空室リスクの分散戦略|複数物件を持つ大家の実践的ポートフォリオ論

不動産

大家業を20年続けてきて、一番怖い言葉は「満室」ではなく「空室」だと僕は思っています。1棟しか持っていない時代、空室が出た月の通帳を見るたびに胃が痛くなりました。家賃収入がゼロになるということは、ローンの返済や固定資産税の支払いが自分の給与や貯金からの持ち出しになるということです。今回は、僕が実際に複数物件を保有する中で組み立ててきた「空室リスクの分散戦略」について、具体的な数字を交えながら実践的にまとめていきます。

  1. なぜ「1棟集中」は危険なのか——空室イコール収入ゼロという現実
  2. 複数物件保有によるリスク分散の基本的な考え方
  3. エリア分散——同一エリア集中のリスクを避ける
    1. エリア集中がもたらす3つのリスク
    2. エリア分散の目安
  4. 物件タイプの分散——区分・戸建て・アパートそれぞれの特性
    1. タイプ別の特徴比較
  5. 入居者層の分散——学生・社会人・ファミリーのバランス
    1. 入居者層ごとの需要変動要因
  6. 空室率の実数とシミュレーション——複数物件保有の効果を数字で見る
    1. シミュレーション条件
  7. 複数物件を一人で管理する限界と、管理会社併用という現実解
    1. 自主管理で限界を感じた具体的な場面
    2. 管理方式ごとの時間コストとコストの目安
  8. 20年大家としての実体験から得た教訓
  9. 融資(借入先)の分散という見落とされがちな視点
    1. 1行集中の融資が抱えるリスク
    2. 金融機関ごとの特徴を理解して使い分ける
  10. 出口戦略(売却時期)の分散も忘れずに
  11. 修繕費の積立を物件ごとに分散管理する
    1. 物件ごとに口座を分けて積立を可視化する
  12. 空室対策の具体策——募集条件を見直した実例
    1. 見直し前の状態
    2. 見直した内容と結果
  13. 保険と税務における分散の視点
    1. 火災保険会社を1社に集中させないという判断
    2. 確定申告・税務管理における注意点
  14. よくある質問(Q&A)
  15. まとめ
  16. あわせて読みたい関連記事

なぜ「1棟集中」は危険なのか——空室イコール収入ゼロという現実

区分マンションを1室だけ、あるいはアパートを1棟だけ保有している状態というのは、投資としてはシンプルですが、リスクの観点では非常に脆弱です。理由は単純で、その1室・1棟が空室になった瞬間、家賃収入が100%消失するからです。

僕が最初に所有した区分マンションは、入居者が退去してから次の入居が決まるまでに4か月かかりました。家賃8万円の物件だったので、単純計算で32万円の機会損失です。さらに退去時のクリーニング代や原状回復費、次の入居付けのための広告料(AD)を合わせると、実質的な損失は40万円を超えました。ローンの返済額は空室でも待ってくれません。このとき痛感したのは、「1つの収入源に依存する怖さ」でした。

会社員の副業としての不動産投資でも、専業大家でも同じことが言えます。物件が1つしかない状態は、いわば「単一銘柄に全財産を投資している株式投資」と同じ構造的リスクを抱えています。分散が効かないため、空室という一つの事象がキャッシュフロー全体を直撃してしまうのです。

複数物件保有によるリスク分散の基本的な考え方

この経験から僕が意識するようになったのが、「複数物件による空室リスクの分散」という考え方です。基本的な原理は株式投資のポートフォリオ理論とほぼ同じで、値動き(空室になるかどうか)の相関が低い資産(物件)を組み合わせることで、全体のブレを小さくするというものです。

たとえば5戸のアパートを1棟だけ持つケースと、区分マンションを5室に分けて別々のエリア・別々の建物で持つケースを比較してみます。前者は建物自体に問題(外壁の劣化、共用部の印象悪化、近隣トラブルなど)が起きると5戸すべてに影響が及ぶ可能性がありますが、後者は建物ごとにリスクが独立しているため、1つの建物で問題が起きても他の4室には波及しません。

もちろん複数物件を持つには、それだけ多くの自己資金や融資枠が必要になります。すべての大家が最初から複数棟持てるわけではありません。だからこそ、1棟目・2棟目・3棟目と、時間をかけて分散を「設計」していくという発想が重要になります。行き当たりばったりで買い増すのではなく、「今のポートフォリオに足りない分散軸は何か」を毎回考えて物件を選ぶ、というのが僕のやり方です。

エリア分散——同一エリア集中のリスクを避ける

複数物件を持つようになって最初に意識したのが、エリアの分散です。同じ市区町村、しかも徒歩圏内に固めて物件を買うと、管理はラクになりますが、リスクは全く分散されません。

エリア集中がもたらす3つのリスク

  • 人口動態リスク——特定エリアの人口減少や大学の移転、企業の撤退などが起きると、そのエリアの物件すべてが同時に影響を受けます。
  • 供給過多リスク——近隣に新築アパートが立て続けに建つと、そのエリア全体の家賃相場が下がり、保有する複数物件すべてで家賃を下げざるを得なくなることがあります。
  • 災害リスク——水害や地震などの自然災害は、同一エリアの物件をまとめて直撃する可能性があります。ハザードマップの浸水想定区域が重なるエリアに物件を集中させるのは危険です。

僕自身、2棟目を購入する際にあえて1棟目とは車で30分以上離れたエリアを選びました。理由は、同じ沿線・同じ生活圏だと需要の波が連動してしまうからです。実際、1棟目のエリアで近隣に大型の新築アパートが供給された年、そのエリアの相場家賃が5%ほど下落しましたが、2棟目のエリアは影響を受けず、ポートフォリオ全体で見ると家賃収入の下落は2〜3%程度に抑えられました。

エリア分散の目安

分散レベル 内容 リスク低減効果
同一沿線・徒歩圏内に集中 ほぼなし(むしろ管理は楽)
同一市区町村内で複数エリアに分散 供給過多・人口動態リスクを一部軽減
異なる生活圏・異なる沿線に分散 災害・人口動態・供給過多リスクを大きく軽減

ただし、エリアを分散しすぎると今度は管理の手間や移動時間が増えるというデメリットもあります。この点は後述の「管理の限界」の項目でも触れます。

物件タイプの分散——区分・戸建て・アパートそれぞれの特性

エリアだけでなく、物件のタイプを分けることも重要な分散軸です。区分マンション、戸建て、一棟アパートは、それぞれ空室リスクの性質が異なります。

タイプ別の特徴比較

物件タイプ 空室時の影響 入居付けの特徴 主なリスク
区分マンション 収入ゼロ(部屋が1つのため) 駅近・築浅なら比較的早い 管理組合の意思決定に左右される
戸建て 収入ゼロ ファミリー層に強いが母数が少ない 入居期間は長いが退去後の空室期間が読みにくい
一棟アパート 戸数分散があるため収入は部分的に維持 単身者向けが中心 建物全体の老朽化・大規模修繕リスク

区分マンションと戸建ては「空室=収入ゼロ」という点で共通していますが、一棟アパートは戸数そのものが分散になっているという特徴があります。たとえば8戸のアパートで1戸空室になっても、残り7戸から家賃収入が入るため、収入がゼロになることはありません。この「棟内分散」と「複数棟による分散」を組み合わせることで、リスク耐性はさらに高まります。

僕のポートフォリオは、区分マンション2室・戸建て1戸・一棟アパート(6戸)1棟という組み合わせです。あえて全部を同じタイプにしないことで、たとえば区分マンション特有の管理組合トラブルや、戸建て特有の長期空室リスクが起きても、アパートからの収入が下支えしてくれる構造になっています。

入居者層の分散——学生・社会人・ファミリーのバランス

物件タイプと並んで見落とされがちなのが、入居者層(ターゲット)の分散です。学生向け、社会人単身向け、ファミリー向けでは、需要が動くタイミングも景気変動への反応も異なります。

入居者層ごとの需要変動要因

  • 学生層——大学の移転・定員削減・少子化の影響を受けやすい。繁忙期(1〜3月)に需要が集中し、それ以外の時期は動きが鈍い。
  • 社会人単身層——転勤や転職のタイミングで動きが発生。景気悪化時は求人が減り、転居ニーズそのものが減少する傾向がある。
  • ファミリー層——一度入居すると在住期間が長く安定的だが、退去時は次の入居付けまでの原状回復コストが大きくなりやすい。

僕の保有物件では、区分マンションを社会人単身向け、戸建てをファミリー向け、アパートを社会人・学生の混在向けにしています。ある年、地域の大学が定員を削減したというニュースがあり、学生需要に依存していた大家仲間は苦戦していましたが、僕のアパートは社会人層の割合が高かったため、影響は限定的でした。逆に、景気後退が起きた場合は社会人単身層の転居需要が縮小しやすいので、ファミリー向けの戸建てが安定収入の柱になってくれます。

入居者層を分散させることは、いわば「景気サイクルへの耐性」を持たせることでもあります。1つの層に依存しないポートフォリオは、どんな経済環境でも一定の入居率を保ちやすくなります。

空室率の実数とシミュレーション——複数物件保有の効果を数字で見る

ここまでの分散の考え方を、実際の数字でシミュレーションしてみます。ある地域の賃貸住宅の平均空室率をおおよそ15%と仮定し(全国平均の統計でもワンルーム系は10〜20%程度で推移することが多いです)、1戸あたり月家賃7万円のケースで比較してみましょう。

シミュレーション条件

ケース 保有戸数 各戸の空室率 年間の実効収入(満室想定に対する割合)
A:区分1室のみ 1戸 15%(確率的に空室月が発生) 約85%(ただし空室が続く月は収入ゼロ月が発生)
B:区分3室(同一エリア) 3戸 各15%・相関高い 約82〜88%(変動幅が大きい)
C:区分3室(異エリア分散) 3戸 各15%・相関低い 約85%前後で安定(変動幅が小さい)
D:アパート8戸(1棟) 8戸 平均15% 約85%(収入がゼロになる月は基本的に発生しない)

ここで重要なのは、期待値としての実効収入率(平均85%前後)自体は、A〜Dのどのケースでもそれほど大きく変わらないという点です。しかし「収入がゼロになる月が発生する確率」と「収入のブレ幅(標準偏差)」は劇的に違います。

Aのケースでは、その1戸が空室になった月は収入が100%消失します。年に1〜2か月、そうした「ゼロ月」が発生する可能性は決して低くありません。一方、Dのように8戸に分散していれば、8戸すべてが同時に空室になる確率は極めて低く、収入がゼロになる月はほぼ発生しません。月ごとの家賃収入の振れ幅で見ると、Aは0円〜7万円の間で大きく変動するのに対し、Dは45万円台〜56万円台という比較的狭いレンジで安定します。

僕自身、区分マンション1室だけだった時期は、年間のキャッシュフローが月によって0円から満額まで乱高下していました。複数物件・複数戸に分散した現在は、月々の家賃収入の変動幅が体感で3分の1程度に縮小し、精神的な安心感がまったく違います。空室リスクの分散は、期待収益を上げるためというより、「収入の安定性(再現性)を高めるため」の戦略だと理解しておくとよいと思います。

複数物件を一人で管理する限界と、管理会社併用という現実解

分散を進めれば進めるほど良いかというと、そうとも言い切れません。物件数・エリア数が増えるほど、管理にかかる時間と労力は確実に増えていきます。僕は自主管理でスタートしましたが、子育てをしながら複数物件の入居者対応・修繕手配・確定申告まで一人でこなすのは、正直なところ限界がありました。

自主管理で限界を感じた具体的な場面

  • 深夜の水漏れ連絡に対応しきれず、入居者からのクレームにつながった
  • 複数物件の退去清算・原状回復の見積もり取得が重なり、対応が後手に回った
  • 確定申告のシーズンに、家賃収入・経費の突合作業だけで1週間近く時間を取られた
  • 子どもの学校行事と物件対応の日程が重なり、どちらも中途半端になった

そこで僕が行き着いたのが、「すべてを管理会社に任せる」でも「すべて自主管理を貫く」でもない、ハイブリッド運用です。具体的には、日常のクレーム対応や入退去の立ち会いなど時間的制約が大きい部分は管理会社に委託し、収支管理・投資判断・修繕会社の選定といった「大家としての意思決定」の部分だけは自分で行うという分担です。

管理方式ごとの時間コストとコストの目安

管理方式 自分の作業時間(月あたり目安) 管理コスト 向いているケース
完全自主管理 物件数×3〜5時間 ほぼゼロ 物件数が少なく近隣に居住している場合
管理会社に一部委託 物件数×1時間程度 家賃の3〜5% 複数物件・複数エリアを保有している場合
サブリース(一括借上げ) ほぼゼロ 家賃の10〜20%減額 時間的制約が非常に大きい場合

物件が2棟を超えたあたりから、僕は管理会社への一部委託を始めました。手数料は家賃収入の3〜5%程度ですが、自分の時間を子育てや次の投資判断に回せるようになったことを考えると、十分に見合うコストだと感じています。分散戦略は「物件を増やす」ことだけでなく、「増やした後にどう回すか」まで含めて設計しておく必要があります。

20年大家としての実体験から得た教訓

大家歴20年、個人事業主歴20年、投資家歴20年という時間の中で、僕がたどり着いた結論はシンプルです。「分散は一度に完成させるものではなく、少しずつ育てていくもの」だということです。

最初の1室を買った頃は、分散という発想すら持っていませんでした。ただ「利回りが良さそうだから」という理由だけで物件を選び、結果として同じような属性の物件ばかりが手元に集まっていた時期もあります。空室で痛い目を見て、初めてエリア・タイプ・入居者層という3つの軸で自分のポートフォリオを見直すようになりました。

また、複数物件を持つようになってから気づいたのは、分散はリスクを減らすだけでなく、判断の質も上げてくれるということです。1つの物件のことだけを考えていると視野が狭くなりがちですが、複数のエリア・タイプの物件を持っていると、「このエリアの相場はどう動いているか」「このタイプの入居者層は何を求めているか」を比較しながら考えられるようになります。これは次の物件を選ぶときの目利き力にもつながっています。

4人の子どもを一人で育てながらの大家業だったので、時間の制約は常に大きなテーマでした。だからこそ、分散を「増やすこと」だけに使うのではなく、「管理会社と役割分担すること」とセットで考える必要があると強く感じています。分散と効率化は、両輪で回してこそ意味があるというのが、20年の実務から得た実感です。

融資(借入先)の分散という見落とされがちな視点

エリア・物件タイプ・入居者層の分散については比較的語られる機会が多いのですが、僕がもう一つ重要だと考えているのが「融資(借入先)の分散」です。複数物件を持つようになると、すべての物件を同じ金融機関からの借入でまかなってしまいがちですが、これにはリスクが伴います。

1行集中の融資が抱えるリスク

特定の金融機関にすべての借入を集中させると、その金融機関の融資姿勢が変わった瞬間、自分の投資戦略全体が縛られることになります。実際に僕が経験したのは、ある地方銀行が不動産融資に慎重姿勢を強めた時期に、次の物件購入のための追加融資がまったく通らなくなったという出来事です。その銀行にすでに2棟分の借入があったため、担保評価や返済比率の面で「これ以上は難しい」と言われてしまいました。

この経験から、僕は物件を増やすタイミングで意識的に借入先を分散させるようにしています。地方銀行・信用金庫・日本政策金融公庫など、性質の異なる金融機関を組み合わせておくことで、1つの金融機関の融資姿勢が変わっても、他の金融機関との関係で次の一手を打てる余地が残ります。

金融機関ごとの特徴を理解して使い分ける

金融機関の種類 特徴 向いている場面
地方銀行・信用金庫 地元物件への融資に強く、金利は中程度 エリアを絞った複数物件の買い増し
日本政策金融公庫 個人事業主・小規模事業者向けで審査基準が独自 他行の融資枠を使い切った際の補完
ノンバンク・不動産投資ローン専門会社 審査は柔軟だが金利は高め スピード重視の物件取得や属性面での補完

金利や条件だけで金融機関を選ぶのではなく、「この先何棟か買い増していく上で、この銀行にどこまで頼れるか」という中長期の関係性まで含めて考えることが、分散戦略を継続させる土台になります。

出口戦略(売却時期)の分散も忘れずに

意外と見落とされがちなのが、「売却するタイミング」の分散です。複数物件を同じタイミングで取得すると、ローンの完済時期や大規模修繕の時期だけでなく、将来売却を検討する時期まで重なってしまうことがあります。

僕自身、2棟の物件をほぼ同時期に購入した際、数年後にどちらも「そろそろ大規模修繕か売却か」を同時に判断しなければならない局面を迎えたことがあります。市場環境が悪いタイミングで2棟同時に売却判断を迫られると、足元を見られた価格交渉をされかねません。この経験から、物件を取得する際は、既存物件の取得時期や築年数ともあえてズラすようにしています。取得時期を分散させておけば、将来の出口(売却・大規模修繕・建て替え)の判断時期も自然に分散され、市場環境が良いタイミングを選んで動ける物件が常に手元にある状態を作れます。

エリア・物件タイプ・入居者層・融資先・出口時期。この5つの軸を意識して少しずつポートフォリオを組み上げていくことが、20年間大家業を続けてきた僕がたどり着いた、実践的な空室リスク分散の全体像です。

修繕費の積立を物件ごとに分散管理する

空室リスクの分散と並んで、複数物件を持つようになってから強く意識するようになったのが「修繕費積立の分散管理」です。物件が1つだけの頃は、通帳も1つ、修繕の予算感覚もひとまとめで何となく把握できていました。しかし物件数が増えると、どの物件のためにいくら積み立てているのかが曖昧になり、いざ大規模修繕が必要になったタイミングで「思ったより手元資金が足りない」という事態に陥りかねません。

物件ごとに口座を分けて積立を可視化する

僕が実践しているのは、物件ごとに専用の口座(または口座内の管理タグ)を用意し、家賃収入から一定割合を自動的に積立に回す仕組みです。目安としては、区分マンション・戸建てでは家賃収入の3〜5%程度、外壁や屋上防水など大規模修繕が発生しやすい一棟アパートでは8〜10%程度を積立に回すようにしています。この割合は物件の築年数によっても変えており、築浅の物件は低めの割合、築年数が経過した物件は高めの割合に設定し直しています。

物件タイプ 積立目安(家賃収入比) 主な修繕項目 積立を厚くする築年数の目安
区分マンション 3〜5% 専有部の設備(給湯器・エアコン等) 築15年以降
戸建て 5%程度 外壁・屋根・水回り一式 築20年以降
一棟アパート 8〜10% 外壁塗装・屋上防水・共用部設備 築15年以降

この仕組みを導入する前、僕は一棟アパートの外壁塗装が必要になったタイミングで、想定より200万円近く手元資金が不足していることに気づき、急きょ別の物件の家賃収入から補填した経験があります。修繕費の積立を物件単位で分散管理していれば、こうした「どんぶり勘定」による資金繰りの混乱は防げます。空室リスクの分散と修繕費の分散管理は、いわば車の両輪です。空室で収入が減ったタイミングと大規模修繕が重なると、キャッシュフローが一気に悪化するため、修繕時期そのものも物件ごとに意識的にズラすようにしています。

空室対策の具体策——募集条件を見直した実例

分散戦略と同時に大事なのが、個々の物件の空室期間そのものを短くする努力です。ここでは僕が実際に行った募集条件の見直しと、その前後での成約スピードの変化を紹介します。

見直し前の状態

ある区分マンションは、退去から3か月経っても内見の申し込みすら入らない状態が続いていました。家賃は周辺相場並みでしたが、募集条件を見返すと「敷金2か月・礼金1か月・保証人必須」という、やや入居者側の初期負担が大きい設定になっていました。

見直した内容と結果

  • 初期費用の見直し——敷金を1か月に減額し、保証会社利用を選択制にすることで保証人不要にも対応。初期費用の心理的ハードルを下げました。
  • 設備の追加——無料インターネット回線を導入。追加投資は月額の設備使用料を含めても実質年間数万円程度でしたが、検索サイトの「こだわり条件」に該当するようになり、露出が増えました。
  • 写真と広告文の見直し——スマートフォンでの見やすさを意識し、部屋の写真を明るく撮り直し、生活動線がイメージできる順番に並べ替えました。

これらの見直しを行った結果、内見申し込みまでの期間は平均で3週間程度に短縮され、成約までの空室期間もトータルで2か月弱にまで縮まりました。家賃を下げずに空室期間を短縮できたため、年間の実効収入で見ると、値下げ対応をした場合よりも手取りが多く残った計算になります。空室対策は「家賃を下げる」という一手だけでなく、初期費用・設備・広告の見せ方という複数の切り口から同時に見直すことで、より効果的に成約までの期間を縮められると実感しています。

保険と税務における分散の視点

エリア・物件タイプ・入居者層・融資先・出口時期に加えて、僕がもう二つ意識しているのが「火災保険会社の分散」と「税務上の管理の分散」です。

火災保険会社を1社に集中させないという判断

複数物件の火災保険をすべて同じ保険会社にまとめると、事務手続きは楽になりますが、その保険会社の商品改定や保険料の値上げの影響を全物件が同時に受けることになります。実際、僕が加入していた保険会社が水災補償の条件を見直した際、更新のタイミングで保険料が想定より上がった物件がありました。その際、別の保険会社の商品も比較検討していたおかげで、条件の良い方に切り替えるという選択肢を持てました。すべて1社にまとめていたら、値上げをそのまま受け入れるしかなかったかもしれません。

確定申告・税務管理における注意点

物件数が増えると、確定申告の作業量も比例して増えます。個人事業主として20年、大家として20年やってきた中で痛感するのは、複数物件を持つ場合こそ、青色申告特別控除(最大65万円)を活用できる正規の帳簿付けをきちんと行っておくことの重要性です。物件ごとの収支を按分せずにひとまとめで管理していると、どの物件が収益に貢献し、どの物件が赤字体質になっているかが見えにくくなります。僕は物件ごとに簡易的な収支表を作り、年間を通じて「その物件単体の実質利回り」を把握できるようにしています。これにより、次に売却すべき物件、逆に買い増しすべきタイプの物件が、感覚ではなく数字で判断できるようになりました。

管理項目 1物件のみの場合 複数物件の場合の注意点
帳簿付け 比較的シンプル 物件ごとの収支を分けて記帳しないと実態が見えない
減価償却 1件分の計算のみ 取得時期・構造が異なると耐用年数もバラバラになり管理が煩雑
損益通算 該当しにくい 赤字物件と黒字物件を通算できるため全体設計が節税に直結

特に損益通算は、複数物件を持つことのメリットの一つです。修繕費がかさんで単年度で赤字になった物件があっても、他の物件の黒字と通算できるため、ポートフォリオ全体としての税負担をコントロールしやすくなります。これも、単一物件では得られない「分散のメリット」だと言えます。

よくある質問(Q&A)

Q1. 何棟目くらいから分散を意識し始めればいいですか。
A1. 理想を言えば1棟目を選ぶ段階から「次にどう広げるか」を意識しておくのがベストですが、現実的には2棟目を検討するタイミングが最初の分岐点になります。1棟目と同じエリア・同じタイプを選ぶと管理は楽ですが分散効果はゼロに近くなります。2棟目こそ、エリアかタイプのどちらかを意図的にズラす、という判断が後々効いてきます。

Q2. 資金力に余裕がない場合、どこから分散を始めればいいですか。
A2. 資金が限られている場合、いきなりエリアを大きく分散させるのは現実的ではありません。まずは同一エリア内でも物件タイプ(区分・戸建て・アパート)を変えてみる、あるいは入居者層(単身向け・ファミリー向け)を変えてみるところから始めるのが取り組みやすいと思います。エリア分散は資金力が整ってから徐々に広げていくという順番でも十分間に合います。

Q3. 融資の分散は、どのタイミングで金融機関を追加すればいいですか。
A3. 1つの金融機関からの借入残高が増え、担保評価や返済比率(自己資金・年収に対する借入額の割合)が厳しくなってきたと感じたタイミングが目安です。金融機関ごとに融資姿勢や得意な物件タイプが異なるため、次の物件を検討し始める段階で、複数の金融機関に相談だけでもしておくと、いざという時に選択肢が広がります。

Q4. 子育てをしながら複数物件を管理する時間は、どうやって捻出していますか。
A4. すべてを自分でこなそうとせず、管理会社への委託と自分でやるべき判断業務を早い段階で切り分けたことが一番効いています。子どもの学校行事や急な体調不良など、家庭側の予定は自分でコントロールできないことが多いため、物件対応の中でも「今日中でなくてもいい業務」と「即対応が必要な業務」を分け、後者だけは管理会社や修繕業者に一次対応を任せる体制を作っています。分散戦略は物件面だけでなく、自分の時間の使い方そのものにも当てはめて考えるべきだと感じています。

まとめ

単一物件は空室=収入ゼロという構造的な脆さを抱えています。複数物件を保有し、エリア・物件タイプ・入居者層という3つの軸で分散を図ることで、収入の変動幅を小さくし、精神的にも経済的にも安定した賃貸経営が可能になります。ただし、分散を進めるほど管理の手間は増えるため、管理会社の活用など「回し方」の設計も同時に行うことが欠かせません。焦らず、1棟ずつ、自分のポートフォリオに足りない分散軸を意識しながら物件を選んでいくことが、長く続けられる大家業の土台になると僕は考えています。

あわせて読みたい関連記事

免責事項
本記事は筆者個人の経験と一般的な知見に基づく情報提供を目的としたものであり、特定の投資手法や物件購入、管理会社の選定を推奨するものではありません。空室率や家賃収入のシミュレーションはあくまで一例であり、実際の数値は物件の立地・築年数・市場動向などにより大きく異なります。不動産投資には空室・家賃下落・修繕費増加などのリスクが伴います。投資判断は必ずご自身の責任において、専門家(不動産会社・税理士・ファイナンシャルプランナー等)にご相談の上で行ってください。

タイトルとURLをコピーしました