こんにちは、シンパパ資産設計士です。
ライフプランの作り方シリーズ、第8回です。前回は収入の予測方法について、複数の収入源に分けて考える視点を解説し、その中で「インフレ調整を忘れる」という落とし穴に触れました。さて今回は、このインフレ率をライフプランに入れないことがなぜ危険なのかについて、できるだけ具体的な数字も交えながら掘り下げていきます。
なぜインフレをライフプランに入れないと危険なのか
ライフプランを作るとき、多くの人は「今の生活費が、将来もそのまま続く」という前提で試算しがちです。しかし、物価が緩やかにでも上昇し続ける以上、この前提は現実とは大きくかけ離れたものになってしまいます。インフレを考慮しないライフプランは、いわば「土台が歪んだ設計図」のようなもので、どれだけ精緻に他の項目を積み上げても、根本的な精度に欠けてしまいます。
名目値と実質値の違いを理解する
お金の話をするとき、「名目値」(実際の金額そのもの)と「実質値」(物価変動の影響を除いた、実際の購買力を表す金額)を、はっきり区別することが重要です。たとえば、貯金が10年間で1.1倍に増えたとしても、その間に物価も1.1倍になっていれば、実質的な購買力はまったく増えていないことになります。ライフプランでは、この名目値と実質値の違いを常に意識しておく必要があります。
過去のインフレ実績を振り返る
日本は長らくデフレ・低インフレが続いてきましたが、近年は食品・エネルギー・日用品を中心に、明確な物価上昇が続いています。過去数十年というスパンで見れば、物価が全く動かなかった時代の方がむしろ例外的であり、長期的なライフプランを考える上では、ある程度のインフレが継続するという前提を置いておく方が現実的です。
インフレがライフプランの各項目に与える影響
インフレは、ライフプランを構成するあらゆる項目に影響を及ぼします。ここでは、支出・収入・資産という3つの側面から、それぞれの影響を整理します。
支出側:生活費は毎年ジワジワ増えていく
食費・光熱費・教育費といった生活費は、インフレの影響を直接受けます。今日100円で買えていたものが、10年後には120円、130円になっている可能性は十分にあり、決して他人事ではありません。支出管理シリーズで作成した年間生活費表も、インフレを織り込まずに将来へそのまま引き延ばしてしまうと、将来の支出を過小評価することになりかねません。
収入側:昇給がインフレに追いつかないと実質目減りする
給与収入についても、名目上の金額が毎年増えていたとしても、その増加率がインフレ率を下回っていれば、実質的な購買力はむしろ目減りしていることになります。「去年より給料は増えたのに、なぜか生活が楽にならない」と感じる背景には、この実質値の目減りが潜んでいることが少なくありません。ライフプランでは、収入の成長率からインフレ率を差し引いた「実質成長率」で将来を見積もることをおすすめします。
資産側:現金だけで持つことのリスク
資産をすべて現金・預金で保有していると、インフレが進むほど、その資産の実質的な価値は目減りしていきます。銀行預金の金利がインフレ率を下回っている状況では、預金にお金を寝かせておくこと自体が、緩やかな資産の目減りを意味します。20年間投資を続けてきた経験から言えば、インフレ率を上回るリターンが期待できる資産(株式・不動産等)に一部を振り向けておくことが、資産の実質価値を守る上で重要な選択肢になります。
ライフプラン表にインフレ率をどう組み込むか
ここからは、実際にライフプラン表へインフレ率を組み込む具体的な方法を紹介します。
何%を前提にすればいいか
インフレ率の前提には正解はありませんが、多くのライフプランシミュレーションでは、年1〜2%程度を保守的な前提として使うケースが一般的です。過度に高い前提を置くと悲観的になりすぎ、逆に0%で試算すると楽観的になりすぎるため、やや保守的な水準を基準値としつつ、複数のシナリオで試算しておくことをおすすめします。
支出・収入それぞれに別々の成長率をかける
ライフプラン表では、支出項目には物価上昇率をそのままかけ、収入項目には「昇給率からインフレ率を引いた実質成長率」を使うという形で、支出と収入で異なる成長率を適用することをおすすめします。こうすることで、単に全項目を同じ率で引き延ばすよりも、実態に近い将来像が見えてきます。特に、教育費や住宅費といった大きな支出項目は、インフレの影響を強く受けやすいため、慎重に見積もる価値があります。
インフレに強い資産配分という視点
インフレへの対策として、資産の持ち方そのものを見直すという視点も欠かせません。
現金と投資のバランスを考える
生活防衛資金として一定額の現金をしっかり確保しておくことは大前提ですが、それを超える余剰資金については、インフレに強いとされる資産(株式・投資信託・不動産等)に配分しておくことで、資産全体の実質価値を守りやすくなります。現金の安心感と、投資によるインフレ耐性、この両方をバランスよく組み合わせることが、長期的なライフプランを支える基盤になります。
兼業大家として感じる不動産のインフレ耐性
20年間、兼業大家として不動産を運用してきた実感として、インフレが進む局面では、家賃や物件価格も物価に連動して上昇する傾向があり、不動産は比較的インフレに強い資産クラスだと感じています。もちろん、ローンの金利上昇という別のリスクも伴うため、単純にインフレ対策として不動産だけに偏るのではなく、株式などの金融資産と組み合わせて分散しておくことが大切です。
投資信託・株式によるインフレ対策
企業は、原材料費や人件費の上昇分を、商品やサービスの価格に転嫁することで利益を確保しようとします。そのため、株式や株式を組み入れた投資信託は、長期的にはインフレに応じて企業価値・株価も上昇していく傾向があるとされています。つみたてNISA等の制度を活用しながら、株式を中心とした投資信託にコツコツ積み立てていくことは、インフレに負けない資産形成の基本的な手段の一つです。値動きに一喜一憂せず、長期的な視点で淡々と積み立てを続けることが、結果的にインフレ耐性のある資産を築く近道になります。
インフレを無視したライフプランが招く「老後破綻」のシナリオ
インフレを織り込まないライフプランがどれほど危険か、具体的なシナリオで考えてみます。仮に、現在の生活費を「今の金額のまま65歳まで一定」と仮定してライフプランを組んだとします。しかし実際には、インフレによって生活費は毎年少しずつ上昇し続けます。この差分に気づかないまま老後を迎えると、想定していたよりもずっと早く貯蓄が尽きてしまうという深刻な事態になりかねません。
「今の金額」と「将来の金額」のギャップは想像以上に大きい
年率2%のインフレが30年間続いたと仮定すると、今の100万円の価値を将来も維持するためには、名目上約180万円が必要になる計算になります。つまり、老後資金として「今の感覚で3,000万円あれば十分」と考えていても、実際には物価上昇を織り込むと、名目ベースではもっと大きな金額を準備しておく必要が出てくる可能性があります。この感覚のズレを放置してしまうことが、老後破綻シナリオの入り口になり得ます。次回のシリーズ第9回では、この老後資金について、自分の場合で具体的に計算する方法を解説していきます。
年金もインフレの影響を受ける
公的年金には物価スライドの仕組みがあり、インフレに応じて支給額が調整される制度になっています。ただし、実際の調整幅は物価上昇に完全に追いつくとは限らず、マクロ経済スライドという仕組みによって、給付水準が緩やかに抑制される可能性もあります。年金収入だけをあてにしたライフプランでは、この点も含めて保守的に見積もっておくことが大切です。
「複利のマイナス版」として考えるとイメージしやすい
投資の世界では「複利の効果」がよく語られますが、インフレはいわば「複利のマイナス版」として、資産の実質価値をじわじわと蝕んでいきます。年2%という数字だけを見ると小さく感じるかもしれませんが、これが10年、20年、30年と積み重なることで、無視できない大きさに膨らんでいきます。この「じわじわ効果」を軽視しないことが、ライフプランの精度を保つ上で重要なポイントです。
教育費・住宅費という大型支出とインフレの関係
これまでのシリーズで解説してきた教育費・住宅費といった大型の支出項目は、特にインフレの影響を受けやすい分野です。
教育費はインフレ率以上に上昇しやすい傾向がある
学費・教材費・習い事の費用は、一般的な物価上昇率よりも高いペースで上昇する傾向があると言われています。特に私立学校の学費や、専門性の高い塾・習い事の費用は、需要の高まりとともに値上がりしやすい性質を持っています。教育費シリーズで紹介した見積もりを将来に引き延ばす際は、一般的なインフレ率よりもやや高めの上昇率を織り込んでおくと、より現実的な試算になります。4人の子どもを育てる立場としては、この教育費のインフレをどこまで保守的に見積もっておくかが、ライフプラン全体の安全マージンを大きく左右すると実感しています。
住宅費はローン部分と維持費部分でインフレの影響が異なる
住宅ローンを固定金利で組んでいる場合、返済額そのものはインフレの影響を受けず一定に保たれます。一方、固定資産税・修繕費・リフォーム費用といった維持費部分は、物価上昇の影響を直接受けます。住宅費をライフプランに組み込む際は、「ローン返済額は名目固定」「維持費部分はインフレ連動」という形で、項目ごとに異なる扱いをすることをおすすめします。変動金利でローンを組んでいる場合は、金利上昇のリスクも別途考慮しておく必要があります。
インフレシミュレーションを実際にやってみる
頭で理解するだけでなく、実際に自分の家計の数字を使ってインフレシミュレーションをしてみると、リスクの大きさがより実感できます。
ステップ1:現在の年間生活費を洗い出す
まずは、家計管理シリーズで作成した年間生活費表を用意し、現在の年間支出総額を確認します。この金額が、インフレシミュレーションの出発点になります。表がまだ手元にない方は、シリーズ第1回に戻って先に作成しておくことをおすすめします。
ステップ2:インフレ率を複数パターンで試算する
年0%(インフレなし)、年1%、年2%、年3%というように、複数のインフレ率パターンで、10年後・20年後・30年後の生活費がどう変化するかを試算してみます。エクセルやスプレッドシートを使えば、複利計算の要領で簡単にシミュレーションできます。この試算をしてみると、「インフレなし」と「年2%」とで、30年後の必要生活費に想像以上の差が生まれることに驚くはずです。数字として目にすることで、漠然とした不安が具体的な対策への意識に変わっていきます。
ステップ3:収入の実質成長率と突き合わせる
支出側のシミュレーションができたら、次は収入側の実質成長率(昇給率−インフレ率)と突き合わせます。支出の増加ペースに、収入の実質成長が追いついているかどうかを確認することで、将来のどの時点で家計が苦しくなりやすいかが見えてきます。もし収入の実質成長が支出の増加に追いついていないと分かれば、早めに対策(副収入の確保、資産運用の強化等)を打つ余地が生まれます。気づくのが早ければ早いほど、選べる対策の幅も広がります。
ステップ4:定期的に前提を見直す
インフレ率の前提は、一度決めたら終わりではありません。実際の物価動向を年に一度程度振り返り、必要に応じてライフプラン表の前提を更新していくことをおすすめします。家計管理シリーズで紹介した年次の家計見直しのタイミングと合わせて、インフレ前提の見直しも習慣化しておくと、ライフプランの精度を継続的に保つことができます。一度作った表を放置せず、定期的にメンテナンスし続けることこそが、ライフプランを「絵に描いた餅」で終わらせない最大のコツだと感じています。
まとめ|インフレを前提に、実質値で将来を見積もる
今回のポイントを整理します。
- 名目値だけでなく実質値(物価変動を除いた購買力)で将来を見積もる
- 支出は物価上昇率、収入は実質成長率(昇給率−インフレ率)で試算する
- インフレ率は年1〜2%程度を基準に、複数シナリオで試算しておく
- 現金だけでなく、インフレに強い資産(株式・不動産等)にも一部を配分しておく
インフレと、どう向き合ってきたか
投資を始めた20年前は、正直なところインフレという言葉をそこまで意識していませんでした。当時の日本は長くデフレ・低インフレの時代が続いており、「物価は上がらないもの」という感覚が、社会全体にどこか染みついていたように思います。しかし、長く投資と不動産経営を続けていく中で、物価が緩やかに、しかし確実に上昇し続けていることを肌で感じるようになりました。特にここ数年は、食品や日用品の値上げを日常的に実感する場面が増え、インフレをライフプランに織り込む重要性を改めて強く感じています。
4人の子どもを育てる家庭にとって、教育費や食費といった支出は、インフレの影響をダイレクトに受ける項目です。子どもが成長するにつれて食べる量も増え、部活動や習い事の費用もかさんでいく中で、物価上昇まで重なると、家計へのインパクトは決して小さくありません。だからこそ、現金を貯めるだけでなく、インフレに負けない資産形成を並行して進めておくことが、将来の家計を守る上で欠かせないと考えています。今回紹介した考え方を参考に、ぜひご自身のライフプランにもインフレという視点を組み込んでみてください。数字で可視化しておくだけでも、将来への漠然とした不安はずいぶん軽減されるはずです。
よくある質問(FAQ)
Q1. インフレ率は何%を前提にすればいいですか?
絶対的な正解はありませんが、多くのシミュレーションでは年1〜2%程度が保守的な前提として使われることが多いです。楽観・悲観両方のシナリオで試算しておくと安心です。
Q2. 預金だけで資産を持つのは、本当に危険なのでしょうか?
生活防衛資金としての現金は必要ですが、それを超える余剰資金をすべて預金だけで持ち続けると、インフレが続く局面では実質的な資産価値が目減りしていく可能性があります。余剰資金の一部は、インフレに強い資産への配分も検討する価値があります。
Q3. 給与収入の成長率は、どう見積もればいいですか?
過去の昇給実績からインフレ率を差し引いた「実質成長率」を使うことをおすすめします。名目上の昇給率だけを見ると、実態より楽観的な将来像になってしまう可能性があります。
Q4. 不動産はインフレ対策として有効ですか?
家賃や物件価格が物価に連動して上昇する傾向があるため、比較的インフレに強い資産クラスとされています。ただし、ローン金利の上昇リスクも伴うため、他の資産と組み合わせて分散することが重要です。
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シンパパ資産設計士
4児を育てるシングルファーザー/個人事業主20年/投資家20年/兼業大家20年
📝 noteでも毎日発信中
投資20年の失敗談・シングルファーザーのリアルな日常・お金の本音——ブログでは書きにくいことをnoteに書いています。


