こんにちは、シンパパ資産設計士です。
ライフプランの作り方シリーズ、第9回です。前回は、インフレ率をライフプランに織り込む重要性について解説しました。さて今回は、多くの人が漠然とした不安を抱えている「老後資金はいくら必要か」というテーマについて、平均的な目安ではなく、自分自身の場合で具体的かつ現実的に計算する方法を解説していきます。
老後資金の「平均的な目安」は自分に当てはまらない
「老後資金は2,000万円必要」「老後資金は3,000万円あれば安心」といった目安をメディアやSNSで目にしたことがある方は多いはずです。しかし、これらの数字はあくまで平均的なモデルケースをもとに算出されたものであり、家族構成・住居の状況・生活水準が異なれば、必要な金額も大きく変わってきます。
「老後2,000万円問題」の前提を確認する
2019年に話題になった「老後2,000万円問題」は、夫婦2人・無職世帯の平均的な収支データをもとに、毎月の赤字額に老後の年数を掛け合わせて算出されたものでした。この前提には、持ち家か賃貸か、子どもの人数、退職金の有無といった個別事情は反映されていません。この数字をそのまま自分の家庭に当てはめても、意味のある指標にはならないという点を、まず理解しておく必要があります。
世帯構成・持ち家有無で必要額は大きく変わる
持ち家でローンを完済していれば、老後の住居費は固定資産税・修繕費程度に抑えられますが、賃貸のまま老後を迎えると、家賃という大きな固定費が生涯続くことになります。また、子どもの人数が多い家庭では、教育費の負担が長引く一方、独立後は自分の生活費だけに集中できるようになるという側面もあります。平均的な目安を鵜呑みにせず、自分の家庭の状況に合わせて個別に試算することが、老後資金を考える上での出発点です。
自分の場合で計算する4ステップ
ここからは、老後資金を自分の場合で具体的に計算する4つのステップを紹介します。
ステップ1:老後の年間支出を見積もる
まずは、家計管理シリーズで作成した年間生活費表をベースに、老後の年間支出をきちんと見積もります。現役時代とは異なり、教育費や住宅ローンの返済がなくなる一方、医療費・介護費といった新たな支出項目が増える可能性があります。現役時代の生活費をそのまま老後に引き延ばすのではなく、老後特有の支出構造に合わせてしっかり見直すことがポイントです。
ステップ2:老後の年間収入(年金等)を見積もる
次に、老後の年間収入についてもしっかり見積もります。会社員であれば厚生年金、個人事業主であれば国民年金が収入の柱になりますが、それだけで十分と考えるのは危険です。ねんきん定期便やねんきんネットで、将来受け取れる年金の見込み額を確認し、そこに資産収入・不動産収入といった他の収入源を加えて、老後の総収入を見積もります。
ステップ3:不足額×老後年数で必要総額を出す
ステップ1の支出からステップ2の収入を差し引くと、毎年の不足額(赤字額)が計算できます。この不足額に、老後の想定年数(たとえば65歳から95歳までの約30年間)を掛け合わせることで、老後資金として準備しておくべき総額の目安が見えてきます。この際、前回解説したインフレ率もきちんと加味して試算すると、より現実的な数字になります。
ステップ4:資産収入・退職金等の取り崩し計画を立てる
必要総額が分かったら、その金額をどう準備するかの計画を立てます。退職金・保有資産・企業年金など、老後に取り崩せる資産の一覧を作り、何歳からどのペースで取り崩していくかをシミュレーションします。資産を一度にすべて取り崩すのではなく、運用を続けながら少しずつ取り崩すことで、資産の寿命を延ばせる可能性があります。
4児シンパパとして老後資金を考える上での固有事情
子育て世帯、特に子どもの人数が多い家庭には、老後資金の準備において固有の事情があります。
子どもの独立時期と老後資金準備開始のタイミング
4人の子どもがいる家庭では、教育費の負担が長期間続くため、老後資金の本格的な積み立てを開始できる時期が、子どもが少ない家庭に比べて後ろ倒しになりがちです。だからこそ、教育費のピークが過ぎた後、老後資金の積み立てペースを一気に引き上げるという計画性が重要になります。末子の独立時期を、ライフイベント表の中で老後資金準備の「本格始動ライン」として明確に位置づけておくことをおすすめします。
個人事業主・大家というリタイアの形が曖昧な働き方
個人事業主や兼業大家という働き方は、会社員のような明確な定年がなく、「何歳でリタイアするか」という境界が曖昧になりがちです。この曖昧さは、老後資金の計算を難しくする一因でもありますが、裏を返せば体力や状況に応じて働く期間を柔軟に調整できるという強みでもあります。老後資金の試算では、「完全リタイア」ではなく「徐々に収入を減らしていく」という現実的なシナリオも併記しておくと、より柔軟な計画になります。不動産収入のように、体力的な負担が比較的少ない収入源を老後まで持ち越せることも、こうした働き方ならではのメリットだと感じています。
老後資金の準備を今から始める
老後資金の必要額が見えたら、次はその準備を具体的にどう進めるかを考えます。
iDeCo・NISAといった税制優遇制度の活用
老後資金の準備には、iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)といった税制優遇制度の活用が有効です。iDeCoは掛金が全額所得控除の対象になり、運用益も非課税という大きなメリットがあります。NISAは、老後資金に限らず幅広い用途に使える柔軟性が魅力です。それぞれの制度の特徴を理解した上で、自分の状況に合わせて使い分けることをおすすめします。
取り崩しシミュレーションも忘れずに行う
資産形成のシミュレーションは行っても、実際に老後に資産を取り崩していく段階のシミュレーションまでは行っていないという方も多いのではないでしょうか。取り崩しの順序(課税口座から先に取り崩す、非課税口座は温存する等)や、取り崩しペースによって、資産の寿命は大きく変わります。老後資金は「貯める段階」だけでなく「取り崩す段階」までを含めて計画しておくことが大切です。
定率取り崩しと定額取り崩しの違い
資産の取り崩し方には、大きく分けて「毎年一定額を取り崩す定額方式」と「毎年資産残高の一定割合を取り崩す定率方式」の2つの考え方があります。定額方式はシンプルで生活設計を立てやすい一方、相場が下落した局面でも同じ金額を取り崩すため、資産の減少ペースが早まるリスクがあります。定率方式は、相場に応じて取り崩し額が変動するため資産が長持ちしやすい一方、収入が不安定になりやすいという側面もあります。どちらが良いかは一概には言えませんが、両者の特徴を理解した上で、自分の性格や生活スタイルに合った方式を選ぶことが大切です。
老後の支出を見積もる際に見落としがちな3つの項目
老後の年間支出を見積もる際、多くの人が見落としがちな項目が3つあります。これらをうっかり織り込み忘れると、必要総額を過小評価してしまう可能性があります。
①医療費・介護費の増加
年齢を重ねるにつれて、医療費・介護費は増加していく傾向にあります。高額療養費制度等により自己負担には上限がありますが、それでも現役時代に比べて医療費の支出は増える見込みで試算しておく方が安全です。介護が必要になった場合の費用(施設利用料・介護用品費等)も、別枠で想定しておくことをおすすめします。
②住宅の修繕・リフォーム費用
持ち家の場合、ローンを完済した後も、外壁塗装・屋根の補修・水回りの設備更新といった大規模修繕は定期的に発生します。老後の住居費を「固定資産税だけ」と見積もってしまうと、こうした特別費を見落としてしまう危険があります。住宅費シリーズで解説した「ローン完済後も支出は続く」という視点を、老後の試算にもしっかり反映させることが大切です。
③趣味・旅行・交際費といった「生きがい支出」
老後の生活費を切り詰めることばかりに意識が向くと、趣味や旅行、友人との交際費といった、生活の質や生きがいに直結する支出を軽視してしまいがちです。老後は自由な時間が増える分、こうした支出が現役時代より増えるケースも少なくありません。「生きがい支出」も老後の生活費の一部として、あらかじめ予算枠を確保しておくことをおすすめします。切り詰めるだけの老後計画は、長続きしにくいものです。
ねんきん定期便・ねんきんネットを使った具体的な確認方法
老後の収入を見積もる上で欠かせないのが、公的年金の見込み額の確認です。
ねんきん定期便で毎年の見込み額を確認する
毎年誕生月に送付されるねんきん定期便には、これまでの年金加入記録と、将来受け取れる年金の見込み額が記載されています。50歳以上になると、現在の年収が60歳まで続いた場合の、より現実に近い見込み額が表示されるようになります。この数字を、老後の収入見積もりの土台として活用しましょう。手元に届いたら、内容を確認して大切に保管しておくことをおすすめします。
ねんきんネットでシミュレーションする
ねんきんネットに登録すると、より詳細な条件でのシミュレーションが可能になります。「何歳まで働き続けるか」「繰り下げ受給をした場合どうなるか」といった条件を変えながら試算できるため、自分の働き方の選択肢に応じた年金額を確認しておくと、老後資金の必要総額をより精緻に見積もることができます。繰り下げ受給は受給開始を遅らせるほど月々の受給額が増える仕組みなので、健康状態や資産状況と照らし合わせて検討する価値があります。
「老後資金」を1つの数字ではなく3段階で考える
老後資金というと、つい「いくら貯めればゴールか」という単一の数字で考えてしまいがちですが、実際には老後の期間の中でも、支出の性質が変化していきます。老後を3つの段階に分けて考えると、より現実的な計画が立てられます。
第1段階:活動的なアクティブシニア期(65〜75歳頃)
リタイア直後のこの時期は、まだ体力・気力ともに充実しており、旅行や趣味など、現役時代にできなかったことに時間とお金を使いたいと考える人が多い時期です。生活費に加えて、こうした「生きがい支出」が上乗せされやすいのが、この段階の特徴です。
第2段階:安定期(75〜85歳頃)
活動量が徐々に落ち着き、旅行や外出の頻度が減っていく一方、通院や持病の管理といった医療費関連の支出が増え始める時期です。生活費全体としては、第1段階よりもやや落ち着く傾向がありますが、医療費の割合が高まっていく点に注意が必要です。
第3段階:介護期(85歳以降)
身体機能の低下により、日常的な介護サービスの利用や、場合によっては施設への入居が必要になる時期です。この段階では、介護費用という大きな特別費が発生する可能性が高く、老後資金の中でも特にまとまった金額を確保しておきたい段階です。公的介護保険でカバーされる範囲には限度があるため、自己負担分をあらかじめ想定しておくことが安心につながります。
このように老後を一律の期間として捉えるのではなく、3段階に分けてそれぞれの支出特性を反映させることで、老後資金の見積もりの精度がさらに高まります。ライフプラン表にも、この3段階を意識した支出の変化を書き込んでおくことをおすすめします。
まとめ|老後資金は平均値ではなく自分の数字で計算する
今回のポイントを整理します。
- 「老後2,000万円問題」等の平均値をそのまま鵜呑みにしない、自分の家庭の数字で試算する
- 老後の支出・収入・不足額・取り崩し計画という4ステップで具体的に見積もる
- 子育て世帯は教育費のピーク後に老後資金準備を本格化させる計画性が重要
- iDeCo・NISA等の税制優遇制度を活用し、取り崩しシミュレーションまで含めて計画する
老後資金と、どう向き合ってきたか
個人事業主として20年、投資家として20年活動してきた中で、老後資金という言葉に対する感覚は、時期によって大きく変化してきました。若い頃は正直なところ、老後資金という言葉自体にあまり実感が湧かず、目の前の事業や子育てに意識が向きがちでした。しかし、4人の子どもを育てる中で、教育費という大きな山を意識せざるを得なくなったことで、逆説的に「その先にある老後資金」の存在も、より具体的に意識するようになりました。
個人事業主・投資家・兼業大家という複数の立場で活動してきた経験から言えるのは、老後資金は「会社が用意してくれるもの」ではなく、「自分で設計し、自分で積み上げるもの」だという実感です。会社員であれば、企業年金や退職金という形である程度自動的に準備が進む部分がありますが、個人事業主にはそうした仕組みがないため、自分で意識的に積み立てていく必要があります。だからこそ、平均値に頼るのではなく、自分自身の数字を使って、早い段階から具体的に試算しておくことが重要だと考えています。
4人の子どもを育てる中で、正直なところ老後資金の準備を後回しにしたくなる場面は何度もありました。しかし、教育費という大きな支出のピークを越えた先には、必ず自分自身の老後という時期がやってきます。子育てと老後資金準備は、決して二者択一ではなく、時期をずらしながら両立させていくものだと捉えることで、無理のない計画を立てられるようになりました。今回紹介したステップを参考に、ぜひご自身の老後資金を一度計算してみてください。数字にしてみることで、漠然とした不安は具体的な行動計画へと変わっていくはずです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 「老後2,000万円問題」の数字は、参考にしなくていいのですか?
全く参考にならないわけではありませんが、あくまで平均的なモデルケースの数字です。自分の家庭の支出・収入で個別に試算した数字の方が、実際の判断には役立ちます。
Q2. 個人事業主やフリーランスは、年金だけで老後は厳しいですか?
国民年金だけでは、会社員の厚生年金に比べて受給額が少なくなる傾向があるため、iDeCoや小規模企業共済等を活用し、自分で老後の収入源を積み増しておくことが特に重要です。事業収入や資産収入といった、年金以外の収入源を併せ持っておくことも、大きな安心材料になります。
Q3. 老後資金の準備は、何歳から始めるのが理想的ですか?
早ければ早いほど、複利の効果を活かせるため理想的です。ただし、教育費等の負担が大きい時期は無理をせず、負担が軽くなった段階でペースを引き上げるという計画性も現実的な選択肢です。少額からでも早く始めておくことに、大きな意味があります。
Q4. 取り崩しは、どの順番で行うのが効率的ですか?
一般的には、課税口座を先に取り崩し、非課税口座(NISA等)はできるだけ長く運用を続ける方が、税制上有利とされることが多いです。ただし個々の状況によるため、専門家への相談も検討する価値があります。定額方式・定率方式のどちらを選ぶかも、あわせて検討しておくとよいでしょう。
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シンパパ資産設計士
4児を育てるシングルファーザー/個人事業主20年/投資家20年/兼業大家20年
📝 noteでも毎日発信中
投資20年の失敗談・シングルファーザーのリアルな日常・お金の本音——ブログでは書きにくいことをnoteに書いています。


