保険証券を全部机に並べてみた日のこと
個人事業主として20年、賃貸経営者として20年、そして投資家としても20年近くやってきた私だが、恥ずかしながら生命保険については「入ったら見直さない」を長らく続けていた。転機になったのは、妻を亡くしてからのことだ。それまで漠然と「万が一のときの保険」だと思っていたものが、実際に自分ひとりで4人の子どもを育てる立場になった瞬間、意味がまったく違って見えてきた。
会社員であれば遺族厚生年金や会社の団体保険、住宅ローンの団信など、複数のセーフティネットが自動的に用意されている。しかし個人事業主兼大家という立場では、自分で組み立てない限り何も守られていない。この記事では、そんな私が保険証券を全部机に並べて「掛け捨て型」と「貯蓄型」を子育て世帯の目線でもう一度検証した結果を、できるだけ実務的に共有したい。
掛け捨て型と貯蓄型、そもそもの構造の違いを整理する
まず前提として、生命保険は大きく分けて「掛け捨て型(定期保険など)」と「貯蓄型(終身保険・学資保険・養老保険など)」の2種類に分類できる。混同されがちだが、この2つはそもそも設計思想がまったく異なる商品だ。
掛け捨て型は、決められた期間だけ死亡保障を確保する仕組みで、満期を迎えても解約返戻金はほとんど、あるいはまったく戻らない。その代わり、同じ保険料でも保障額を大きく設定できるのが最大の特徴だ。一方の貯蓄型は、保障と貯蓄機能を一体化させた商品で、解約時や満期時にまとまった額が戻ってくる可能性がある反面、同じ保険料で得られる死亡保障額は掛け捨て型よりかなり小さくなる。
この違いを理解せずに「とりあえず貯蓄型に入っておけば安心」と考えると、子育て世帯にとって本当に必要な保障額を確保できないまま高い保険料だけを払い続けることになりかねない。私自身、20代の頃に営業担当者に勧められるまま加入した終身保険が、実は必要保障額の3分の1程度しかカバーしていなかったことに、証券を見直して初めて気づいた。
個人事業主×大家という立場から見た「保障の空白」
会社員と個人事業主・大家では、万が一のときに残された家族を支える公的な仕組みの厚みがまったく違う。会社員であれば厚生年金の遺族厚生年金に加え、企業によっては弔慰金や団体信用生命保険付きの住宅ローンなどが重なる。ところが個人事業主の場合、公的年金は国民年金がベースになるため、遺族基礎年金の対象は基本的に「18歳到達年度末までの子」がいる間に限られ、給付水準も会社員の遺族厚生年金より手薄になりやすい。
さらに大家業についても誤解されがちなポイントがある。賃貸物件のローンに団体信用生命保険が付いていれば、オーナーに万が一のことがあった場合にローン残債は保険金で完済される仕組みが一般的だ。つまり不動産そのものは子どもたちに残るが、そこから得られる家賃収入がすぐに生活費として使えるわけではない。空室リスクや修繕費、管理コストを考えると、賃貸収入だけを「保険の代わり」と考えるのは危険だと、実際に大家業を20年続けてきた実感として言える。
つまり個人事業主と大家という2つの顔を持つ私にとって、公的保障と不動産資産の間には想像以上に大きな「空白」があった。この空白を埋める役割を、生命保険にどう持たせるかが最初の検討課題になった。
4人の子どもを育てる前提で必要保障額をどう計算したか
必要保障額の計算方法はさまざまだが、私が実際に行った手順は次のようなものだ。
- 末の子が独立するまでの生活費(現在の生活費水準×想定年数)を算出する
- 4人分の教育費を、進路パターン別に幅を持たせて見積もる(公立中心か私立を含むかで数百万円単位の差が出る)
- 自宅や賃貸物件など、換金可能な資産と負債(ローン残債)を洗い出す
- 金融資産・投資資産のうち、生活防衛資金を除いた「取り崩し可能額」を確認する
- 遺族基礎年金など公的給付の見込み額を差し引く
この作業をしてみると、教育費だけでも4人分となると想定の幅が非常に大きいことがわかる。仮に全員が公立中心の進路をたどった場合と、大学まで私立を選ぶ進路が混ざった場合とでは、合計で1000万円単位の差が生まれることも珍しくない。私の場合、資産水準は比較的高めではあるものの、投資資産の多くは不動産と株式に配分しており、いざというときにすぐ現金化できる資産は限られている。だからこそ「保険でしか埋められない空白」がどの程度あるのかを、感覚ではなく数字で把握することが重要だと痛感した。
最終的に私が出した結論は、「生活費・教育費として必要な当面の資金は掛け捨て型の大きな保障でカバーし、資産形成そのものは保険とは切り離して投資で行う」というものだった。この考え方に至った理由を、次の比較表で整理してみる。
掛け捨て型と貯蓄型を子育て世帯の視点で比較する
子育て世帯、それも子どもの人数が多い世帯にとって重要なのは「もしものときに、いくら・いつ・どのくらいの期間、必要な保障が確保できるか」という一点に尽きる。以下の表は、私自身が保険を見直す際に整理した比較の観点だ。
| 比較項目 | 掛け捨て型(定期保険) | 貯蓄型(終身保険・学資保険) |
|---|---|---|
| 同じ保険料での保障額 | 大きく確保しやすい | 小さくなりやすい |
| 満期・解約時の返戻金 | 基本的になし | あり(ただし早期解約は元本割れしやすい) |
| 保険料の性質 | 純粋な保障コスト | 保障コスト+貯蓄・運用部分 |
| 子育て期の教育費急増への対応 | 大型保障で対応しやすい | 保障額が小さく不足しがち |
| 資産形成としての効率 | 該当しない(保障専用) | 投資商品と比べて手数料が割高で、利回りは見劣りすることが多い |
| 保険料の見直しやすさ | 更新・見直しがしやすい | 一度加入すると解約時に不利益が出やすい |
この表の一番上の行、「同じ保険料での保障額」の差が、子育て世帯にとって最も重要な論点だと私は考えている。子どもが小さいうちは、もし自分に何かあった場合に必要な資金額が非常に大きい。だからこそ、その時期にこそ厚い保障を確保できる掛け捨て型の合理性が際立ってくる。
投資家目線で見た「貯蓄型保険」の機会費用
投資を20年近く続けてきた立場から、貯蓄型保険についてもう少し踏み込んで考えてみたい。貯蓄型保険の予定利率は、契約時期や商品によって差はあるものの、長期の株式・投資信託運用に比べると見劣りする水準にとどまることが多い。もちろん保険には「万が一の保障」という投資商品にはない価値があるため、単純な利回り比較だけで優劣を決めるのは適切ではない。
ただし、貯蓄と保障を1つの商品にまとめることで、保険会社側の運用コストや販売手数料が保険料に上乗せされている構造は理解しておく必要がある。私自身は、貯蓄型保険に月々数万円を払い続けるよりも、「保障は掛け捨て型で必要最小限かつ十分な額を確保し、余った分はNISAなどの制度を活用しながら自分で運用する」という分離型の方針のほうが、資産形成のスピードも保障の柔軟性も高いという結論に落ち着いた。
「貯蓄が苦手だから、半強制的に積み立てられる貯蓄型保険のほうが向いている」という考え方もよく聞くが、私はここには慎重な見方をしている。貯蓄型保険の「強制積立機能」は、実態としては手数料の高い金融商品を長期間手放せなくする仕組みでもあり、途中で解約すれば元本割れするケースも珍しくない。貯蓄が苦手だという自覚がある人ほど、保険という形を選ぶのではなく、給与天引きやつみたてNISAの自動買付設定のように、保険を介さずに「強制的に積み立てる仕組み」を作るほうが、同じ目的をより低いコストで達成できると考えている。
実際に私が組んでいる保険ポートフォリオ
参考までに、私が現在採用している保険の組み合わせの考え方を紹介したい。特定の商品名を挙げることは避けるが、構成の考え方は次の通りだ。
- 定期保険(掛け捨て型)をベースに、末の子が成人年齢に達するタイミングを目安に保障期間を設定
- 保障額は、教育費の最大想定パターンと生活費の合計から、公的給付と換金しやすい金融資産を差し引いた金額を基準に設定
- 持病や既往症の有無によって保険料が変わるため、健康なうちに一定期間ごとに保障内容を見直す
- 賃貸物件のローンには団体信用生命保険を別枠で確保し、生命保険の必要保障額の計算からは切り離して考える
- 資産形成部分は保険に頼らず、NISAやiDeCoなど税制優遇のある制度を優先的に活用
この形にしてから、月々の保険料負担は以前より抑えられたにもかかわらず、いざというときの保障額はむしろ増えるという結果になった。保険料の使い方を「保障」と「資産形成」に分けて考えるようになったことが、一番大きな変化だったと思う。
子育て世帯が見直しの際に気をつけたいポイント
最後に、これから保険を見直す子育て世帯の方に向けて、私が実際につまずいた点や注意した点を挙げておきたい。まず、子どもの人数が多いほど必要保障額は単純な足し算にならないという点だ。教育費のピークが重なる時期があると、その年だけ必要資金が跳ね上がることがあるため、単年ではなく期間全体で資金繰りを見る必要がある。
また、保険の見直しは「増額」だけでなく「減額・解約」も含めて定期的に行うべきだ。子どもが成長し独立に近づくにつれて、必要保障額は徐々に減っていく。それにもかかわらず加入当初の保障額のまま高い保険料を払い続けているケースは意外と多い。私自身、上の子が成人に近づいたタイミングで一度保障額の見直しを行い、月々の保険料を下げつつ必要な保障は維持することができた。
さらに、これは知人から聞いた話だが、ひとり親家庭では児童扶養手当などの公的な支援制度が所得水準に応じて用意されている。こうした制度の存在を知っておくこと自体は、万が一の際の家計シミュレーションにおいて有用だ。自分の家庭がどの制度の対象になり得るかを事前に確認しておくと、必要保障額の見積もりの精度も上がる。
よくある質問
Q1. 掛け捨て型と貯蓄型、結局どちらか一方だけを選ぶべきですか。
基本的には、保障は掛け捨て型で必要十分な額を確保し、資産形成は保険と切り離して投資で行うという分離型をすすめたい。貯蓄型保険は「保障」と「貯蓄」を一体化させることで手数料が保険料に上乗せされる構造になりやすく、途中解約すると元本割れするケースも多い。「貯蓄が苦手だから貯蓄型保険で強制的に積み立てたい」と考える人もいるが、その目的であれば、つみたてNISAの自動買付設定など保険を介さない仕組みのほうが、コストを抑えながら同じ効果を得やすいと考えている。大切なのは、保障として必要な額をまず明確にし、その上で掛け捨て型でどう確保するかという順序だ。
Q2. 個人事業主は会社員よりも保険を手厚くすべきですか。
公的保障の厚みが会社員より薄い分、保険や自助努力での備えが相対的に重要になりやすいのは事実だ。ただし「手厚くする」というのは保険料を増やすことと同義ではない。掛け捨て型を活用して効率よく保障額を確保する方が、結果的に家計への負担は軽くなることが多い。
Q3. 子どもの人数が多いと、必要保障額はどのように考えればいいですか。
子ども1人あたりの教育費を単純に人数分足すだけでなく、進学時期が重なる年に支出のピークが来ることを考慮する必要がある。私自身、4人分の教育費シミュレーションを行った際に、特定の数年間に支出が集中することがわかり、その期間をカバーできる保障額を意識して設定した。
Q4. 賃貸物件を持っている場合、生命保険の必要性は下がりますか。
団体信用生命保険によってローン残債は完済されるケースが一般的だが、それは資産(不動産)が残るという意味であり、すぐに使える生活資金が増えるわけではない。空室リスクや修繕費も考慮すると、不動産の存在だけを理由に生命保険の保障額を大きく減らすのは慎重に判断したほうがよいというのが、大家業を続けてきた私の実感だ。


