうかは、現時点では正確に予測できません。
持ち家は、一度取得すると住み替えのハードルが上がります。売却には時間と手間がかかり、タイミングによっては希望する価格で売れないリスクもあります。一方、賃貸であれば、ライフステージの変化に応じて柔軟に住み替えることができます。
今回の検証では、この「流動性の価値」を金額換算することは難しいものの、無視できない判断材料として位置づけました。特に子どもの数が多い家庭では、将来の生活パターンの変化幅が大きくなりやすく、流動性を確保しておくメリットは相対的に高いと考えています。
私が出した結論と、その理由
今回の再検証の結果、現時点では持ち家取得を急がず、当面は賃貸を継続しつつ、資金は投資用不動産や金融資産の運用に充てるという結論に至りました。理由は主に3点です。
1点目は、子どもたちの独立時期や進路によって、必要な住環境が今後も変化する可能性が高く、流動性を優先したいこと。2点目は、既に投資用不動産を複数保有しており、不動産という資産クラスへの資金配分がすでに一定水準に達していること。3点目は、賃貸で浮いた資金を運用に回すシミュレーションにおいて、長期的な資産形成効率が悪くないと判断できたことです。
ただし、この結論は「持ち家より賃貸が絶対的に優れている」という一般論ではありません。あくまで、現時点での私の資産構成、家族構成、リスク許容度を踏まえた個別の判断です。関連記事「中古アパート投資、購入前のデューデリジェンスで見るポイント」でも書いたように、不動産の価値判断は物件ごと、状況ごとに大きく異なるため、一般化しすぎることには注意が必要だと考えています。
定期的な再検証の重要性
今回の検証を通じて改めて感じたのは、住まいの選択は一度決めたら終わりではなく、家族のライフステージや資産状況の変化に応じて定期的に見直すべきテーマだということです。子どもたちの成長、収入状況の変化、金利環境の変化など、さまざまな要素が絡み合うため、数年に一度は同じ問いを立て直すようにしています。
次回の見直しタイミングとしては、子どもたちの進学状況が大きく変わるとき、あるいは保有する投資用不動産のポートフォリオに大きな変化があったときを想定しています。感覚ではなく、その都度数字で再検証する姿勢を持ち続けることが、長期的に合理的な住まい選択につながると考えています。
住宅ローン控除を「投資家目線」で捉え直す
持ち家取得を検討する際、多くの人が着目するのが住宅ローン控除です。年末のローン残高に応じて一定割合が所得税等から控除される制度で、金利負担を実質的に軽減してくれる効果があります。しかし、不動産投資を20年続けてきた立場からこの制度を眺めると、少し違った捉え方もできることに気づきました。
投資用不動産のローンには、住宅ローン控除のような制度は基本的に適用されません。つまり、自宅を購入して住宅ローン控除を受けるという選択は、「投資用ローンでは得られない税制優遇を受けられる、数少ない自宅ならではのメリット」だとも言えます。この控除額を、賃貸を継続した場合に浮く資金の運用益と比較してみると、金利水準や借入額によっては、住宅ローン控除の効果が想定以上に大きく効いてくるケースもあることが試算で分かりました。
ただし、住宅ローン控除は年々制度の内容が見直されており、対象となる借入限度額や控除率、適用期間は改正のたびに変わっています。今回の試算はあくまで現時点の制度を前提にしたものであり、将来的に控除の内容が縮小される可能性も織り込んで判断する必要があると考えています。制度が変わるたびに、賃貸継続シナリオとの比較をアップデートしていくつもりです。
持ち家を選んだ場合のメンテナンスコストをどう見積もるか
持ち家取得を検討する上で、意外と見落とされがちなのが、購入後の維持コストです。投資用不動産では当然のように見積もる修繕積立や大規模修繕費用の考え方を、自宅にもそのまま応用してみました。
戸建てであれば、外壁や屋根の塗装、給排水設備の更新など、十数年単位で数十万円から百万円単位の修繕費用が発生することが一般的です。マンションであれば管理費・修繕積立金という形で毎月の固定費が発生し、将来的な修繕積立金の値上げリスクも考慮する必要があります。私は投資用不動産の管理を通じて、こうした修繕コストを「発生してから慌てて捻出する」のではなく、あらかじめ月割りで積み立てておく感覚が身についているため、自宅についても同様に、仮に持ち家を選んだ場合の修繕積立額を毎月の資金計画に織り込んでシミュレーションしました。
この試算を行うと、持ち家の実質的な保有コストは、ローン返済額だけを見た場合よりも確実に高くなることが分かります。賃貸と持ち家を比較する際は、目先の月々の支払額だけでなく、こうした将来の修繕コストまで含めた「実質コスト」で比較しなければ、正確な判断はできないというのが、今回の再検証で改めて得た気づきです。
子どもたちの独立後を見据えた「出口」の選択肢
4人の子どもを育てる家庭にとって、今の住まいの広さが必要な期間は、子育て期間という限られた時間軸の中の話です。子どもたちが独立した後、今と同じ広さの住まいが必要かどうかは、現時点では正確には分かりません。
仮に持ち家を選んだ場合でも、子どもたちの独立後にダウンサイジング(より小さな住まいへの住み替え)を選択肢として残しておけるかどうかは、物件選びの段階で意識しておくべきポイントだと考えています。将来的に売却しやすい、あるいは賃貸に出しやすい立地・物件性能であれば、ライフステージの変化に応じて住み替えるという柔軟性を確保できます。逆に、将来の出口を意識せずに「今の暮らしやすさ」だけを優先して物件を選んでしまうと、子どもたちの独立後に身動きが取れなくなるリスクがあります。
この視点は、投資用不動産の物件選定基準を自宅に応用する考え方の延長線上にあるものです。今回、当面は賃貸継続という結論に至った背景には、こうした将来の出口の柔軟性を最優先したいという判断も含まれています。仮に将来、持ち家取得に踏み切るタイミングが来たとしても、この「出口を意識した物件選び」という基準だけは崩さずに検討していきたいと考えています。
住み替えのタイミングと学校区の兼ね合いをどう考えるか
子育て世帯にとって、住み替えを検討する際に避けて通れないのが、学校区との兼ね合いです。転居によって通学先が変わる場合、子どもの生活環境が大きく変化することになるため、単純な資金効率だけで住み替えの是非を判断するわけにはいきません。
今回の再検証では、仮に住み替えるとした場合の候補エリアを複数リストアップし、それぞれの学校区の状況(通学距離、学級規模、地域の子育て支援サービスの充実度など)も比較材料に加えました。投資用不動産の物件選定であれば、こうした要素は「賃貸需要に影響する立地条件」として数値化しやすいのですが、自宅の場合はここに子ども自身の生活の継続性という、金額に換算しにくい要素が加わります。
結果として、今回は「学校区を変えるほどの明確なメリットが、現時点では見出せなかった」ことも、住み替えを急がず賃貸継続とした判断の一因になりました。4人の子どもたちがそれぞれ今の環境に慣れて生活している中で、住み替えのタイミングは資産効率だけでなく、子どもの生活の連続性というもう一つの軸を必ず併せて考える必要があると、改めて実感した検証でした。今後、進学などの節目のタイミングが来た際には、この学校区の要素も含めて再度検証し直すつもりです。
住み替えを検討する際に見落としがちな「保険」の視点
住み替えの検証を進める中で、意外と見落としがちだったのが火災保険や地震保険の見直しです。賃貸であれば借家人賠償責任保険を含む家財保険が中心になりますが、持ち家を取得する場合は建物そのものへの補償が必要になり、保険料の水準も大きく変わってきます。
不動産投資家として複数の収益物件に火災保険・地震保険をかけてきた経験から言うと、保険料は建物の構造(木造か鉄筋コンクリート造かなど)や築年数、所在地の水災リスクなどによって大きく変動します。持ち家取得シナリオを試算する際には、こうした保険料も長期的な保有コストの一部として織り込む必要があり、今回の試算でも、候補物件の構造ごとに想定される保険料水準を概算で加味しました。
賃貸の場合の家財保険は保険料自体が比較的小さいため見落とされがちですが、持ち家取得となると、火災保険・地震保険の保険料は数十年単位で積み上げると決して小さくない金額になります。住まいの資金計画を立てる際には、ローン返済額や修繕費用だけでなく、こうした保険コストまで含めて総合的に比較することが、正確な判断につながると考えています。
家族会議として住まいの話をする意義
今回の再検証にあたっては、数字の試算だけでなく、家族の中で住まいについて話す時間も意識的に作りました。子どもたちの年齢に応じて理解できる範囲は異なりますが、「今の家にはこういう良さがある」「引っ越すとしたらこういう変化がある」といったことを、できる範囲で共有するようにしています。
投資家としての試算や合理性の追求ばかりが先行すると、家族にとっての住まいの意味を見落としてしまいがちです。数字の上では賃貸継続が合理的だという結論に至った今回も、子どもたちが今の住環境に愛着を持っているかどうかは、最終判断において無視できない要素でした。合理性と家族の納得感、その両方を大切にしながら住まいの方針を決めていきたいと考えています。
まとめ
自宅の住み替えにおける賃貸と持ち家の比較は、単純な家賃とローン返済額の比較だけでなく、機会費用、流動性、税制優遇、保障機能など、多角的な視点から検討する必要があります。今回の再検証では、子どもたちのライフステージの変化を見据えた流動性の重要性と、既存の不動産投資ポートフォリオとのバランスを踏まえ、当面は賃貸を継続する結論に至りました。この判断は今後の状況変化に応じて、改めて見直していくつもりです。
免責事項
本記事は筆者個人の経験と考え方に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の住まい選択や不動産取引を推奨するものではありません。住宅ローン控除などの税制は改正される可能性があります。実際の住み替えや資金計画の判断にあたっては、必ず不動産会社や税理士、ファイナンシャルプランナーなど専門家にご相談の上、ご自身の責任で行ってください。


