はじめに──「引き受けるかどうか」で悩んだ日々
子どもが通う学校では、毎年この時期になるとPTA役員決めの話題が出てきます。4人の子を育てる中で、私は複数回、何らかの形でPTA役員や委員を引き受けてきました。最初に打診を受けたとき、正直かなり迷いました。シングルファーザーという立場で、平日の集まりや行事にどこまで対応できるのか、そもそも保護者の集まりの中でどう受け止められるのか、想像がつかなかったからです。
個人事業主として20年やってきた経験から、「新しい場に飛び込むこと」自体への抵抗はそれほど強くありませんでした。取引先の集まりや異業種の交流会など、アウェイな場に身を置く経験は数え切れないほどしてきました。しかし、保護者コミュニティという場は、ビジネスの場とはまったく違う空気感があります。長年その学校に子どもを通わせている保護者同士の関係性、暗黙の役割分担、独特の距離感。そこに新参者として、しかもシングルファーザーという少数派の立場で加わることには、独特の緊張感がありました。
この記事では、実際にPTA役員を引き受けてみて感じた居心地の変化について、率直に振り返ってみたいと思います。うまくいかなかった場面も含めて、できるだけありのままに書いていきたいと思います。同じような立場で悩んでいる方の参考になれば幸いです。
引き受けた当初に感じた「アウェイ感」
役員としての活動が始まった当初、正直に言えば居心地の悪さを感じる場面が多くありました。集まりの多くが平日の日中に設定されており、参加者の大半が母親という構成の中で、父親一人で参加することへの気恥ずかしさもありました。会話の端々で、育児や家事についての話題が母親目線を前提に進んでいくことも多く、自分がその輪にどう入っていけばいいのか分からない瞬間が何度もありました。
また、周囲の視線を意識しすぎてしまう時期もありました。「シングルファーザーがPTA役員をしている」ということ自体が珍しく映るのか、悪気なく「大変ですね」「お一人で偉いですね」と声をかけられることが度々ありました。好意的な言葉であることは分かっていても、どこか「特別扱い」されているような居心地の悪さを感じることもありました。
この時期を乗り越えられたのは、個人事業主として培ってきた「郷に入っては郷に従う」姿勢のおかげだったと思います。最初から完璧に馴染もうとするのではなく、まずは与えられた役割を淡々とこなす。会議の議事録作成や連絡事項の取りまとめなど、地道な作業を丁寧にこなしていくうちに、少しずつ「役に立つ人」として認識されるようになっていったように感じます。
平日の活動時間をどう確保したか
PTA活動の多くは平日の日中に設定されることが多く、これは会社員の保護者にとっては大きなハードルになります。私自身、個人事業主として時間の融通が利く立場だったからこそ、平日の会議や作業に参加できた面は大きいと感じています。
具体的には、月に数回程度の会議や、行事前の準備作業のために、平日の午前中から昼過ぎにかけての時間を空けるようにスケジュールを調整してきました。仕事のクライアントとの打ち合わせは午後以降に集約する、締め切りが重ならないよう案件の受注時期を調整するなど、事業運営の面でも工夫が必要でした。この経験を通じて、個人事業主という働き方が地域活動への参加のしやすさという面でも一定のメリットを持っていることを改めて実感しました。
一方で、時間の融通が利くからといって無制限に引き受けてしまうと、本業への影響が大きくなりすぎるリスクもあります。役員を引き受ける際には、自分がどこまでの時間をPTA活動に割けるかをあらかじめ見積もり、それを超える依頼については率直に「対応が難しい」と伝えるようにしていました。曖昧に引き受けてしまい後から対応しきれなくなるよりも、最初に自分の可動範囲を明確にしておくほうが、結果的に周囲との関係も良好に保てたように思います。
徐々に変わっていった周囲の視線
活動を続けるうちに、周囲の視線は少しずつ変化していきました。最初は「珍しい存在」として見られていた感覚がありましたが、半年ほど経つと、性別や家庭状況ではなく「役員としてきちんと仕事をする人」として見てもらえるようになっていったように感じます。会議での発言や、担当した作業の質を通じて、少しずつ信頼を積み重ねていけたのだと思います。
特に印象的だったのは、他の保護者から仕事や家庭の悩みについて相談を持ちかけられるようになったことです。当初は「壁」を感じていた保護者コミュニティの中で、次第に対等な一員として扱ってもらえるようになったことは、想像していなかった収穫でした。中には、共働き家庭で平日の役員活動に苦労している方から、時間の作り方について相談されることもありました。自分の経験が誰かの参考になるという実感は、役員活動そのものの負担感を上回る満足感につながっていました。
もちろん、すべての保護者と打ち解けられたわけではありません。それでも、最初に感じていたような強いアウェイ感は、活動を続けるうちに確実に和らいでいきました。振り返ると、その変化を生んだのは、こちらから積極的に距離を縮めようとしたことよりも、淡々と役割をこなし続けたことのほうが大きかったように思います。特別な自己アピールをするのではなく、任された仕事を丁寧に続ける姿勢そのものが、時間をかけて信頼につながっていったのだと感じています。
PTA活動を通じて見えた学校運営の実情
役員として内側から関わることで、学校運営の実情についても多くの発見がありました。予算配分の仕組み、行事の準備にかかる労力、教員と保護者の間の情報伝達の難しさなど、外から見ているだけでは分からなかったことが数多く見えてきました。
個人事業主として組織運営や資金繰りに関わってきた経験は、PTA予算の使い方を考えるうえでも役立ちました。限られた予算をどう配分すれば子どもたちにとって最も効果的か、といった議論に、事業運営で培った視点を持ち込めたことは、自分なりに貢献できた部分だったと感じています。例えば、毎年慣例的に発注していた消耗品について、複数業者から見積もりを取り直すことを提案し、結果的に一定のコスト削減につながったこともありました。
こうした経験を通じて、PTA活動は単なる「保護者の義務」ではなく、学校というコミュニティの運営に主体的に関わる貴重な機会でもあるのだと捉えられるようになりました。
役員経験を通じて得た地域とのつながり
PTA活動を続ける中で、学校だけでなく地域全体とのつながりが広がっていったことも、想定していなかった収穫のひとつでした。地域の見守り活動や防災訓練、通学路の安全点検といった活動は、PTAを通じて知り合った町内会の方々との連携があってこそ成り立っている部分が大きく、役員としての活動を通じてこうした地域のネットワークに触れる機会が増えていきました。
個人事業主として自宅を拠点に仕事をしていると、地域社会との接点は意識しないとどんどん薄くなっていきます。特にシングルファーザーとして日々の生活に追われていると、近隣との付き合いは後回しになりがちでした。PTA活動をきっかけに地域の方々と顔を合わせる機会が増えたことで、いざというときに頼れる関係性を築けたことは、子育て全体において大きな安心材料になっています。実際、子どもが体調を崩して急な対応が必要になった際、近隣の保護者に助けてもらえたことも一度や二度ではありません。
こうしたつながりは、数字には表れない資産だと感じています。投資や不動産といった金融資産の形成を長年続けてきた身としても、地域社会との信頼関係という「見えない資産」の重要性を、PTA活動を通じて改めて実感させられました。金融資産は数字として増減が見えるため管理しやすい一方、人とのつながりは目に見えず、意識的に時間を投じなければ育っていきません。PTA活動という枠組みがあったからこそ、放っておけば疎遠になりがちな地域との関係を、無理なく築く機会を得られたのだと感じています。
委員会活動で意識した情報発信の工夫
役員としての活動の中で、もうひとつ力を入れたのが情報発信の仕方でした。従来、PTAからの連絡は紙のお便りが中心でしたが、共働き家庭や、私のように日中の予定が流動的な保護者にとって、紙の配布物だけでは情報が行き渡りにくいという課題を感じていました。
そこで、既存の連絡網に加えて、簡単なデジタルツールを使った情報共有の仕組みを提案したことがあります。個人事業主として日頃からオンラインでのやり取りに慣れていたこともあり、抵抗なく提案できましたが、当初は「今までのやり方で十分」という声もあり、浸透するまでには時間がかかりました。それでも根気強く併用を続けるうちに、少しずつ活用してくれる保護者が増えていき、行事の出欠確認や当日の連絡がスムーズになったという声もいただけるようになりました。
こうした改善提案ができたのも、外部の視点を持った新参者だったからこそだと思います。長年同じやり方を続けてきたコミュニティの中では、当事者だけでは気づきにくい非効率が存在することも多く、少数派としての立場が、かえって組織にとってプラスの提案につながる場面もあるのだと実感しました。事業運営の中で「当たり前」を疑う習慣がついていたことが、思わぬところで地域活動にも活きた形です。
4人の子育てとPTA活動の両立
4人の子を育てながらPTA活動を続けるのは、決して楽なことではありませんでした。上の子の役員活動と下の子の送迎が重なる、行事の準備期間に仕事の締め切りも重なるなど、スケジュールの調整には常に苦労がありました。
それでも続けてこられた理由のひとつは、子どもたちが「親が学校のことに関わってくれている」ことを喜んでくれたからです。行事の準備をしている姿を見て、子どもたちなりに誇らしく感じてくれている様子が伝わってくることもありました。忙しさの中でも、この反応が活動を続けるモチベーションになっていました。
また、複数の子が同じ学校に通っている期間は、一度役員として関わりを持つことで得た人間関係や情報が、下の子たちの学校生活にも活きてくるという実感もありました。行事の傾向、先生方の雰囲気、地域とのつながりなど、一度内側から見た経験は、その後の子育てにおいても貴重な財産になったと感じています。
父親という少数派だからこそ頼られた場面
役員活動を続ける中で、父親という立場だからこそ頼られる場面もあることに気づきました。例えば、行事で重い機材や備品を運ぶ作業、電気配線や音響機器の設営など、体力や技術を要する作業では、自然と声をかけてもらえることが増えていきました。個人事業主として現場での作業に慣れていたこともあり、こうした実務的な役割で貢献できたことは、コミュニティの中での居場所を作るうえで大きな助けになったと感じています。
また、父親の参加率が低い保護者会において、私が参加すること自体が「父親も関わりやすい雰囲気づくり」につながっているという声をいただいたこともありました。実際、私が役員を続けている間に、他の家庭の父親が行事の手伝いに顔を出してくれる機会が少しずつ増えていったように感じます。自分が最初の一人になることで、後に続く人のハードルを下げられるのだとしたら、それは想定していなかった副次的な意義だったと思います。
一方で、こうした「男手」としての期待に応えることだけが自分の役割ではないとも意識するようにしていました。力仕事だけを担う存在として固定化されてしまうと、本来担いたかった企画や運営面での関わりが薄くなってしまいます。実務的な貢献と、企画・運営への参画のバランスを自分から意識して取りにいくことも、居心地の良さを保つうえで大切な視点でした。
断る勇気も必要だと学んだこと
PTA活動を続ける中で、すべての依頼を引き受けることが良い関わり方だとは限らないということも学びました。役員としての実績が積み重なるにつれて、追加の依頼や、別の委員会からの声かけが増えていく時期がありました。頼られること自体はありがたい反面、本業や子育てとのバランスを崩しかねない量になっていたのも事実です。
あるとき、複数の行事の準備期間が重なり、本業の納期にも影響が出そうになったことがありました。このとき、無理をして全部を引き受けるのではなく、「今回はこの部分だけ担当させてほしい」と役割を絞って伝えることにしました。最初は断ることに抵抗がありましたが、はっきり伝えたことで、かえって周囲からは「自分の状況を正直に共有してくれる人」として信頼してもらえたように感じています。
個人事業主として、仕事の依頼をすべて引き受けていては事業が立ち行かなくなるのと同じで、地域活動においても自分のキャパシティを把握し、時には断る判断をすることが、長く関わり続けるためには欠かせないのだと実感しました。無理を重ねて疲弊してしまえば、結局は子どもたちとの時間や本業にしわ寄せがいってしまいます。持続可能な形で関わり続けることこそが、コミュニティにとっても自分にとっても良い結果につながるのだと考えるようになりました。
まとめ
シングルファーザーとしてPTA役員を引き受けた当初は、強いアウェイ感を覚えていました。しかし、平日の時間を確保できる個人事業主という働き方を活かしながら、地道に役割をこなしていくうちに、周囲からの見られ方も、自分自身の居心地も、少しずつ変化していきました。少数派の立場だからこそ得られる気づきや、感謝の言葉もありました。
PTA活動への参加を迷っているシングルファーザー、あるいはシングルマザーの方にとって、この経験が一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
振り返ってみると、最初にアウェイ感を覚えたあの緊張は、コミュニティに新しい視点を持ち込むための助走期間だったのかもしれません。少数派であることを理由に活動を避けていたら、得られなかった人間関係や気づきがたくさんありました。子育ての大変さは一人で抱え込むよりも、地域という大きな輪の中で分かち合うほうが、結果的に自分自身も救われるのだということを、PTA活動を通じて学ばせてもらったように思います。今後、下の子たちの学年が上がるにつれても、無理のない範囲でこうした関わりを続けていきたいと考えています。
個人事業主・投資家・大家として、数字と向き合う時間の長い日々を送っていますが、PTA活動を通じて得たものの多くは、数字では測れないものでした。信頼、感謝、地域の中での居場所。こうした無形の資産もまた、子どもたちが安心して育っていくための土台になっているのだと、この経験を通じて強く感じています。
同じ立場の方が一歩を踏み出す後押しになれば、これほど嬉しいことはありません。迷っているなら、まずは小さな役割から関わってみることをお勧めします。
免責事項
本記事は筆者個人の経験に基づく一般的な情報提供を目的としており、PTA活動の実態や運営方法は学校や地域によって大きく異なります。参加を検討する際は、通っている学校のPTA組織に直接確認してください。また、記事中の働き方や収入に関する内容は個人の経験に基づくものであり、個別の税務・投資・法律判断については税理士・ファイナンシャルプランナー等の専門家にご相談ください。


