先日、確定申告の資料を整理していたときのことです。毎年この時期になると、私は自分一人で経理から申告書の作成まで抱え込んでいることに、あらためて息が詰まる思いをします。個人事業主として20年、投資家として20年、さらに兼業大家として20年というキャリアを積んできましたが、事業の規模が大きくなるほど、請求書の発行、経費の仕訳、確定申告の準備といった事務作業の量は増える一方でした。
私は一人で4人の子どもを育てています。子どもたちの学校行事や日々の送り迎え、家事をこなしながら事業の運営もこなすというのは、正直なところ体力的にも時間的にも限界がありました。誰かにサポートしてもらえるなら、それが一番助かる。そう思っていた矢先、実家の母が「手が空いているから、経理の入力くらいなら手伝おうか」と声をかけてくれたのです。最初は「家族に手伝ってもらう」というだけの軽い気持ちでしたが、いざ調べてみると、家族に事業を手伝ってもらい、その対価をきちんと給与として経費計上するためには、税法上いくつもの要件をクリアする必要があることがわかりました。
特に私の場合、配偶者を専従者にするという一般的なケースには当てはまりません。親や、将来的には成人した子どもに手伝ってもらう可能性を考えると、配偶者以外の親族を事業専従者とする場合の制度をきちんと理解しておく必要がありました。今回は、私自身が制度を調べ、実際に届出を行った経験をもとに、事業専従者給与と青色事業専従者控除の仕組みについて、配偶者以外の親族を専従者にするケースを中心に整理していきます。
事業専従者給与とは何か、白色申告との違い
個人事業主が生計を一にする家族に事業を手伝ってもらい、その働きに対して対価を支払う場合、税法上は大きく分けて二つの制度があります。一つは青色申告者が使える「青色事業専従者給与」、もう一つは白色申告者が使える「事業専従者控除」です。名前が似ているため混同されがちですが、中身はかなり異なります。
青色事業専従者給与は、届出書に記載した金額の範囲内で、実際に支払った給与を全額必要経費に算入できる制度です。一方、白色申告の事業専従者控除は、あらかじめ決められた上限額(配偶者の場合は86万円、配偶者以外の親族の場合は一人につき50万円)までしか控除できず、実際に支払った金額の多寡にかかわらず、この上限額が適用されます。しかも、この控除額は「事業専従者控除前の所得金額を専従者の数プラス1で割った金額」とのいずれか低い方が上限になるという計算ルールもあり、思ったほど大きな節税効果が出ないケースも少なくありません。
私自身は開業当初から青色申告を選択していたため、必然的に青色事業専従者給与の制度を使うことになりましたが、両者の違いを表にまとめると次のようになります。
| 項目 | 青色事業専従者給与 | 白色事業専従者控除 |
|---|---|---|
| 金額の上限 | 届出書の範囲内で実際に支払った額(実質上限なし、ただし労務対価として相当な額) | 配偶者86万円、配偶者以外50万円が上限 |
| 必要な手続き | 「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要 | 手続き不要(確定申告書に記載するのみ) |
| 専従者側の扱い | 給与所得として課税、源泉徴収の対象になる場合あり | 専従者控除額はみなし所得として専従者側の所得に算入 |
| 配偶者控除・扶養控除 | 併用不可 | 併用不可 |
このように、青色申告の場合は届出さえしっかり行えば、白色の上限額を大きく超える給与を経費にできる可能性があり、事業規模がある程度大きい個人事業主にとっては節税効果の面で有利になりやすい制度だといえます。
青色事業専従者給与の要件を整理する
青色事業専従者給与を必要経費として認めてもらうためには、いくつかの要件をすべて満たす必要があります。私が税理士や国税庁の資料で確認した主な要件は次の通りです。
1. 青色申告者であること
そもそもこの制度は青色申告を選択している事業者専用の制度です。白色申告のままでは利用できません。青色申告の承認を受けるための申請書と、専従者給与のための届出書は別の書類ですので、両方を提出しておく必要があります。
2. 生計を一にする親族であること
専従者になれるのは、事業主と生計を一にする配偶者やその他の親族です。ここでいう「生計を一にする」とは、必ずしも同居している必要はなく、仕送りなどによって生活費を共通にしている場合も含まれます。私の母は同居していませんが、日常的に経済的なやり取りがあるわけではなく、あくまで独立した生計を営んでいるため、実際に専従者給与を検討する際には、生計要件を満たすかどうかを個別にきちんと確認する必要がありました。
3. その年の12月31日現在で15歳以上であること
年齢要件があるため、中学生以下の子どもを専従者にすることはできません。成人した子どもであれば当然この要件は満たされますが、高校生であっても15歳以上であれば形式的には対象になり得ます。ただし後述する専従の実態要件を満たせるかどうかは別問題です。
4. その年を通じて6か月を超える期間、専ら事業に従事していること
これが実務上もっとも重要な要件です。「専ら従事」とは、他に本業を持っていたり、学業に専念していたりする状態ではなく、その事業の仕事を中心的に行っていることを意味します。年の途中で開業した場合や、専従者が病気などでやむを得ず従事できなかった期間がある場合には、事業に従事できる期間の2分の1を超える期間の従事で足りるとする例外規定もあります。
5. 「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出していること
給与を支払おうとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した場合や新たに専従者を有することになった場合は、その日から2か月以内)に、納税地の税務署に届出書を提出しなければなりません。届出書には専従者の氏名、続柄、仕事の内容、給与の金額、支払い方法などを記載します。この届出をしていないと、実際に給与を支払っていても必要経費として認められません。
私が実際に届出を行った際は、記載した給与の金額を大きく超えて支払うことはできない(増額改定の届出をすれば可能ですが)という点に注意しました。当初の見込みより多く働いてもらうことになりそうな場合は、あらかじめ余裕を持った金額で届出をしておくか、金額が変わる際には改めて変更の届出を提出する必要があります。
配偶者以外の親族を専従者にするケース
専従者給与というと配偶者を対象にした説明が多く見られますが、私のように一人で子育てをしている個人事業主にとっては、配偶者以外の親族、つまり親や成人した子どもを専従者にするケースの方がずっと現実的です。ここでは、配偶者以外の親族を専従者にする際に特に意識しておきたいポイントを整理します。
親を専従者にする場合
私自身が検討したのはこのパターンです。親が経理入力や電話対応、書類整理などを手伝ってくれる場合、生計を一にしているかどうかがまず問題になります。親が年金収入を中心に独立した生計を営んでいる場合、生計を一にしているとはいえないケースもあるため、同居の有無や生活費の負担状況を具体的に確認する必要があります。同居していて生活費を実質的に共有している、あるいは定期的な仕送りをしているといった実態があれば、生計一の要件を満たすと判断されやすくなります。
また、親がすでに老齢基礎年金や老齢厚生年金を受給している場合、専従者給与を受け取ることで年金の扶養や社会保険上の扶養にどう影響するかも合わせて確認が必要です。年金受給者であっても年齢と従事実態の要件を満たせば専従者になれますが、体力的な負担や実際の従事時間が「専ら従事」といえる水準かどうかは慎重に判断する必要があります。
成人した子どもを専従者にする場合
私の子どもたちはまだ専従者にできる年齢ではありませんが、将来的に成人した子どもが家業を手伝ってくれる可能性を考えると、この制度は非常に重要になってきます。成人した子どもが大学生など学業に専念している場合は「専ら従事」の要件を満たしにくく、原則として専従者にはなれません。一方で、就職せずに家業を手伝う、あるいは他の仕事を辞めて事業に専念する場合には、要件を満たしやすくなります。
成人した子どもを専従者にする最大のメリットは、子ども自身にも給与所得控除や基礎控除が適用されるため、事業主の所得から給与相当額を切り離しつつ、子ども側でも一定額までは所得税がかからない、あるいは低い税率での課税にとどめられる点です。これは次に説明する所得分散効果に直結します。
専従者給与による所得分散効果をシミュレーションする
専従者給与を活用する最大のメリットは、事業主一人に集中しがちな所得を家族に分散させることで、世帯全体の税負担を軽減できる点にあります。所得税は累進課税のため、一人に所得が集中するほど高い税率が適用されますが、給与を分散させることで、それぞれの税率を低く抑えられる可能性があります。
仮に、事業所得が800万円ある個人事業主が、親に専従者給与として年間150万円を支払った場合と、支払わなかった場合を比較してみます。
| 項目 | 専従者給与なし | 専従者給与150万円あり |
|---|---|---|
| 事業主の事業所得 | 800万円 | 650万円 |
| 専従者(親)の給与収入 | 0円 | 150万円 |
| 事業主に適用される所得税率の目安 | 23%(695万円超900万円以下) | 20%(330万円超695万円以下) |
| 専従者側の課税関係 | 該当なし | 給与所得控除55万円を差し引くと給与所得95万円、基礎控除等で税負担は低水準にとどまる |
上の表はあくまで税率の目安を示す簡略化した例であり、実際には各種所得控除や社会保険料控除などによって適用税率は変動します。それでも、事業主一人に所得が集中している状態から、専従者給与によって世帯内で所得を分散させることで、事業主本人の適用税率が下がり、専従者側では給与所得控除や基礎控除の恩恵を新たに受けられるようになるという構造は共通しています。特に事業所得が高い水準にある個人事業主ほど、この所得分散効果は大きくなる傾向があります。
ただし、給与を支払う以上、その分だけ現金は事業主の手元から専従者へと実際に移動します。節税効果だけを見て給与額を決めるのではなく、事業のキャッシュフローや専従者の実際の労働時間・労働内容に見合った金額かどうかを、必ず確認しておく必要があります。
さらに、専従者給与を経費にすることで事業所得が下がると、翌年度の住民税や国民健康保険料の算定基準となる所得も下がるため、間接的にこれらの負担も軽減される場合があります。個人事業主の場合、所得税・住民税だけでなく国民健康保険料も所得に連動して決まる仕組みになっているため、専従者給与による所得分散は、単年度の所得税負担だけでなく、翌年の社会保険料負担にまで波及する点も意識しておくとよいでしょう。逆に、専従者側の給与収入が一定額を超えると、専従者自身が国民健康保険や国民年金に新たに加入し、保険料を負担することになる場合もあるため、世帯全体でどちらの負担が軽くなるのかを試算したうえで金額を決めることが望ましいといえます。
配偶者控除・扶養控除との併用不可、社会保険上の扶養との関係
専従者給与を活用するうえで見落としやすいのが、他の控除制度との関係です。事業専従者となった親族については、その年について配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除の対象にすることができません。つまり、たとえ親を専従者にして年間数十万円程度の給与しか支払わなかったとしても、その親をその年の扶養控除の対象として申告することはできなくなります。
これは白色申告の事業専従者控除でも同様で、専従者控除の適用を受けた親族は、その年の扶養控除等の対象から外れます。給与額が小さい場合は、専従者給与にするより扶養控除の対象にしておいた方が世帯全体の税負担が軽くなるケースもあるため、単純に「専従者にすれば得をする」と決めつけず、両方のパターンで試算して比較することが重要です。
もう一つ注意すべきなのが、社会保険上の扶養との関係です。専従者給与を受け取る親族が、事業主本人や配偶者の健康保険の被扶養者になっている場合、専従者給与の年収が130万円(一定の要件を満たす場合は106万円)を超えると、社会保険上の扶養から外れ、自身で国民健康保険や国民年金、あるいは事業主が個人事業主であれば専従者自身が国民健康保険に加入する必要が生じる場合があります。税制上の扶養(103万円や150万円といった所得税・住民税の壁)と、社会保険上の扶養(130万円の壁)は基準となる金額も制度も異なるため、専従者給与の金額を決める際には、この二つの壁を混同しないよう整理しておく必要があります。
| 壁の種類 | 金額の目安 | 影響する制度 |
|---|---|---|
| 所得税の扶養控除・配偶者控除 | 専従者になった時点で対象外 | 所得税・住民税 |
| 社会保険の被扶養者認定基準 | 年収130万円(短時間労働者は106万円) | 健康保険・厚生年金の扶養 |
| 国民年金の第3号被保険者 | 配偶者のみが対象、配偶者以外の親族には適用なし | 国民年金 |
実務上の注意点、過大な給与は否認リスクがある
青色事業専従者給与は届出書の範囲内であれば実際に支払った額を全額経費にできると説明しましたが、これは「いくら払っても無条件に認められる」という意味ではありません。税法上、専従者給与として認められる金額は、専従者の労務の対価として相当と認められる金額に限られます。具体的には、専従者の労働の性質や従事時間、事業の種類や規模、同種の事業を営む他の事業者が同様の労働に対して支払う給与の水準などと比較して、過大と判断される部分については必要経費として認められません。
税務調査で特に指摘されやすいのは、次のようなケースです。
- 実際の労働時間や業務内容に対して、明らかに給与水準が高すぎる場合
- タイムカードや業務日報など、実際に働いていたことを示す記録が一切残っていない場合
- 専従者名義の口座に給与を振り込んでいるにもかかわらず、実際にはその口座を事業主自身が管理しているなど、資金の実質的な帰属があいまいな場合
- 他の従業員に対して同種の業務で支払っている給与水準と比較して、専従者だけ突出して高い場合
私は届出を行った後、実際に母に手伝ってもらう業務内容と時間を明確にし、簡単な業務記録を残すようにしています。具体的には、月ごとにどのような作業を何時間行ったかを記録し、給与の振込先も本人名義の口座にして、実際に本人が使える状態にしておくことを徹底しています。こうした記録は、万が一税務調査が入った際に、給与が労務の対価として妥当であることを示す重要な資料になります。
また、届出書に記載した金額を実際に超えて支払った場合、その超過部分は原則として必要経費に算入できません。年の途中で業務量が増え、当初の見込みより多く給与を支払う必要が出てきた場合は、速やかに「青色事業専従者給与に関する変更届出書」を提出し、金額の上限を引き上げておくことが必要です。届出を怠ったまま高額な給与を支払い続けると、超過分がまるごと否認され、思わぬ追徴課税につながるおそれがあります。
実際に私が届出書を作成する際に気をつけたのは、金額欄に記載する数字をどう設定するかという点でした。将来的に業務量が増える可能性を見込んで、当初から高めの上限額を届け出ておくこと自体は制度上問題ありません。ただし、上限額だけを高く設定して実際にはそれよりずっと少ない金額しか支払わない、あるいは逆に業務実態が伴わないまま上限いっぱいまで支払うといった運用は、税務調査で労務対価としての相当性を問われる原因になります。届出書はあくまで「上限」を定めるものであり、実際の支払額は、その時々の業務量や労働時間に見合った金額に調整していくという姿勢が大切だと感じています。
届出から給与支払いまでの実務フロー
最後に、実際に専従者給与の制度を使い始める際の実務の流れを整理しておきます。私自身が母に手伝ってもらう際に実際にたどった手順とほぼ同じです。
| ステップ | 内容 | 期限の目安 |
|---|---|---|
| 1 | 青色申告の承認申請(未提出の場合) | 開業から2か月以内、または適用を受けたい年の3月15日まで |
| 2 | 専従者になる親族の生計一・年齢・専従要件の確認 | 給与を支払い始める前 |
| 3 | 青色事業専従者給与に関する届出書の提出 | 適用を受けたい年の3月15日まで、または専従者を有することになった日から2か月以内 |
| 4 | 給与規程や業務内容・勤務時間の取り決め | 給与支払い開始前 |
| 5 | 実際の給与支払い、源泉徴収の要否確認 | 毎月の給与支払い時 |
| 6 | 業務記録・タイムカード等の保管 | 継続的に |
| 7 | 確定申告書への専従者給与の記載 | 翌年の確定申告期間中 |
特に見落とされがちなのが、専従者給与を支払う場合、金額によっては源泉徴収が必要になる点です。専従者もその他の従業員と同様に給与所得者として扱われるため、給与額が一定額を超える場合は源泉徴収税額表に基づいて所得税を天引きし、年末調整を行う必要があります。事業主自身が一人で経理を行っている場合、この源泉徴収の事務も新たに発生することになるため、給与額をどの水準に設定するかは、節税効果だけでなく事務負担の増加も踏まえて検討することをおすすめします。
私の場合、母に手伝ってもらう業務は月に数日程度の経理入力や書類整理が中心で、給与額もそれほど大きくないため、源泉徴収税額表の「甲欄」で少額の源泉徴収を行う程度に収まっています。それでも、毎月の給与計算、源泉徴収簿の作成、年末調整、法定調書合計表の提出といった一連の事務が新たに発生することは事実です。子育てをしながら一人で事業を回している身としては、こうした事務作業が増えること自体が負担になり得るため、会計ソフトの給与計算機能を活用したり、繁忙期だけ税理士に相談したりするなど、事務負担を軽減する工夫も同時に検討しておくとよいでしょう。
専従者給与と外注(業務委託)を比較検討する
家族に事業を手伝ってもらう方法は、専従者給与だけではありません。業務委託契約を結んで外注費として支払う方法も選択肢としてあり得ます。私も届出前に、この二つの方法のどちらが自分の事業にとって有利かを比較検討しました。
| 項目 | 青色事業専従者給与 | 外注(業務委託) |
|---|---|---|
| 消費税の扱い | 給与のため課税仕入れにならず、消費税の計算上は控除できない | 適格請求書(インボイス)があれば課税仕入れとして仕入税額控除の対象になる |
| 契約の形態 | 雇用に準じる指揮命令関係、専ら従事が必要 | 成果物や役務提供に対する対価、指揮命令関係は原則不要 |
| 社会保険 | 給与額により社会保険上の扶養の判定に影響 | 報酬のため事業主側の社会保険関係は発生しにくい |
| 配偶者控除・扶養控除 | 専従者になった時点で対象外 | 報酬額によっては扶養控除の対象を維持できる場合がある |
| 手続き | 届出書の事前提出が必須 | 契約書の取り交わし、インボイス登録の確認 |
外注費として支払う場合、相手がインボイス発行事業者として登録していれば、事業主側は消費税の仕入税額控除を受けられるというメリットがあります。一方で、専従者給与は「専ら従事している」という実態が前提になるため、指揮命令関係のある働き方でなければ外注として扱うべきだという指摘もあります。私の場合、母に依頼している業務は日々の経理入力や電話対応といった、指揮命令のもとで継続的に行ってもらう性質の仕事だったため、業務委託ではなく専従者給与を選択しました。もし依頼する業務が単発の記帳代行やホームページ更新といった成果物ベースの仕事であれば、外注費として処理する方が実態に即しており、インボイス制度の観点からも整理しやすいケースもあります。
専従者給与額を年収別・支払額別にシミュレーションする
事業所得の水準によって、専従者給与による所得分散効果がどう変わるかをもう少し具体的に確認しておきます。次の表は、事業所得の水準を3パターン、専従者給与の支払額を2パターン設定し、事業主に適用される所得税率の目安がどう変化するかをまとめたものです。
| 事業所得(専従者給与支払前) | 専従者給与100万円支払後の所得 | 専従者給与200万円支払後の所得 |
|---|---|---|
| 500万円(税率20%目安) | 400万円(税率20%目安) | 300万円(税率20%目安) |
| 800万円(税率23%目安) | 700万円(税率23%目安) | 600万円(税率20%目安) |
| 1200万円(税率33%目安) | 1100万円(税率33%目安) | 1000万円(税率33%目安) |
この表からわかるように、専従者給与を支払うことで課税所得の区分をまたいで税率が下がる場合には節税効果が大きくなりますが、同じ税率区分の中にとどまる場合は、税率そのものは変わらず、あくまで課税所得の絶対額が減ることによる節税にとどまります。事業所得が800万円のケースでは、100万円の専従者給与だけでは税率区分が変わらない一方、200万円を支払うことで区分が一段階下がり、その差額部分について税率差による節税効果が上乗せされることになります。事業所得の水準と専従者給与の金額次第で効果の大きさが変わるため、届出書を提出する前に、自分の所得水準でどの程度の効果が見込めるかを試算しておくことをおすすめします。
専従者給与でつまずきやすいポイント
制度を実際に使い始める過程で、注意しておくべきだと感じたポイントをいくつか挙げておきます。同業の個人事業主から聞いた話も含めて整理します。
- 届出書の提出期限を過ぎてしまい、その年は専従者給与が一切経費として認められなかったという話を聞いたことがあります。年の途中で家族に手伝ってもらうことが決まった場合は、2か月以内という期限を必ず確認し、早めに税務署へ提出することが重要です。
- 当初の届出額を超えて給与を支払ってしまい、確定申告の段階で超過分を経費から除外することになったケースもあります。業務量が増えて給与を引き上げたい場合は、支払う前に変更届出書を提出しておく必要があります。
- 専従者名義の口座を用意したものの、実際の入出金を事業主が管理し続けており、税務調査で「名目上の給与ではないか」と指摘を受けたという話もあります。給与を支払う以上は、通帳やキャッシュカードの管理も含めて、専従者本人が自由に使える状態にしておくべきです。
- 専従者控除(白色申告)と専従者給与(青色申告)の違いを理解しないまま申告してしまい、本来受けられたはずの控除額との差に後から気づいたという例も聞きました。青色申告への切り替えを検討している場合は、専従者給与の届出とあわせて早めに申請しておくとよいでしょう。
よくある質問
Q. 専従者給与を受け取った親族は、自分で確定申告をする必要がありますか。
A. 専従者給与は給与所得にあたるため、年間の給与収入額や他の所得の有無によって、専従者本人が確定申告を行う必要が生じる場合があります。給与収入が一定額以下で、事業主側で年末調整を行っている場合は、専従者本人の確定申告が不要になるケースもありますが、他に所得がある場合や、医療費控除など別途申告したい控除がある場合は、専従者自身が確定申告を行うことになります。
Q. 年の途中で専従者が業務を辞めた場合、給与はどう扱われますか。
A. 年の途中まで専ら事業に従事していた場合でも、年間を通じて6か月を超える従事期間がなければ、原則としてその年の専従者給与は必要経費として認められません。ただし、事業の開始や廃止、専従者の病気など、やむを得ない事情がある場合は、実際に従事可能であった期間の2分の1を超える期間従事していれば足りるとする例外があるため、個別の事情に応じて税務署や税理士に確認することをおすすめします。
Q. 専従者給与を支払うと、事業主自身の国民健康保険料にはどう影響しますか。
A. 専従者給与を経費計上することで事業所得が減るため、事業主自身の国民健康保険料の算定基準となる所得も下がり、保険料負担が軽減される場合があります。ただし、専従者側が別途国民健康保険に加入する場合は、専従者本人の保険料負担が新たに発生するため、世帯全体で見たときに保険料の負担がどう変化するかを試算しておく必要があります。
Q. 専従者給与の届出をした後、実際には給与を支払わなかった年があってもよいのでしょうか。
A. 届出をしたからといって、必ず毎年給与を支払わなければならないわけではありません。業務の依頼がなかった年や、専従者側の事情で従事できなかった年については、その年の専従者給与を経費計上しなければよいだけです。ただし、翌年以降に改めて給与を支払う場合は、届出内容がそのまま有効かどうかを確認し、必要であれば再度届出を行うのが安全です。
まとめ
事業専従者給与と青色事業専従者控除は、家族に事業を手伝ってもらう個人事業主にとって、所得分散による節税効果を得られる有力な制度です。特に配偶者がいない事業主にとっては、親や成人した子どもといった配偶者以外の親族を専従者にするケースが現実的な選択肢になります。ただし、生計を一にしていること、15歳以上であること、年間6か月を超えて専ら事業に従事していることといった要件をすべて満たす必要があり、さらに事前に届出書を提出しておかなければ経費として認められません。
また、専従者になった親族は配偶者控除や扶養控除の対象から外れること、社会保険上の扶養基準(130万円の壁)と税制上の扶養基準は別物であること、そして支払う給与は労務の対価として相当な金額に限られ、過大な部分は否認されるリスクがあることも忘れてはなりません。私自身、実際に母に経理業務を手伝ってもらうにあたって、業務内容と時間を明確にし、記録を残しながら制度を活用しています。家族の力を借りながら事業を続けていくうえで、こうした制度を正しく理解し、無理のない範囲で活用していくことが、長期的な事業運営の安定にもつながると感じています。
本記事は、事業専従者給与および青色事業専従者控除に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際に制度を適用する際は、ご自身の状況を踏まえ、税務署や税理士など専門家にご確認のうえで判断してください。


