投資家として20年、iDeCo(個人型確定拠出年金)を活用してきた中で、私が毎年欠かさず行っている作業がある。それは、iDeCoの掛金額を、その年の事業所得の見通しに合わせて見直すことだ。会社員であれば毎月の掛金は比較的固定されやすいが、個人事業主の場合、所得の変動幅が大きいため、掛金額も柔軟に調整する必要がある。今回は、その見直しの考え方と実際の判断基準を書いておきたい。
iDeCoを始めた当初は、私も他の多くの人と同じように、一度掛金額を決めたらそのまま何年も変えずに続けていた。しかし、個人事業主として事業を続ける中で、ある年は事業が好調で所得税率の階層が上がり、翌年は逆に事業への設備投資がかさんで所得が減る、といった年ごとの変動を何度も経験するうちに、「掛金額を固定したままでは、せっかくの節税メリットを最大化できていないのではないか」と考えるようになった。この気づきが、毎年掛金額を見直すという今の運用につながっている。
個人事業主のiDeCo、掛金の上限額を理解する
iDeCoの掛金額には、加入者の属性ごとに上限が設定されている。会社員で企業年金がない場合は月額2万3千円、企業年金がある場合はさらに低い上限になる一方、自営業者(第1号被保険者)の場合は、国民年金基金の掛金と合算して月額6万8千円が上限とされている。私は個人事業主としてこの上限枠をフルに活用できる立場にあり、実際に長年、上限に近い金額を拠出してきた。
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私が加入している運営管理機関を選ぶ際も、手数料の違いや取り扱う運用商品のラインナップを比較したうえで決めた。金融機関によっては、加入時や運用期間中にかかる手数料が異なり、長期間にわたって拠出を続けるiDeCoでは、こうした手数料の差が最終的な受取額に地味に効いてくる。この上限額の違いを最初に知ったとき、個人事業主は会社員に比べて厚生年金がない分、老後の年金受給額が少なくなりやすいという背景から、その分を自助努力で積み立てられるよう、iDeCoの拠出上限が高く設定されているのだと理解した。会社員時代の経験がない私にとって、この「iDeCoの上限額の違いには、公的年金制度全体のバランスを取る意図がある」という理解は、単に節税の道具としてだけでなく、老後の生活設計全体を考えるうえでの重要な前提になっている。
ただし、この上限額は国民年金基金との合算枠であるため、国民年金基金にも加入している場合は、その分iDeCoの拠出可能額が減る。私自身は国民年金基金には加入せず、iDeCoに一本化する形を選んでいるが、この選択が唯一の正解というわけではなく、老後資金の設計方針によって最適な組み合わせは変わってくる。
国民年金基金は、加入時の年齢や選ぶ給付の型によって将来受け取れる年金額があらかじめ確定するという特徴があり、運用リスクを取りたくない人には向いている制度だ。一方、iDeCoは自分で運用商品を選び、その運用成果によって将来の受取額が変動する。私が投資家としての経験から、ある程度のリスクを取って資産を増やしていく方針を選んでいるため、確定給付型の国民年金基金よりも、運用の自由度が高いiDeCoを軸に据えることにした。この判断は、リスク許容度や老後資金に対する考え方によって人それぞれ変わってくる部分なので、どちらが優れているという単純な話ではないと理解している。
なぜ掛金額を「毎年」見直す必要があるのか
会社員であれば給与が大きく変動することは少ないが、個人事業主の場合、年によって事業所得が数百万円単位で変動することも珍しくない。iDeCoの掛金は全額が所得控除の対象になるため、掛金額をどう設定するかは、その年の所得税・住民税の負担額に直接影響する。
私が実践しているのは、毎年12月頃、翌年の事業の見通し(受注状況、単価の変化、不動産所得の見込みなど)をもとに、翌年のiDeCoの拠出額を仮決定し、実際の所得が固まる年明け以降に最終調整する、という流れだ。所得が大きく伸びそうな年は、上限に近い金額まで拠出額を引き上げ、逆に事業への設備投資などで一時的にキャッシュフローが厳しくなりそうな年は、拠出額を抑えて手元資金を確保する、という判断をしている。
iDeCoの掛金は、確定申告の際に「小規模企業共済等掛金控除」として申告する必要があり、国民年金基金連合会から届く「小規模企業共済等掛金払込証明書」を確定申告書に添付、または提示することになる。この証明書は毎年秋頃に届くため、私は届いたらすぐに専用のファイルに保管し、確定申告の時期に慌てないようにしている。会社員であれば、年末調整の際に生命保険料控除やiDeCoの掛金控除を申告するだけで済むため、こうした見直しの必要性をあまり意識しないかもしれない。しかし個人事業主の場合、所得が確定するのが年が明けてから、場合によっては確定申告の直前になることも珍しくない。掛金額を決める時点では、まだその年の正確な所得が分からない、という不確実性の中で判断しなければならないのが、会社員との大きな違いだと感じている。だからこそ私は、事業の受注状況や請求残高といった、その時点で把握できる情報を最大限活用して、精度の高い見通しを立てる努力をしている。
所得控除の効果を実際の数字で試算する
iDeCoの掛金が全額所得控除になることの効果を、具体的な数字で確認しておきたい。仮に月額6万8千円、年間で81万6千円をiDeCoに拠出した場合、所得税と住民税を合わせた実効税率が仮に30%程度の階層にいるとすると、単純計算で年間24万円前後の税負担軽減につながる。
個人事業主の場合、所得税は累進課税のため、所得が高い年ほどこの節税効果は大きくなる。逆に、所得が少ない年に無理に上限まで拠出してしまうと、控除しきれない金額が発生したり、事業資金や生活費を圧迫したりするリスクがある。私は事業所得が伸びた年ほど拠出額を引き上げ、所得が落ち着いた年は拠出額を抑える、という「所得連動型」の運用を続けている。
具体的な試算として、所得税率が23%の階層にいる年と、所得税率が33%の階層にいる年とで、同じ81万6千円を拠出した場合の節税効果を比べてみたことがある。前者では所得税の軽減額がおおむね18万8千円程度、後者ではおおむね26万9千円程度になる計算だった(住民税の軽減額は別途加算される)。この試算からも分かるとおり、所得税率が高い年ほどiDeCoの掛金による節税メリットは大きくなるため、事業が好調な年ほど積極的に拠出額を引き上げる、という私の方針には一定の合理性があると考えている。
掛金の変更手続き、年に1回という制約に注意する
iDeCoの掛金額は、いつでも自由に変更できるわけではなく、変更できる回数に制限がある。私が加入している制度では、掛金額の変更は年に1回までとされており、変更したい場合は所定の書類を運営管理機関に提出する必要がある。この制約があるため、「今年は所得が伸びそうだから来月から増額しよう」という機動的な調整はできず、年単位での見通しを立てたうえで判断する必要がある。
この年1回という制約を踏まえて、私は毎年11月から12月にかけて、その年の事業所得の着地見込みと、翌年の見通しを整理し、翌年分の掛金額を決める、というルーティンを組んでいる。以前「複式簿記への挑戦、会計ソフト任せでも理解しておくべき仕訳の基本」でも触れたが、月次で試算表を確認する習慣があるおかげで、年末時点での所得の着地見込みをある程度正確に把握できるようになっている。この記帳習慣が、iDeCoの掛金見直しの精度にも直結していると感じている。
また、掛金額だけでなく、拠出方法(毎月定額で拠出するか、年単位でまとめて拠出するか)についても、制度上選択できるようになっている。私は当初、毎月定額で拠出する方式を選んでいたが、事業所得の見通しが立ちやすくなった年からは、年払いに近い形でまとめて拠出する方式に切り替えたこともある。まとめて拠出することで、口座管理の手間が減るというメリットがある一方、年の途中で資金繰りが厳しくなった場合の調整が利きにくいというデメリットもあるため、その年の事業の見通しの確度に応じて使い分けている。変更手続きそのものも、思っていたより時間がかかることに注意が必要だ。掛金額の変更を申し出てから、実際に新しい掛金額での引き落としが始まるまで、1〜2か月ほどのタイムラグが生じることがある。私は最初の年、この手続きの所要期間を把握しておらず、年内に間に合わせようとして慌てた経験がある。それ以来、掛金の見直しを検討し始めたら、できるだけ早めに運営管理機関へ書類を提出するよう心がけている。
資金拘束というデメリットとどう向き合うか
iDeCoは老後資金の準備には有利な制度だが、原則として60歳まで引き出せないという資金拘束のデメリットがある。個人事業主の場合、会社員と違って収入が不安定になりやすく、事業資金や生活防衛資金が急に必要になる場面も想定しておく必要がある。
私が心がけているのは、iDeCoの拠出額を「余剰資金の範囲内」に収めることだ。生活費の半年分程度を生活防衛資金として別の口座に確保したうえで、それでもなお余裕がある範囲でiDeCoの拠出額を決めている。事業所得が大きく落ち込みそうな年は、iDeCoの拠出額を上限より低く設定し、その分を手元の流動性確保に回す、という判断を何度か行ってきた。老後の資産形成と、目の前の事業の安定性は、どちらも大切であり、バランスを取ることが重要だと考えている。
iDeCoの資金拘束を「デメリット」とだけ捉えるのではなく、「老後まで使えないからこそ、確実に積み上がっていく」というメリットの裏返しでもあると、私は考えるようにしている。個人事業主は、事業資金が必要になれば、つい老後資金にまで手を伸ばしたくなる場面があるかもしれない。しかしiDeCoであれば、制度上そもそも引き出せないため、強制的に「老後資金」として資金を隔離できる。この強制力を前向きに活用する、という発想の転換も、長く付き合っていくうえで大切な視点だと感じている。
実際に、大口の取引先との契約が途切れて事業所得が大きく落ち込んだ年があった。その年は、あらかじめ確保していた生活防衛資金があったおかげで、生活水準を大きく崩さずに乗り切ることができたが、もしその年に無理をしてiDeCoの掛金を上限まで拠出し続けていたら、手元の資金繰りはかなり厳しくなっていただろう。この経験から、iDeCoの掛金は「今年の余裕」ではなく「最悪のシナリオでも耐えられる水準」を基準に設定するべきだと考えるようになった。掛金の下限は月額5千円まで下げられるため、事業が厳しい年は思い切って下限近くまで減額し、資金繰りを最優先する、という判断も選択肢のひとつとして持っている。
不動産所得との合算で見えてくる、掛金設定の考え方
私の場合、事業所得だけでなく不動産所得もあるため、iDeCoの掛金を検討する際は、両方の所得を合算した「合計所得金額」ベースで見通しを立てている。不動産所得は、減価償却費という現金支出を伴わない経費が計上できるため、キャッシュフロー上は黒字でも、所得計算上は所得が圧縮されることがある。
この特性を踏まえて、事業所得が伸びた年は積極的にiDeCoの拠出額を引き上げ、不動産所得の減価償却による所得圧縮効果と合わせて、全体の税負担を最適化する、という考え方を取っている。ただし、これはあくまで一例であり、個々の所得構成や資産状況によって最適な戦略は変わってくるため、具体的な判断は税理士やファイナンシャルプランナーへの相談を勧めたい。
減価償却費は、物件の築年数が経過するにつれて計上できる金額が変わってくる(定額法であれば毎年ほぼ一定、逓減する方式を選んでいれば年々減少していく)。私が保有する物件の中には、法定耐用年数の終盤に近づき、計上できる減価償却費が少なくなってきたものもある。こうした物件が増えてくると、これまで減価償却によって圧縮されていた所得が徐々に顕在化し、合計所得金額が増加する局面を迎えることになる。この変化も見越したうえで、iDeCoの拠出額を数年単位の計画として組み立てるようにしている。
子どもの教育費とiDeCoの拠出額、優先順位の考え方
4人の子どもを育てるシングルファーザーとして、教育費の準備とiDeCoの拠出額は、常に天秤にかける対象だった。iDeCoは老後資金としては有利な制度だが、資金拘束が強く、教育費のように数年単位で必要になる資金の準備には向いていない。
私は、教育費については別途、NISAなどの流動性の高い制度や預貯金で準備し、iDeCoはあくまで老後資金専用の枠として位置づけている。この「資金の色分け」を意識するようになってから、iDeCoの掛金額を検討する際の迷いが減った。以前「個人年金保険料控除、iDeCoと重複して使えるか確認した話」でも書いたが、老後資金の準備方法は複数あり、それぞれの制度の特性を理解したうえで組み合わせることが重要だと感じている。
教育費の準備方法として、以前は学資保険を検討したこともあったが、返戻率の低さや、途中解約した場合の元本割れリスクを踏まえ、最終的にはNISAと預貯金を組み合わせる方式に落ち着いた。iDeCoと同様、NISAも非課税で運用できるという税制メリットがあるが、iDeCoと違っていつでも引き出せるという流動性の高さが、教育費のような数年単位の資金使途には適していると判断したためだ。4人の子どもがいると、教育費が必要になるタイミングが数年おきに重なってくることもある。この「教育費の山」が来る時期には、iDeCoの拠出額を一時的に抑え、その分を教育資金の準備に回す、という調整を行うこともある。iDeCoの掛金は下限まで下げることはできても、途中で解約して引き出すことはできないため、無理に上限まで拠出し続けて、いざ教育費が必要になったときに手元資金が足りなくなる、という事態だけは避けなければならない。老後資金と教育費、どちらも大切な資金使途だからこそ、毎年の見直しの際には、数年先の教育費の見通しまで含めて総合的に判断するようにしている。
まとめ
個人事業主にとってiDeCoの掛金額は、会社員のように一度決めたら放置していい設定ではなく、毎年の事業所得の変動に合わせて見直すべき項目だと、20年の投資経験を通じて実感している。所得控除による節税効果、資金拘束というデメリット、年1回という変更制約、教育費との優先順位など、複数の要素を総合的に考慮しながら、その年ごとに最適な掛金額を判断する姿勢が欠かせない。
老後資金の準備という長期的なテーマでありながら、個人事業主にとっては毎年の事業状況という短期的な変数と切り離せない、というのがiDeCoの掛金設定の難しさであり、同時に面白さでもあると感じている。今後も、事業の調子が良い年、厳しい年、それぞれの状況に応じて、老後資金と足元の資金繰りのバランスを取りながら、掛金額の見直しを続けていくつもりだ。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、筆者個人の経験にもとづく内容です。iDeCoの制度内容や掛金上限、税制上の取り扱いは改正される可能性があります。具体的な掛金額の設定や税務上の判断については、必ずファイナンシャルプランナーや税理士など専門家にご相談ください。


