レアアース・レアメタルと供給集中|EV・防衛・ハイテクの隠れた土台・地政学で学ぶ資産形成シリーズ第11話

投資・資産運用

地政学で学ぶ資産形成シリーズも、第11話までやってきました。前回(第10話:食料安全保障と農業の地政学)では、毎日の食卓を支える穀物や肥料の供給が、ごく少数の国に集中しているという、もう一つの急所を見てきました。今回は、その「供給集中」という構図を、さらに別の角度から照らします。テーマは、レアアース・レアメタルです。あまり耳なじみのない言葉かもしれませんが、これらはスマートフォン、電気自動車(EV)、風力発電、そして防衛装備に至るまで、現代の産業と暮らしを足元から支えている、いわば「縁の下の力持ち」のような素材です。そして、その供給がやはり一部の国や地域に強く偏っているという現実があります。シリーズ全体の地図は地政学シリーズ ハブページからたどれます。

私は4人の子どもを育てながら、20年にわたって不動産の大家業、自分の事業、そして投資を続けてきました。妻を病気で亡くしてからは、「自分がいなくなっても子どもたちが困らないお金の仕組み」をどう作るかを、それまで以上に真剣に考えるようになりました。地政学を学ぶのは、どこかの国を持ち上げたり貶めたりするためではなく、世界の資源やお金の流れがどんな力学で動いているのかを理解し、自分の資産を長い時間軸で守り、育てるためです。以下はあくまで私個人の見解であり、特定の素材や企業、投資対象を勧めるものでも、特定の配分を推奨するものでもないことを、はじめにお断りしておきます。

レアアースとは何か——「少量だが代替不能」の戦略物資

まず、「レアアース」「レアメタル」とは何かを、できるだけやさしく整理しておきましょう。漢字で書けば「希少な金属」となるこれらは、ひとことで言えば、産業の中で使われる量はわずかなのに、その役割を他のもので簡単に置き換えることができない、特別な金属の総称です。レアメタルは、ふだん私たちが思い浮かべる鉄や銅やアルミニウムといった「ありふれた金属」とは違い、産出量が少なかったり、取り出すのが難しかったりする金属をまとめて指す言い方です。そしてレアアースは、そのレアメタルの中でも、性質のよく似たひとまとまりの元素グループを指す、もう少し専門的な呼び名だと考えてください。細かい元素名の暗記は必要ありません。大切なのは、その「役割」です。

では、これらの素材は、具体的にどんな役割を果たしているのでしょうか。たとえば、レアアースの一部は、非常に強力な磁石をつくるために欠かせません。この強力な磁石は、電気自動車のモーターや、風力発電機の中心部、さらには小型のスピーカーやハードディスクなど、回転や駆動を担うあらゆる場所で使われています。ほかにも、ある種のレアメタルは、電池の性能を高めたり、特殊な合金を強くしたり、電子部品の中で微妙な調整を担ったりと、現代のハイテク製品の「ここぞ」という部分で、静かに、しかし決定的な働きをしています。量としてはほんのわずかしか使われていなくても、それが無ければ製品そのものが成り立たない——これが、レアアース・レアメタルの本質です。

私はこの「少量だが代替不能」という性格に、強い関心を持っています。なぜなら、これは前回までに見てきた食料やエネルギーとは、少し違った種類の急所だからです。食料やエネルギーは、量が多く、誰の目にも「無ければ困る」ことが分かりやすい。けれどレアアース・レアメタルは、ふだん私たちの視界には入らず、製品の奥深くにひっそりと組み込まれています。だからこそ、その供給が止まったときに初めて、「ああ、あれが無いと、この製品は一つも作れないのか」と、世界が気づくことになる。見えにくい急所ほど、いざというときの影響が大きい——私はそう考えています。だからこそ、これらが「戦略物資」と呼ばれ、各国が神経をとがらせる対象になっているのです。

ここで一つ、大切な前置きをしておきます。「レア(希少)」という名前がついてはいますが、これらの元素そのものが、地球上に極端に少ないというわけでは、必ずしもありません。むしろ、地殻の中にはそれなりに広く存在しているものもあります。問題は、それを「採掘し、不純物を取り除き、製品に使える純度にまで精錬する」という一連の工程が、技術的にもコスト的にも、そして環境への負荷の面でも、たいへん難しいという点にあります。つまり、希少なのは元素そのものというより、「使える形にする能力」のほうなのです。この区別こそが、次に見る「供給集中」という問題を理解するうえで、決定的に重要になってきます。

なぜ精錬・供給が特定国に集中したのか

では、なぜレアアース・レアメタルの供給は、世界の一部の国や地域に強く偏ることになったのでしょうか。ここは、善悪の話ではなく、いくつもの現実的な事情が積み重なった結果として、丁寧に理解しておきたいところです。前の章で触れたとおり、これらの素材の急所は「採掘」そのものよりも、むしろ「精錬」という工程にあります。鉱石を掘り出すだけなら、世界のいくつかの場所で可能です。けれど、そこから不純物を取り除き、製品に使える高い純度にまで仕上げる精錬の工程は、世界の限られた場所に、強く集中しているのです。

その理由の一つは、精錬という工程が、たいへん手間がかかり、環境への負荷も大きいという点にあります。レアアースを精錬する過程では、大量の薬品や処理が必要になり、適切に管理しなければ周辺の環境に影響を及ぼしかねません。そのため、多くの国では、コストや環境規制の観点から、自国で大規模に精錬を行うことに慎重でした。逆に言えば、ある国や地域が、長い時間をかけて、この難しく負荷の大きい工程を引き受け、技術と設備とノウハウを積み上げてきた結果として、そこに供給が集中していった、という側面があります。これは、誰かが意図的に独占を狙ったというよりも、世界全体の分業の中で、特定の場所が「その役割」を担うようになっていった、という見方ができます。

もう一つの理由は、規模の経済とコスト競争力です。精錬のような工程は、大規模に、安定して行うほど、一単位あたりのコストが下がっていきます。早くから大量に精錬を手がけ、価格競争力を持った地域があると、世界の需要は自然とそこに集まります。需要が集まれば、さらに規模が拡大し、コストが下がり、ますます他の地域が新規に参入しにくくなる。こうして、「気づけば、世界中がその地域に頼っていた」という構造ができあがっていきます。私はこの構図を、第10話で見た食料や肥料の供給集中と、根っこのところでよく似ていると感じます。広大な農地や、エネルギー資源や、精錬の技術——担い手が限られる役割ほど、供給は一部に集まり、それが地政学的な力を生むのです。

ここで強調しておきたいのは、こうした集中は、特定の国の「悪意」や「陰謀」によって生まれたわけではない、ということです。難しく負荷の大きい工程を、長年にわたって引き受けてきたという事実は、世界の産業を支えてきた、まぎれもない貢献でもあります。ここで見ておきたいのは、善悪の評価ではなく、「使える形にする能力が、一部に集中している」という構造そのものが持つ、もろさと影響力です。供給が偏っているという事実は、それ自体が地政学的な意味を帯びる——この中立的な理解が、このあとの話の土台になります。

供給を絞られると何が止まるか——EV・風力・防衛

さて、供給が一部に集中しているという構造を理解したうえで、次に考えたいのは、「もしその供給が、何らかの理由で絞られたら、いったい何が止まるのか」という問いです。ここを具体的に追っておくと、レアアース・レアメタルという見えにくい素材が、なぜ世界中が神経をとがらせる「戦略物資」と呼ばれるのかが、はっきりと見えてきます。私は、その影響が及ぶ先を、大きく三つの分野で捉えています。電気自動車、風力発電、そして防衛です。

一つ目は、電気自動車(EV)です。世界が脱炭素へと向かう中で、ガソリン車から電気自動車への移行は、大きな潮流になっています。その電気自動車の心臓部であるモーターには、先ほど触れた強力な磁石が欠かせません。そして、その磁石をつくるために、レアアースの一部が決定的な役割を果たしています。もし、この素材の供給が世界的に細れば、いくら工場や設計が整っていても、肝心のモーターをつくることができなくなる。電気自動車という、これからの成長が期待される巨大な産業の足元が、ごく少量の素材の供給に握られている——これは、産業の将来を考えるうえで、見過ごせない事実です。

二つ目は、風力発電です。これもまた、再生可能エネルギーの主役として、世界中で導入が進んでいる分野です。とりわけ、大型の風力発電機の中心部には、電気自動車と同じように、レアアースを使った強力な磁石が組み込まれているものがあります。風の力を効率よく電気に変えるために、この磁石が重要な働きをしているのです。つまり、脱炭素を支える二つの柱——電気自動車と風力発電——が、どちらも同じレアアースという、細い供給の蛇口に依存している。世界が「環境のために」と力を入れている分野ほど、実はこの素材への依存を深めている、という、少し皮肉な構図がここにあります。

三つ目は、防衛です。これは、私たちの暮らしから少し遠く感じられるかもしれませんが、国家にとっては、何より神経を使う分野です。現代の防衛装備の多くは、高度な電子機器や、精密なセンサー、強力なモーターなどの塊であり、その随所にレアアース・レアメタルが使われています。もし、これらの素材の供給を外国に握られているとすれば、それは国の安全保障そのものが、他国の判断に左右されかねない、ということを意味します。だからこそ各国は、経済的な合理性だけでなく、安全保障という観点からも、この素材の供給を強く意識せざるを得ないのです。

これら三つの分野に共通するのは、いずれも「これからの時代の中心」になると見込まれている領域だ、ということです。脱炭素を担う電気自動車と風力発電、そして国家の根幹を支える防衛。未来を形づくる重要な産業ほど、ごく少量の、しかし代替の効かない素材に、その足元を支えられている。供給を絞られると、これらの「未来の産業」が同時に滞りかねない——だからこそ、レアアース・レアメタルは、単なる金属ではなく、地政学の最前線に立つ戦略物資として、各国の関心を集めているのです。

各国の脱・依存戦略——代替産地とリサイクル

では、供給集中というもろさを抱えた世界は、それに対してただ手をこまねいているだけなのでしょうか。もちろん、そうではありません。供給が一部に偏っていることのリスクに気づいた各国や企業は、その依存をやわらげるための、さまざまな取り組みを進めています。私は、その方向性を、大きく三つに整理して理解しています。代替産地の開拓、リサイクル、そして使用量そのものの削減です。

一つ目は、代替産地の開拓です。これは、特定の国や地域に偏っている採掘や精錬を、他の場所でも行えるようにしよう、という取り組みです。先ほど見たとおり、レアアースの元素そのものは、世界の各地にそれなりに存在しています。問題は、それを掘り出し、精錬する仕組みが、一部に集中していたことでした。そこで、これまで眠っていた鉱床を新たに開発したり、自国や友好国の中に精錬の設備を整えたりすることで、供給の蛇口を一つでも増やそうとする動きが、世界各地で進んでいます。ただし、これは簡単なことではありません。精錬には高い技術と多額の投資が必要で、環境への配慮も求められます。蛇口を増やすには、長い時間と、相応のコストがかかるのです。

二つ目は、リサイクルです。これは、私が個人的にもっとも希望を感じている方向性です。レアアース・レアメタルは、いったん製品に組み込まれると、その製品が役目を終えたあとも、素材としては残り続けます。使い終わった電気製品やモーターの中には、貴重な金属がまだ眠っているのです。これを回収し、取り出し、再び使えるようにするのがリサイクルです。新たに鉱石を掘り出すのに比べて、すでに地上にある資源を循環させるこの方法は、供給集中というリスクをやわらげるだけでなく、環境への負荷を抑えるうえでも理にかなっています。よく「都市鉱山」という言い方がされますが、私たちが使い終えた製品の山が、見方を変えれば、貴重な資源の宝庫でもある——この発想の転換は、資源を持たない国にとって、特に大きな意味を持ちます。

三つ目は、使用量そのものを減らす、あるいは使わずに済ませる技術の開発です。これは、需要の側からのアプローチです。たとえば、レアアースをあまり使わない、あるいは全く使わずに済む磁石やモーターを開発できれば、そもそも供給集中のリスクから距離を置くことができます。技術というものは、制約に直面したときにこそ、新しい工夫を生み出すものです。「あの素材が手に入りにくい」という現実が、かえって「あの素材を使わない方法」を生み出す原動力になることもある。私は、人間のこうした工夫する力を、長い時間軸では信頼してよいと考えています。

ここで、投資という観点から、一つ覚えておきたいことがあります。それは、供給集中という「問題」が存在するということは、それを「解決しようとする側」もまた、世界中に生まれてくる、ということです。代替産地を開拓する企業、リサイクルの技術を磨く企業、レアアースを使わない製品を生み出す企業——脱・依存の動きそのものが、新たな産業や成長の芽を育てていきます。世界は、急所を抱えながらも、それをやわらげようとする無数の試みによって、少しずつ姿を変えていく。この「問題と解決が同時に進んでいく」という視点は、後ほど投資家の教訓を考えるときに、大きな意味を持ってきます。

資源を「武器化」する構図の現代版

ここまで、レアアース・レアメタルの供給集中と、それに対する脱・依存の動きを見てきました。この章では、もう一歩踏み込んで、「供給を握っているという事実が、地政学的な力としてどう働きうるのか」という、少しデリケートな論点に触れておきたいと思います。歴史を振り返れば、資源というものは、しばしば交渉や圧力の「道具」として使われてきました。レアアース・レアメタルもまた、その例外ではない、という現代的な構図があります。

供給が一部に集中しているということは、その供給を握る側が、いざというときに「輸出を絞る」「価格を動かす」といった形で、相手国に影響を及ぼしうる、ということを意味します。これは、第10話で見た食料の輸出規制と、根っこの力学はよく似ています。自国の判断で蛇口を細めることができる立場にあると、それ自体が、交渉のテーブルでの一種の「カード」になりうる。実際に使うかどうかは別として、「使える可能性がある」というだけで、相手国の行動に影響を与える——これが、資源が「武器化」されると言われるときの、おおまかな構図です。

ただし、ここで私は、特定の国がそうした行動を取った、あるいは取るだろう、という個別の話をするつもりはありません。大切なのは、誰かを名指しで批判することではなく、「供給集中という構造そのものが、こうした力を生む土壌になる」という、一般的な力学を理解しておくことです。そして、もう一つ忘れてはならないのは、供給を握る側にも、それなりの制約があるということです。あまりに露骨に蛇口を絞れば、相手国は本気で脱・依存に動き出します。前章で見たとおり、代替産地やリサイクルや使用量削減といった動きが加速すれば、長い目で見れば、握っていた側の優位そのものが薄れていく。だからこそ、資源の「武器化」は、使う側にとっても、もろ刃の剣なのです。

私は、この「もろ刃」という性格に、ある種の救いを感じています。供給を握る側が力を持つのは事実ですが、その力をあまりに強く振るえば、世界は本気で別の道を探し始め、結果として、その力の源泉そのものが掘り崩されていく。つまり、供給集中という構造は、固定された永遠のものではなく、それを揺さぶる力が働けば働くほど、長い時間をかけて変化していく、動的なものなのです。一時的なニュースの見出しは、しばしば「○○が供給を握っている」という静止画を見せます。けれど、その裏では、脱・依存という名の地殻変動が、絶えず静かに進んでいる。この動的な視点を持っておくことが、目先の供給リスクのニュースに、いたずらに振り回されないための、心の支えになると私は考えています。

念のため繰り返しておきますが、ここで述べたのはあくまで一般的な力学であり、特定の国の特定の行動を批判する趣旨でも、将来を予言する趣旨でもありません。資源をめぐる構図は、複雑で、絶えず動いています。私たち家計や投資家の側にできるのは、その動きの全体像を、できるだけ冷静に、できるだけ中立的に捉えておくこと。そのうえで、次の章で見るように、自分の資産をどう構えておくかを考えることだと思います。

投資家の教訓——ボトルネック企業への集中の危うさ

さて、ここまで見てきたレアアース・レアメタルの地政学から、投資家として何を受け取れるでしょうか。供給が一部に集中していること。それが電気自動車・風力発電・防衛という未来の産業の足元を握っていること。各国が代替産地・リサイクル・使用量削減で脱・依存を進めていること。そして、供給集中が「武器化」されうる一方で、それがもろ刃でもあること。これらを一本の線でつないだとき、私がたどり着く教訓は、このシリーズで繰り返してきた、ある一点に行き着きます。それは、「単一のボトルネックに賭ける個別株は、思っている以上に危うい」ということです。

少し丁寧に説明しましょう。レアアース・レアメタルのような供給集中の構図を知ると、投資家の中には、こう考える人が出てきます。「これだけ世界が依存している素材なのだから、その供給を握っている特定の企業の株を買っておけば、大きく儲かるのではないか」と。供給のボトルネック——つまり、世界中がそこに頼らざるを得ない「細い首」の部分——を握る企業に、資金を集中させる、という発想です。一見、もっともらしく聞こえます。けれど私は、この発想にこそ、大きな落とし穴があると考えています。

なぜなら、まさにそのボトルネックこそが、世界中が「何とかしてやわらげよう」と総力を挙げて取り組んでいる対象だからです。前の章で見たとおり、供給集中という急所には、代替産地の開拓、リサイクル、使用量削減、そして政治的な働きかけまで、あらゆる方向から「脱・依存」の圧力がかかります。つまり、今は圧倒的な強みに見えるボトルネックも、長い時間軸で見れば、その優位がじわじわと掘り崩されていく可能性を、つねに抱えているのです。今日の「無敵の急所」が、十年後にも同じ強さを保っている保証は、どこにもありません。単一のボトルネック企業に集中するということは、その「優位が続くこと」と「政治に翻弄されないこと」の両方に、同時に賭けるということ。これは、私には、あまりに分の悪い賭けに見えます。

ここで、このシリーズの根っこにある複利という考え方に、軽く触れておきます。複利は、増えるものが増えていく、味方につければこれ以上ない力です。けれど、それは長く生き残ってこそ働く力でもあります。一社に集中して、もしその一社が政治や技術の変化で大きくつまずけば、積み上げてきた複利の土台ごと崩れかねない。借金の利息を複利で膨らませてはならないのと同じくらい、私は、「複利を働かせる土台そのものを失うリスク」を避けることを大切にしています。だからこそ、当てにいって一点に集中するのではなく、土台を壊さないことを最優先に考えたいのです。

では、どうすればいいのか。ここで、これまでのシリーズで何度も登場してきた、ある考え方が効いてきます。それは、「当てにいかず、漏らさず拾い、時間を味方につける」という姿勢です。レアアース・レアメタルをめぐる世界では、供給を握る企業もいれば、それに依存しながら製品をつくる企業もいる。そして、代替産地を開拓する企業、リサイクルの技術を磨く企業、その素材を使わずに済ませる技術を生み出す企業も、世界中に生まれてきます。供給集中という「問題」と、それを解こうとする「解決」が、同時に進んでいるのが、この分野の実像です。私たちは、そのどれが勝ち残るかを、一社一社見極めて当てる必要はありません。

世界中の幅広い企業に、薄く広く分散して投資するインデックス——たとえば、このシリーズで繰り返し触れてきた、S&P500や全世界株式(いわゆるオルカン)のような、指数に連動して世界全体に分散する株式の器——を持っておけば、その中には、供給を握る側の企業も、脱・依存を進める側の企業も、自然に含まれてきます。供給集中という構図が、誰かの優位を削り、別の誰かの台頭を促すという地殻変動を起こしても、世界全体に分散していれば、その変化の「勝ち組」を、漏らさず拾い続けることができる。代替産地やリサイクルで新たに伸びる企業の成長も、世界分散ならそっと取り込める。これが、単一のボトルネックに賭けるのではなく、世界という器を丸ごと持つことの強さです。

もちろん、これは「世界分散しておけば必ず儲かる」という単純な話ではありません。株式には値動きがあり、短い期間では大きく上下することもあります。これはあくまで、長い時間軸で見たときに、たった一つのボトルネックの行く末に資産の命運を委ねるよりも、世界全体の成長と変化を取り込める器を、コア(中心)に据えておくことが、理にかなっている、という、私個人の考え方です。最終的な判断は、必ずご自身の状況に応じて、ご自身で行ってください。私が子どもたちに残したいのは、次のボトルネックを当てる眼力ではなく、「世界が姿を変えていくその全体を、株主の側からそっと受け取り続ける」という、落ち着いた構えそのものなのです。

まとめ

第11話では、現代の産業と暮らしを足元から支えながら、その供給がやはり一部の国や地域に偏っている、レアアース・レアメタルという特別な資源を見てきました。これらは、使われる量こそわずかでも、代替の効かない「戦略物資」であり、その急所は、元素そのものの希少さよりも、「使える形に精錬する能力」が一部に集中している点にあります。そして、その集中した供給は、電気自動車・風力発電・防衛という、これからの時代の中心となる産業の足元を握っており、供給を絞られれば、これら未来の産業が同時に滞りかねません。

一方で、世界はその依存をただ受け入れているわけではなく、代替産地の開拓、リサイクル、使用量の削減といった脱・依存の動きを進めています。供給集中は「武器化」されうる地政学的な力を生みますが、それはもろ刃の剣であり、強く振るえば振るうほど、長い目では脱・依存が加速し、優位そのものが掘り崩されていく、動的な構造でもあります。だからこそ投資家として導かれる教訓は、単一のボトルネックに賭ける個別株の危うさを直視することです。今日の無敵の急所が、明日もそうである保証はありません。当てにいって一点に集中するのではなく、S&P500やオルカンのような世界全体に分散する株式の器をコアに据えておけば、供給を握る側も、脱・依存で台頭する代替産地やリサイクルの担い手も、漏らさず拾い続けることができる。当てにいかず、漏らさず拾い、時間を味方につける——この姿勢が、レアアースをめぐる地政学に対しても、そのまま生きるのです。もちろん、最終的な判断は、必ずご自身の状況に応じて、ご自身で行ってください。

さらに学びを深めたい方は、シリーズの出発点である第1話:地政学と資産形成の入り口から読み返してみてください。シリーズ全体の地図は地政学シリーズ ハブページに、関連する資産形成の考え方は資産形成 統合ハブにまとめてあります。

次回は、地上の国境を越えて、空のさらに上、そして目には見えないネットワークの世界へと、地政学の舞台を広げます。第12話:宇宙とサイバー空間 へ続く。新しい時代の「高地」をめぐる競争が、私たちの暮らしと資産に何をもたらすのか——引き続き一緒に見ていきましょう。

▶ 次の話:第12話 宇宙とサイバー空間|国境のない新しい戦場

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