個人事業主として仕事をしていると、確定申告を終えてホッと一息ついた矢先に、税務署から見慣れない封筒が届くことがあります。開けてみると「予定納税額の通知書」と書かれていて、しかも金額欄にはそれなりの数字が並んでいる。僕自身、独立してから最初の数年は「確定申告さえ乗り切ればしばらく税金の話はない」と思い込んでいたので、初めてこの通知書を受け取ったときは正直かなり動揺しました。3月に確定申告で納税を終えたばかりなのに、また払うのか、と。
この記事では、個人事業主が知らずにいると資金繰りを崩しかねない「予定納税」という制度について、仕組みから金額の計算方法、通知が来るタイミング、そして資金が厳しいときに使える減額申請まで、実体験を交えながら整理していきます。子ども4人を育てながら個人事業主としても投資家としても大家としても20年近くやってきた中で、予定納税は「知っているか知らないか」で資金繰りの余裕が大きく変わる制度だと感じています。
予定納税とは何か|確定申告を待たずに前払いする仕組み
予定納税とは、簡単に言うと「今年の所得税を、確定申告を待たずに前もって一部納めておく」制度です。
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通常、所得税は1年間(1月1日〜12月31日)の所得を計算し、翌年の2月中旬〜3月中旬に確定申告をして納税する、という流れになっています。ところが、前年の所得税額がある程度大きかった人については、税務署が「この人は今年もそれなりの所得税が発生するだろう」とみなし、確定申告を待たずにその一部をあらかじめ納めさせる、という仕組みが設けられています。これが予定納税です。
具体的には、前年分の所得税の「申告納税額」が15万円以上だった場合に、予定納税の対象となります。ここでいう申告納税額とは、確定申告書で計算した所得税額から源泉徴収税額などを差し引いた、実際に自分で納付した(あるいは納付すべきだった)所得税額のことです。個人事業主の場合、事業所得が所得の中心になっていることが多く、給与所得者のように年末調整で税額が確定するわけではないため、この予定納税の対象になりやすい傾向があります。逆に、会社員などの給与所得者で年末調整によって所得税がすでに精算されている人は、原則として予定納税の対象外です。
つまり、予定納税は「会社員にはあまり縁がないが、個人事業主やフリーランスにはわりと身近な制度」だと考えておくとよいでしょう。以前このブログでも触れた「資産を作るために必要な数字ガイド|所得税・住民税・社会保険料・国民健康保険料・予定納税の全体像」の記事で全体像をざっと紹介しましたが、この記事ではその中の予定納税だけを掘り下げて解説します。
僕が初めてこの制度の存在を知ったのは、独立して2年目、確定申告で思いのほか納税額が大きくなった年の6月でした。届いた通知書を見て「これは何かの間違いでは」と本気で税務署に電話をかけたのを覚えています。担当の方に丁寧に説明してもらって、ようやく「ああ、前払い制度なのか」と腑に落ちました。知らなければ誰でも驚く金額だと思います。
今振り返ると、独立して1年目は前年(会社員時代)の所得税額を基準に予定納税が計算されるわけではないので通知が来ず、2年目になって初めて「独立1年目の事業所得」を基準にした通知が届く、という順番だったことも混乱の一因でした。つまり、開業して最初の確定申告で事業所得に応じた所得税をまとまって納めた直後に、その金額を基準とした予定納税の通知が届く、という流れになりやすいのです。独立初年度に大きく稼げた人ほど、2年目の6月に届く通知書の金額に驚きやすいという点は、これから独立を考えている人にもぜひ知っておいてほしいポイントです。
予定納税額はどう計算されるのか|7月と11月に1/3ずつ
予定納税額の計算方法は、原則としてシンプルです。前年分の申告納税額の3分の2に相当する額を、7月と11月の2回に分けて、それぞれ3分の1ずつ前払いする、という形になっています(特別農業所得者など一部例外的な区分もありますが、多くの個人事業主にはこの原則が当てはまります)。
言い換えると、前年に納めた所得税のおおむね1/3を7月に、もう1/3を11月に、合計で前年納税額の2/3程度を前払いするイメージです。残りの1/3相当は、翌年の確定申告のタイミングで、その年の実際の所得税額との差額として精算されることになります。
たとえば前年の申告納税額が90万円だったとすると、その3分の2にあたる60万円が予定納税の対象となり、7月に30万円、11月に30万円をそれぞれ納めることになります(実際の通知額は税務署の計算による具体的な数字が示されるので、あくまで考え方の目安として捉えてください)。
もう少し金額のレンジを変えて考えてみます。前年の申告納税額が20万円程度と、対象となるかどうかのボーダーライン付近だった場合は、7月・11月それぞれの負担は数万円程度に収まることが多く、そこまで身構える必要はありません。一方で、事業が軌道に乗り前年の申告納税額が200万円を超えるような水準になってくると、7月・11月にそれぞれ60万円台〜70万円台の前払いが発生する計算になり、資金繰りへのインパクトはかなり大きくなります。売上規模が拡大していく個人事業主ほど、この予定納税額も雪だるま式に増えていく構造になっている、という点は頭に入れておく必要があります。
この金額感は、初めて経験するとかなりのインパクトがあります。前年の所得税額が大きければ大きいほど、予定納税額も大きくなるからです。個人事業主として売上が伸びている時期ほど、この予定納税の負担も比例して重くなっていく、という点はあらかじめ心づもりをしておいたほうがよいと思います。
通知はいつ届く?6月15日までに届く「予定納税額の通知書」
予定納税額は、税務署が計算して通知してくれます。毎年6月15日までに、対象者宛てに「予定納税額の通知書」が送付される仕組みです。この通知書には、第1期・第2期それぞれの納税額と納期限が記載されています。
僕の場合、毎年6月に入ると郵便受けを少し警戒するようになりました。届いたら中身を確認して、7月・11月にそれぞれいくら準備しておけばいいかをすぐにメモする、というのが恒例の作業になっています。通知が来るタイミングを知っていれば、6月のうちに資金繰りの見通しを立てられるので、心構えとしてはかなり違います。
なお、通知書が届く前に「今年は前年より所得が落ちそうだ」と分かっている場合は、通知が届いてから慌てて動くのではなく、早めに次章で説明する減額申請の準備を進めておくのがおすすめです。
また、通知書が届いたら、金額を確認するだけで終わらせず、その場で7月分・11月分それぞれの引き落とし予定日と事業用口座の残高見込みを突き合わせておくことをおすすめします。僕は通知書が届いた当日に、スマートフォンの家計簿アプリと事業用の口座アプリを開いて、7月末・11月末時点でその口座にいくら残っているべきかを逆算してメモするようにしています。この一手間があるだけで、実際に納期限が近づいてから資金をかき集める、という事態をかなり防げます。
納期限は7月と11月|年によって最終日がずれる点に注意
予定納税の納期限は、次の2回に分かれています。
・第1期分:7月1日から7月31日まで ・第2期分:11月1日から11月30日まで
これが基本の考え方ですが、注意したいのは、7月31日や11月30日がその年の土日祝日に当たる場合、納期限は翌営業日に順延されるという点です。そのため「今年は具体的に何月何日が期限なのか」は、年ごとに国税庁の発表や通知書の記載を確認する必要があります。この記事で挙げている日付はあくまで制度上の目安であり、実際の納期限は必ず最新の情報を確認するようにしてください。
僕の感覚では、7月の納期限は特に要注意です。というのも、確定申告(2月中旬〜3月中旬)で所得税と住民税の負担がひと段落したと思ったタイミングから、わずか4か月ほどしか経っていないからです。以前「住民税の仕組みと通知タイミング|個人事業主が資金繰りで注意すべき点」の記事でも触れましたが、個人事業主は住民税の納付時期とも重なりやすく、この時期は税金の支払いが連続して発生しやすい「資金繰りの正念場」になりがちです。予定納税の第1期がここに重なることで、想像以上にキャッシュが減っていく感覚を味わうことになります。
確定申告での精算の仕組み|還付されることも追加納付になることも
予定納税として7月・11月に前払いした金額は、そのまま払いっぱなしになるわけではありません。翌年の確定申告(2月中旬〜3月中旬)で、その年の実際の所得税額を計算し、そこから既に納めた予定納税額(第1期分+第2期分の合計)を差し引いて精算します。
このとき、実際の所得税額のほうが予定納税額より少なければ、差額は還付されます。逆に、実際の所得税額のほうが多ければ、差額を確定申告時に追加で納付することになります。
つまり予定納税は「前払い」であって「追加の税金」ではありません。ここを誤解していると、「予定納税でたくさん払ったのに、確定申告でまた税金を取られた」という感覚になってしまいがちですが、実際には二重取りされているわけではなく、あくまで年間の所得税額を分割して先払いしているだけです。この仕組みを正しく理解しておくと、精神的な負担はかなり軽くなります。
とはいえ、実際の所得が前年より大きく増えた年は、予定納税で前払いした分を差し引いてもなお確定申告で追加納付が発生することがあります。個人事業主として売上が伸びている局面では、予定納税・確定申告時の追加納付・翌年の予定納税、と税金の支払いが連続していく感覚になるので、資金計画には常に余裕を持たせておく必要があります。
数字のイメージで整理すると、ある年の実際の所得税額が100万円で、その年に予定納税として第1期・第2期で合計60万円をすでに納めていた場合、確定申告では残りの40万円を追加で納付することになります。逆に、実際の所得税額が50万円にとどまった場合は、すでに納めた60万円との差額10万円が還付されます。予定納税額はあくまで前年実績ベースの「見込み」であり、その年の実際の業績次第で最終的な過不足が変わってくる、という関係性を押さえておくと、確定申告時の数字にも慌てずに向き合えます。
資金繰りが崩れやすい3つの理由
予定納税で資金繰りを崩してしまう個人事業主には、共通していくつかのパターンがあると感じています。僕自身の失敗も含めて、代表的な3つを整理しておきます。
1つ目は、確定申告の直後というタイミングの心理的・資金的負担です。2月中旬〜3月中旬に確定申告で所得税・住民税を納め、事業資金にも余裕がない状態のまま7月を迎えると、「またか」という気持ちになりやすいものです。特に独立して間もない時期は、確定申告で納税額の大きさに驚いたばかりの人ほど、予定納税の通知でさらに追い打ちをかけられたような感覚になりがちです。
2つ目は、前年は儲かったが今年は所得が減っている年に、実態と合わない金額を前払いさせられるケースです。予定納税額はあくまで「前年の実績」を基準に計算されるため、今年になって売上が落ち込んだり、大きな設備投資で経費がかさんだりしていても、その事情は自動的には反映されません。個人事業主の所得は年によって変動しやすいので、「去年は好調だったが今年は正直厳しい」という年に、去年の水準の予定納税を求められると、資金繰りへの影響はかなり深刻になります。これについては次の章で説明する減額申請が非常に重要な対策になります。
3つ目は、そもそも予定納税という制度の存在を知らず、通知が届いて初めて慌てるケースです。独立したばかりで、まだ税金の全体像を把握しきれていない時期にこのパターンに陥りやすいと感じます。僕自身がまさにこれで、最初の年は「なぜこんな請求が来るのか」を理解するまでに時間がかかり、資金の準備が後手に回ってしまいました。
以前「社会保険料(国民年金+国民健康保険)の負担額を試算する|個人事業主の年間負担シミュレーション」の記事でも書きましたが、個人事業主は所得税・住民税・社会保険料・予定納税と、複数の支払いが年間を通じてバラバラのタイミングで発生します。それぞれを単独で捉えるのではなく、年間カレンダーとして俯瞰しておくことが、資金繰りを崩さないための第一歩だと感じています。
減額申請という選択肢|所得が減る見込みなら使える制度
予定納税は前年の実績をもとに計算されるため、今年の所得がそれより明らかに少なくなりそうな場合、実態に合わない金額を前払いさせられてしまうことになります。こうしたケースに備えて用意されているのが「予定納税額の減額申請」です。
廃業、業績の悪化、災害など、その年の所得が前年より大きく減る見込みがある場合には、「予定納税額の減額申請書」を税務署に提出することで、予定納税額を減額してもらう、あるいはゼロにしてもらうことができます。提出期限の目安は、第1期分・第2期分ともにそれぞれ7月15日ごろ・11月15日ごろとされていますが、この日付も年によって前後する可能性があるため、実際に申請する際は必ず最新の情報を国税庁や税務署で確認するようにしてください。
僕自身、事業の状況が芳しくなかった年に、この減額申請を利用したことがあります。前年の水準そのままの予定納税を払ってしまうと、その年の運転資金がかなり厳しくなる見通しだったため、税理士に相談しながら申請書を作成し、税務署に提出しました。結果として予定納税額が減額され、資金繰りの圧迫をかなり和らげることができました。
申請書には、その年の所得や税額の「見込み額」を自分で計算して記載する必要があります。まだ年の途中なので正確な数字は分かりませんが、直近の帳簿の状況や受注の見通しから、できるだけ実態に近い数字を積み上げて計算しました。手元の資料だけでは不安だったので、このときも税理士に相談しながら進めましたが、個人で対応する場合は国税庁が公開している記載要領や計算シートを参考にすると進めやすいと思います。数字の根拠が曖昧なまま提出すると、後から確認や修正を求められることもあるため、帳簿や請求書などの裏付け資料はきちんと残しておくことをおすすめします。
ここで大事なのは、「今年は所得が減りそうだ」と感じた時点で早めに動くことです。減額申請には提出期限があるため、通知が届いてから悩んでいるうちに期限を過ぎてしまうと、結局前年基準の金額をそのまま納めることになってしまいます。日頃から今年の所得の見通しをざっくりでも把握しておき、前年より明らかに落ち込みそうだと分かった時点で、減額申請の準備に入るくらいの姿勢がちょうどよいと思います。
予定納税に備える資金準備のコツ
予定納税で慌てないための一番のポイントは、シンプルに「あらかじめ資金を分けておく」ことに尽きます。僕が実践している具体的な方法をいくつか紹介します。
まず、前年の所得税額のおおむね1/3を目安に、日頃から「税金用の口座」に月次で積み立てておくという方法です。事業用の口座から生活費や事業資金を引き出す前に、税金分として一定額を別口座に移しておくと、7月・11月の納期限が来たときに慌てずに済みます。これは予定納税に限らず、確定申告の納税や消費税(課税事業者の場合)にも応用できる考え方です。
次に、確定申告が終わったタイミングで、その年の予定納税に備えた資金計画を早めに立てておくことです。3月に確定申告を終えたら、その年の6月に予定納税の通知が届くことを見越して、7月・11月に必要になりそうな金額をざっくりでも試算し、逆算して毎月の積立額を決めておく。この習慣ができてからは、通知書が届いても「想定内」として受け止められるようになりました。
さらに、所得が減りそうな年は、前述の減額申請を早めに検討することも欠かせません。「前年並みに払っておけば安全だろう」と何となく満額を納めてしまうと、必要以上に資金を圧迫することになりかねません。事業の状況を定期的に振り返り、今年の着地見込みを前年と比較する習慣を持っておくと、減額申請が必要かどうかの判断もしやすくなります。
最後に、これは個人的な感覚ですが、税金関連の通知書はまとめて保管し、年間のスケジュールを一覧できるようにしておくことをおすすめします。住民税の通知、国民健康保険料の通知、予定納税の通知など、個人事業主にはさまざまな時期にさまざまな封筒が届きます。バラバラに管理していると、それぞれの納期限が重なっていることに後から気づいて焦る、ということになりがちです。年間カレンダーに落とし込んでおけば、資金繰りの山場を事前に把握でき、心の準備も資金の準備もしやすくなります。
僕は毎年1月に、その年の税金カレンダーをざっくりと作るようにしています。3月に所得税・住民税の確定申告分、6月に住民税の通知と予定納税の通知、7月に予定納税第1期と国民健康保険料の一部、8月〜9月に国民健康保険料の納期が続き、11月に予定納税第2期、というように、あらかじめ月ごとの支出イメージを並べておくのです。これは「所得税の仕組みを個人事業主向けに解説」の記事で触れた超過累進課税の考え方や、「国民健康保険料の計算方法と減免制度」の記事で紹介した保険料の試算とも重なる部分が多く、税金・社会保険料をまとめて年間で俯瞰する習慣が、結局は一番の資金繰り対策になっていると感じています。
まとめ
予定納税は、前年分の所得税の申告納税額が15万円以上だった個人事業主に対して、確定申告を待たずに所得税の一部を前払いさせる制度です。前年納税額のおおむね2/3にあたる金額を、7月(第1期)と11月(第2期)にそれぞれ1/3ずつ納め、翌年の確定申告で実際の税額との差額を精算する、という流れになっています。通知書は毎年6月15日までに届き、納期限は原則として7月31日・11月30日ですが、土日祝日の関係で年によって最終日がずれることがあるため、具体的な日付はその都度確認が必要です。
資金繰りが崩れやすい典型的なパターンは、確定申告直後というタイミングの負担、所得が前年より減っているのに前年基準の金額を前払いさせられること、そして制度自体を知らずに通知を受け取って初めて慌てることの3つです。所得が減る見込みがある年は、減額申請を早めに検討することで負担を軽くできます。そして何より、前年の所得税額の1/3程度を目安に日頃から税金用の資金を積み立てておくことが、7月・11月に慌てないための一番の備えになります。
僕自身、独立して間もない頃にこの制度を知らずに驚いた経験があるからこそ、今は年間の税金カレンダーを意識的に管理するようになりました。個人事業主として長く事業を続けていくためには、売上や利益を伸ばすことと同じくらい、こうした税金の資金繰りをコントロールする力が大切だと感じています。
免責事項
本記事は、予定納税制度に関する一般的な情報提供を目的として作成したものであり、特定の個人や事業者に対する税務上・法律上のアドバイスを行うものではありません。記載している金額の考え方や納期限、申請期限等はあくまで目安であり、実際の制度内容や日付は年度や個々の状況によって異なる場合があります。予定納税額の具体的な計算や減額申請の要否、その他の税務判断については、必ず所轄の税務署や税理士などの専門家にご確認・ご相談のうえで対応してください。本記事の内容に基づいて生じたいかなる損害についても、筆者は責任を負いかねます。


