個人事業主として20年近く働いてきて、医療保険に対する考え方は大きく変わりました。会社員時代の感覚のまま「入院したら困るから、手厚い医療保険に入っておこう」という発想でいると、実は公的医療保険がカバーしてくれる範囲の広さを見落としてしまいます。
私は現在、医療保険については実質的に「持たない」に近いところまで絞り込んだ設計にしています。その最大の理由が「高額療養費制度」の存在です。この記事では、高額療養費制度の仕組みと、個人事業主として国民健康保険に加入している立場からどう医療保険を設計してきたのか、実際の考え方を共有します。4人の子を育てる家計を守る立場として、限られた保険料予算をどこに配分するかは、常に数字で検証してきたテーマです。
高額療養費制度とは何か
高額療養費制度は、医療機関や薬局の窓口で支払った医療費が、1か月(月初から月末まで)で一定の自己負担限度額を超えた場合に、その超えた分が払い戻される公的な制度です。健康保険(会社員が加入する協会けんぽや組合健保)だけでなく、個人事業主が加入する国民健康保険にも同様に適用されます。
自己負担限度額は年齢と所得水準によって区分が分かれています。69歳以下の場合、所得区分はおおむね5段階に分かれており、たとえば標準報酬月額や課税所得を基準にした「一般所得者」の区分では、自己負担限度額はおおよそ「80,100円+(医療費-267,000円)×1%」といった計算式で決まります(2026年時点の一般的な制度内容。所得区分や計算式は改定される可能性があるため、最新情報の確認が必要です)。つまり、どれだけ医療費が高額になっても、所得に応じた上限を超えた分は払い戻されるため、青天井で自己負担が膨らむことはない、という設計になっています。
さらに、事前に「限度額適用認定証」を医療機関に提示しておけば、窓口での支払い自体を自己負担限度額までに抑えることができ、高額な医療費を一旦全額立て替える必要もなくなります。個人事業主の場合、国民健康保険の窓口(市区町村)や、加入している国民健康保険組合を通じてこの認定証を取得できます。マイナンバーカードを健康保険証として利用する仕組み(マイナ保険証)を使えば、限度額適用認定証を事前に取得しなくても、窓口での支払いが自動的に自己負担限度額までに抑えられる運用も広がっており、私自身もこの仕組みを利用するようになってから、事前の申請手続きの手間がかなり軽減されたと感じています。
加えて、「多数回該当」という仕組みも押さえておきたいポイントです。直近12か月以内に高額療養費の支給を3回以上受けている場合、4回目以降は自己負担限度額がさらに引き下げられる仕組みになっています。長期にわたる治療が必要な場合、この多数回該当の恩恵は非常に大きく、慢性的な疾患を抱えるリスクに対しても、公的制度が相応の備えを用意してくれていることが分かります。
さらに、同一世帯内で複数の家族がそれぞれ医療費を支払った場合、それらを合算して自己負担限度額を計算できる「世帯合算」という仕組みもあります。4人の子を育てていると、同じ月に複数の子が通院・入院するケースも起こり得ますが、世帯合算の仕組みを使えば、家族全員分の自己負担額を合計した上で限度額を超えた分の払い戻しを受けられます。ただし、69歳未満の場合は1つの医療機関でひと月に自己負担額が21,000円以上になった分のみが合算対象になるなど、細かい適用条件があるため、実際に高額な医療費が発生した際は、加入している国民健康保険の窓口に合算の可否を確認するようにしています。
高額療養費の申請から実際に払い戻しを受けるまでには、通常数か月程度のタイムラグが生じることも知っておくべきポイントです。限度額適用認定証を事前に取得しておけば窓口での支払い自体を抑えられますが、認定証を使わずに一旦全額を立て替えて後から申請する場合は、このタイムラグの間の資金繰りも考慮しておく必要があります。
国民健康保険と会社員の健康保険の違い
高額療養費制度自体は国民健康保険でも会社員の健康保険でも基本的な仕組みは共通していますが、個人事業主が意識すべき違いがいくつかあります。
まず、傷病手当金の有無です。会社員が加入する協会けんぽや組合健保には、病気やケガで働けなくなった場合に給与の一部を補償する傷病手当金という制度がありますが、国民健康保険には原則としてこの制度がありません(一部の自治体で新型コロナウイルス感染症に対する特例措置があった時期もありましたが、恒常的な制度としては存在しないのが一般的です)。つまり、個人事業主が病気やケガで長期間働けなくなった場合、収入がゼロになるリスクを公的保障だけではカバーできないということです。
この点は、医療費そのものの保障(高額療養費制度)と、働けない間の生活費の保障を分けて考える必要がある理由になっています。私が医療保険を持たない一方で、生活防衛資金を厚めに確保し、万一の死亡時には掛け捨ての定期保険で備えることを重視しているのは、この国民健康保険の弱点を補うためです。
次に、保険料の計算方法の違いです。国民健康保険の保険料は前年の所得に応じて計算されるため、個人事業主として所得が高い年は保険料も高くなります。この保険料の負担も、医療保険の設計を考える上で無視できないコストです。所得が大きく変動しやすい個人事業主にとって、好調な年の国民健康保険料が翌年の家計を圧迫することもあるため、私は所得が良かった年ほど翌年分の保険料を見込んで資金をあらかじめ確保しておくようにしています。
さらに、扶養の考え方にも違いがあります。会社員の健康保険では、一定の要件を満たす家族を扶養に入れることで、その家族の保険料負担が発生しない仕組みがありますが、国民健康保険には扶養という概念自体がなく、世帯全員がそれぞれ被保険者として保険料の計算対象になります。子どもの人数が多い世帯ほど、この違いが保険料総額に与える影響は大きくなるため、個人事業主として国民健康保険に加入している場合は、扶養がある会社員世帯との単純な保険料比較ができない点も理解しておく必要があります。
実際に私の世帯の国民健康保険料を試算してみると、子どもの人数分の均等割(世帯の被保険者数に応じてかかる保険料部分)が積み重なることで、会社員時代の感覚よりも保険料の負担感が大きいと感じる場面が少なくありませんでした。自治体によっては、子育て世帯の均等割を軽減する制度を設けているところもあるため、居住する自治体の国民健康保険料の軽減制度についても、毎年最新の情報を確認するようにしています。こうした自治体独自の軽減制度は、所得や世帯構成によって適用条件が異なるため、市区町村の窓口やホームページで直接確認するのが確実です。
なぜ医療保険を最小限にしたのか
私が医療保険を最小限に、最終的にはほとんど持たない形にまで絞った理由は、主に3つあります。
1つ目は、高額療養費制度によって、入院・手術にかかる医療費そのものの自己負担には上限があるという安心材料があるからです。民間の医療保険は「入院1日あたり日額いくら」「手術給付金いくら」という設計が一般的ですが、高額療養費制度でカバーされる部分と重複している保障には、あまり大きな価値を感じられませんでした。
2つ目は、差額ベッド代や先進医療にかかる費用など、高額療養費制度の対象外となる費用への備えも、貯蓄で十分カバーできる規模だと判断したからです。差額ベッド代は病院・部屋のタイプによって幅がありますが、仮に長期入院になったとしても、事前に準備した生活防衛資金の範囲で対応できると考えています。先進医療については、以前は保険料が安価な特約だけをピンポイントで付帯する形にしていましたが、実際に対象となる治療を受ける確率や、特約であっても保険会社の利益が上乗せされた保険料構造になっている点を改めて整理した結果、「発生確率が極めて低いリスクに、保険という形で保険料を払い続ける」ことの合理性に疑問を持つようになり、最終的にはこの特約も含めて解約しました。
3つ目は、保険料を投資や事業資金に回したほうが、長期的なリターンが見込めると判断したからです。医療保険の保険料は基本的に掛け捨てで、使わなければ戻ってきません。その分を新NISAなどの長期投資に回すことで、将来の医療費や生活費に充てられる資産を育てるほうが、家計全体としては合理的だと考えています。実際に、過去数年分の医療保険料の差額を仮に投資に回していたらどうなっていたかを試算してみたことがあり、想定以上の複利効果が積み上がっていることを数字で確認できたのも、この方針に自信を持つきっかけになりました。
この「保険料を最小限にして、浮いた分を運用に回す」という考え方は、いわゆる「保険と貯蓄の分離」という発想に基づいています。保険はあくまで「確率は低いが起きたら家計が破綻しかねないリスク」に備えるものであり、発生確率が高く、かつ発生しても貯蓄で十分対応できる規模のリスクにまで保険で備える必要はない、という整理です。高額療養費制度によって医療費の自己負担に上限がある以上、通常の入院・手術は「貯蓄で対応できる規模のリスク」に分類できると私は判断しています。先進医療のように費用が青天井になり得るリスクについても、実際に利用する確率の低さと、事前に確保している生活防衛資金の規模を踏まえると、保険で備えるよりも貯蓄で備えるほうが合理的だと考えるに至りました。
実際の医療保険の設計内容
最終的に私が行き着いた設計は、入院給付金付きの医療保険や先進医療特約を含め、民間の医療保険には加入しない、というものです。以前は入院給付金の日額を低めに設定した定期型の医療保険に、先進医療特約だけを付帯する形で保有していた時期もありました。しかし、高額療養費制度によって医療費の自己負担に上限があること、差額ベッド代や先進医療費用も生活防衛資金でカバーできる規模であること、そして先進医療そのものを実際に利用する確率が極めて低いことを改めて数字で整理した結果、「保険料を払い続けてまで備えるべきリスクではない」という結論に至り、すべて解約しました。
がん保険や三大疾病保険など、特定の疾病に特化した保険についても、同様の考え方から加入していません。これらの保険は罹患した場合の一時金は魅力的に見えますが、高額療養費制度と、生活防衛資金としての貯蓄でカバーできる範囲だと判断しているためです。特定の疾病だけに手厚く備えるよりも、どんな理由であれ働けなくなったときにも対応できる貯蓄という汎用性の高い備えのほうが、個人事業主にとっては理にかなっているという考え方です。
仮に医療保険を持つとしても、終身型ではなく定期型を選ぶべきだと当時は考えていました。ただし、定期型は更新のたびに保険料が年齢に応じて上がっていく仕組みであり、その都度「更新するか」「見直すか」「解約して貯蓄で代替するか」を検討し直す手間がかかります。この検討を繰り返す中で、そもそも保険という形で持たず、最初から貯蓄と公的制度で備えるほうがシンプルで合理的だという考えに行き着いたのが、今の設計です。保険料をゼロにしたことで、以前は保険会社に払っていた月々の金額をそのまま新NISAへの積立に回せるようになりました。保険は「低確率・大損失」に備えるためのものであり、資産を増やすための金融商品ではないと考えると、通常の入院・手術で想定される費用の自己負担分は、高額療養費制度と貯蓄で対応できる「貯蓄で備えられるリスク」に分類できるというのが、今の私の整理です。
医療保険を見直す際に確認すべきポイント
医療保険を持たない設計に見直す際に、私が確認したポイントをいくつか挙げます。
まず、自分の所得区分における高額療養費の自己負担限度額を正確に把握しておくことです。所得が変動する個人事業主の場合、年によって所得区分が変わり、自己負担限度額も変動します。毎年の確定申告のタイミングで、自分の所得区分と自己負担限度額を確認する習慣をつけています。
次に、貯蓄でカバーできる医療費の範囲を明確にしておくことです。高額療養費制度でカバーされない差額ベッド代や雑費、そして制度適用までのタイムラグに対応するための当座の資金として、生活費の3〜6か月分程度を目安に医療費・生活防衛資金として確保しています。この生活防衛資金は、医療費だけでなく、事業の売上が落ち込んだ際のバッファとしても機能させており、いわば医療リスクと事業リスクを同じ資金プールで一括してカバーする発想です。
そして、働けなくなった場合の備えとのバランスです。医療費そのものの自己負担は高額療養費制度と貯蓄で対応できても、働けない期間の「生活費」の備えは、生活防衛資金としての貯蓄で確保する必要があります。この2つを混同せず、それぞれの役割を明確にした上で備えを組み立てることが重要だと感じています。この考え方は別記事「定期保険の見直し、子どもの人数で必要保障額はどう変わるか」とも密接に関連しており、医療費・生活防衛資金・死亡保障という異なるリスクをそれぞれ独立した対策として設計しつつ、全体として重複や漏れがないかを俯瞰する視点を持つようにしています。
最後に、確定申告における医療費控除との関係も確認しておきたいポイントです。1年間の医療費が一定額を超えた場合、医療費控除として所得控除を受けられる制度があり、高額療養費制度で払い戻された金額はこの医療費控除の対象からは差し引いて計算する必要があります(民間の医療保険から給付金を受け取っている場合も同様に差し引く必要があります)。これらの制度は独立しているようで実は密接に関連しているため、確定申告の際には、高額療養費の払い戻し額と実際に支払った医療費を漏れなく突き合わせて計算するようにしています。
子ども医療費助成制度と高額療養費制度の関係も整理しておく
高額療養費制度とは別に、多くの自治体では子どもを対象とした医療費助成制度(いわゆる子ども医療費助成)が設けられています。対象年齢や自己負担額、所得制限の有無は自治体によって差があり、就学前までは所得制限なしで助成している自治体が多い一方、対象年齢が上がるにつれて所得制限が設けられていたり、自己負担額が発生したりする自治体もあります。
我が家の場合、子どもたちが幼かった時期は、居住していた自治体の子ども医療費助成の対象内で、通院・入院にかかる自己負担がかなり軽減されていた実感があります。一方で、対象年齢や所得区分によっては対象外・一部自己負担ありという扱いになる制度設計だったため、「子ども医療費助成があるから医療保険は不要」と単純に考えるのではなく、あくまで高額療養費制度・子ども医療費助成・貯蓄という複数の仕組みが、それぞれ異なる範囲をカバーしているという整理をするようにしています(民間の医療保険については、前述の通り私自身は現在加入していません)。
特に、子ども医療費助成の対象外になる年齢に達した後は、高額療養費制度と貯蓄が主な備えになります。子どもの成長とともに、こうした公的制度のカバー範囲がどう変化していくのかを把握しておくことは、家族全体の医療費への備えを考える上で欠かせない視点だと感じています。制度の詳細や所得制限の有無は自治体によって大きく異なるため、実際の適用可否については、お住まいの自治体の窓口で確認するのが確実です。
まとめ
高額療養費制度は、個人事業主にとっても会社員にとっても、医療費の自己負担に上限を設けてくれる非常に重要な公的制度です。この制度の存在を正しく理解した上で数字を整理すると、通常の入院・手術にかかる自己負担は貯蓄で十分対応できる規模に収まることが多く、民間の医療保険については、私自身は現在加入せず、高額療養費制度と貯蓄で備える設計にしています。多くの人は自分が加入している公的医療保険の保障範囲を正確に把握しないまま、なんとなくの不安から民間保険に頼りがちですが、まず公的制度の仕組みを理解することが、無駄のない保険選びの出発点になると感じています。
一方で、国民健康保険には傷病手当金がないという弱点があるため、医療費そのものの備えだけでなく、働けなくなった際の生活防衛資金の確保もあわせて検討することが、個人事業主にとっては欠かせない視点だと感じています。公的制度と貯蓄、そして必要な範囲の備えだけに絞ることが、無駄のない設計への近道だと実感しています。
4人の子を育てる立場として、保険料という固定費を必要以上に膨らませないことは、教育資金や将来の資産形成に回せる原資を確保する上でも重要な意味を持っています。公的制度を正しく理解し、民間の医療保険には頼らずに貯蓄で備える、という姿勢を今後も貫いていきたいと考えています。今後も制度改正の動向を注視しながら、必要に応じて生活防衛資金の水準を見直していくつもりです。家計全体のバランスを見ながら、都度立ち止まって考え直す習慣を大切にしていきたいと思います。
免責事項
本記事は筆者個人の経験と一般的な情報提供を目的としており、特定の保険商品への加入や見直しを推奨するものではありません。高額療養費制度の自己負担限度額や計算式、対象となる医療費の範囲は制度改正により変更される可能性があります。実際の制度適用や保険の見直しにあたっては、必ず加入している国民健康保険の窓口や保険会社、ファイナンシャルプランナーなど専門家にご確認・ご相談ください。


