医療保険は本当に必要か|個人事業主が高額療養費制度と貯蓄で考えた結論

保険・教育費
  1. 次男の救急搬送で気づいた「保険証と通帳、どっちを信じるか」という問題
  2. 個人事業主が医療保険を過剰に不安がる3つの理由
    1. 理由1:傷病手当金がない
    2. 理由2:収入の変動が大きく、生活防衛資金の基準が読みにくい
    3. 理由3:家族を支える立場としての責任感
  3. 高額療養費制度の仕組みを数字で正確に理解する
    1. 事前に知っておきたい「限度額適用認定証」
  4. 実際のケースで見る「保険なし・貯蓄あり」の着地点
  5. 貯蓄でカバーできる範囲はどこまでか
    1. 生活防衛資金と医療費用の資金は分けて考える
    2. 収入減リスクへの備えは保険ではなく「複数の収入源」で
  6. 医療保険が必要なケース・不要なケースの判断基準
  7. 僕が実際に選んだ保障の考え方
    1. 1. 生活防衛資金を厚めに確保する
    2. 2. 先進医療特約だけは薄く確保する
    3. 3. 収入減対策は保険ではなく資産からのキャッシュフローで
    4. 4. 限度額適用認定証とマイナ保険証の連携を常に確認しておく
  8. 民間医療保険を選ぶなら確認したい3つのポイント
    1. 1. 入院給付金の日額よりも「一時金給付」の有無を見る
    2. 2. 保険料払込免除特約の要否を確認する
    3. 3. 更新型か終身型かで長期的なコストが大きく変わる
  9. 医療費控除とのダブル活用で実質負担をさらに圧縮する
  10. 高額療養費の「世帯合算」を家族の医療費に使う
  11. 所得水準別のシミュレーション:自己負担と必要な備えはどう変わるか
  12. 知人に見た「保険のかけすぎ」という失敗例
  13. よくある質問(Q&A)
    1. Q1. 高額療養費の払い戻し申請に期限はありますか?
    2. Q2. 高額療養費と医療費控除は両方使えますか?
    3. Q3. 国民健康保険料を滞納していても高額療養費は使えますか?
    4. Q4. 医療保険の保険料に回すお金があるなら、iDeCoや小規模企業共済を優先すべきですか?
  14. まとめ
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次男の救急搬送で気づいた「保険証と通帳、どっちを信じるか」という問題

数年前のある夜、次男が高熱とけいれんで救急搬送されたことがある。会計窓口で渡された請求書の金額を見た瞬間、頭の中で真っ先に動いたのは「痛かったね」でも「大丈夫かな」でもなく、通帳の残高だった。個人事業主として働いていると、こういう瞬間に会社員時代の同僚たちとは違う思考回路が働く。傷病手当金もなければ、有給休暇で仕事を休んでも収入が保証される仕組みもない。頼れるのは、自分で作ってきた貯蓄と、公的な医療保険制度だけだ。

結論から言うと、その夜の請求額は最終的に「高額療養費制度」のおかげで、当初提示された金額よりかなり圧縮された。窓口で言われた数字にそのまま青ざめる必要はなかったのだ。だがこの制度の存在と仕組みを正確に知らなければ、恐怖だけが先に立って、必要以上に高い民間の医療保険に飛びついてしまう。逆に、制度を知りすぎて「保険なんて要らない」と思い込むのも危険だ。この記事では、個人事業主という「会社の保障から外れた立場」から、高額療養費制度の実際の数字、貯蓄でカバーできる範囲、そして本当に必要な保障の線引きを、僕自身が試算した数字とともに整理していく。

個人事業主が医療保険を過剰に不安がる3つの理由

個人事業主やフリーランスが医療費に対して過剰に不安を感じやすいのには、はっきりした理由がある。順番に見ていきたい。

理由1:傷病手当金がない

会社員が加入する健康保険(協会けんぽや組合健保)には、病気やケガで働けなくなったときに給与の約3分の2を最長1年6か月保障する「傷病手当金」がある。ところが個人事業主が加入する国民健康保険には、この制度が原則存在しない(自治体によって新型の感染症などで限定的に導入された例はあるが、恒常的な制度ではない)。つまり、入院して1か月仕事を休めば、その1か月分の収入はまるごと消える。医療費の負担以上に、この「収入が止まる」ことへの恐怖が、個人事業主特有の不安の正体だと僕は感じている。

理由2:収入の変動が大きく、生活防衛資金の基準が読みにくい

会社員であれば毎月の手取りがほぼ一定なので、必要な生活防衛資金も計算しやすい。しかし個人事業主は繁忙期と閑散期で月収が2倍、3倍と変わることも珍しくない。「何か月分の生活費を確保しておけば安心か」という基準自体が曖昧になりやすく、結果として「とにかく保険に入っておけば安心」という思考停止に陥りやすい。

理由3:家族を支える立場としての責任感

僕は一人で子どもたちを育てているので、自分が倒れたときに家計がどうなるかという想像は、他の何よりも先に頭をよぎる。この責任感自体は健全なものだが、責任感が強いほど「保険に入っていないと不安」という感情に流されやすくなる。感情で判断する前に、まず制度と数字を確認する。それが個人事業主としてお金と向き合ってきた20年で身についた僕なりのやり方だ。

高額療養費制度の仕組みを数字で正確に理解する

高額療養費制度とは、1か月(月初から月末)にかかった医療費の自己負担額が一定の上限を超えた場合、その超えた分が払い戻される(または最初から窓口負担が上限までで済む)制度だ。国民健康保険に加入している個人事業主も、会社員が加入する健康保険と同様にこの制度の対象になる。ここが誤解されやすいポイントで、「国保だから保障が薄い」というイメージを持たれがちだが、高額療養費制度に関しては会社員と個人事業主でほぼ同じ扱いを受けられる。

自己負担の上限額は、年齢と所得水準によって区分が分かれている。69歳以下の場合の月々の自己負担限度額は以下の通りだ。

所得区分(標準報酬月額/旧ただし書き所得の目安) 自己負担限度額(月額) 多数回該当(4回目以降)
区分ア:年収約1,160万円以上 252,600円+(医療費-842,000円)×1% 140,100円
区分イ:年収約770万〜1,160万円 167,400円+(医療費-558,000円)×1% 93,000円
区分ウ:年収約370万〜770万円 80,100円+(医療費-267,000円)×1% 44,400円
区分エ:年収約370万円以下 57,600円 44,400円
区分オ:住民税非課税世帯 35,400円 24,600円

個人事業主の場合、国民健康保険料の算定基準になる「前年の所得」がそのまま高額療養費の所得区分判定にも使われる。つまり、確定申告の数字がそのまま医療費負担の上限にも直結している。売上が伸びた年の翌年は自己負担上限も上がる、という点は意外と見落とされがちなので注意したい。

さらに重要なのが「多数回該当」の仕組みだ。過去12か月以内に3回以上高額療養費の支給を受けている場合、4回目以降はさらに上限額が下がる。長期の治療が必要な病気にかかった場合、家計への影響は思っているより抑えられる設計になっている。

ただし注意点もある。高額療養費制度の対象になるのは「保険適用の診療」に限られる。差額ベッド代、先進医療の技術料、食事療養費の一部、そして入院中の日用品費などは対象外で、全額自己負担になる。この「対象外の部分」をどう見積もるかが、保険の要・不要を判断する上での本当の論点になる。

事前に知っておきたい「限度額適用認定証」

高額療養費制度は原則、いったん医療機関の窓口で自己負担分(3割など)を支払い、後日申請して払い戻しを受ける仕組みだが、事前に加入している国民健康保険から「限度額適用認定証」を取得して提示すれば、窓口での支払い自体を最初から自己負担限度額までに抑えることができる。急な入院で一時的にまとまった現金が必要になる事態を避けられるので、個人事業主は特にこの制度の存在を覚えておくべきだと思う。マイナ保険証を利用している場合は、認定証がなくても限度額情報が連携され、窓口負担が自動的に上限までに抑えられるケースも増えている。

実際のケースで見る「保険なし・貯蓄あり」の着地点

制度の説明だけでは実感が湧きにくいので、僕自身が経験した入院と、想定しやすい2つのケースを数字で比較してみる。所得区分は「区分ウ(年収約370万〜770万円)」を基準にした。

ケース 医療費総額(保険適用分) 本来の自己負担(3割) 高額療養費適用後の自己負担 対象外費用の目安
次男の救急搬送・数日入院 約80万円 約24万円 約84,900円 差額ベッド代なし・日用品費1万円程度
虫垂炎手術・1週間入院 約100万円 約30万円 約87,430円 個室希望の場合+5万円前後
がん治療・手術+抗がん剤(3か月継続) 約250万円/月ベースで変動 変動 初月約8万円、4か月目以降は多数回該当で44,400円 先進医療選択時は数十万〜数百万円が別枠

この表からわかるのは、保険適用内の治療である限り、自己負担額は「数万円〜10万円弱/月」というレンジにほぼ収まるということだ。がん治療のように長期化するケースでも、多数回該当のおかげで4か月目以降は月44,400円まで下がる。つまり、保険適用内の治療費に関しては、ある程度の貯蓄があれば民間の医療保険に頼らなくても対応可能な水準だと言える。

一方で見落としてはいけないのが「対象外費用」と「収入が止まる期間」だ。個室を希望した場合の差額ベッド代は1日あたり5,000円〜3万円程度、先進医療(重粒子線治療など)を選択すれば技術料だけで100万円を超えることもある。そしてこれらとは別に、個人事業主には「働けない間の収入減」という、会社員にはない第三のコストがのしかかる。医療保険を検討する際は、この3つのコスト(自己負担分・対象外費用・収入減)を分けて考える必要がある。

貯蓄でカバーできる範囲はどこまでか

では、貯蓄でどこまでをカバーすべきなのか。僕が実際に採用している考え方を整理する。

生活防衛資金と医療費用の資金は分けて考える

一般的に個人事業主の生活防衛資金は「生活費の6か月〜1年分」が目安とされる。この生活防衛資金は、廃業リスクや収入の谷間に備えるものであり、医療費専用の資金ではない。医療費に関しては、この生活防衛資金とは別枠で、高額療養費制度適用後の自己負担額(区分ウなら月8万円台、区分エなら5.76万円)の2〜3か月分、つまり15万円〜25万円程度を「医療費用の即応資金」として現金や普通預金で確保しておけば、多くの急病・ケガには対応できる計算になる。

資金の種類 目安金額 用途
生活防衛資金 生活費6か月〜1年分 収入減・廃業リスク全般への備え
医療費即応資金 15万〜25万円 高額療養費適用後の自己負担・差額ベッド代など
長期治療対応資金 生活防衛資金の枠内で対応 多数回該当により月44,400円程度に収まるため追加積立は最小限でよい

この表の通り、実は「医療費専用」に新たに大きな資金を積み増す必要性は、思っているより低い。生活防衛資金がきちんと確保できていれば、その中に医療費対応分は事実上含まれていると考えてよい。個人事業主にとって本当に優先すべきは、医療保険への加入よりも先に、生活防衛資金そのものを厚くすることだと僕は考えている。

収入減リスクへの備えは保険ではなく「複数の収入源」で

投資家として、また兼業で賃貸経営にも携わってきた20年の中で実感してきたのは、医療費そのものよりも「働けない間の収入ゼロ」の方が家計への打撃が大きいということだ。この収入減リスクに対しては、医療保険よりも家賃収入や配当収入といった、自分が働かなくても入ってくるお金の流れを普段から作っておく方が、根本的な解決になる。医療保険はあくまで「医療費という単発の支出」への備えであり、「継続的な収入減」への備えにはならない点は、混同しないようにしたい。

医療保険が必要なケース・不要なケースの判断基準

ここまでの整理を踏まえて、僕なりに医療保険の要・不要を判断する基準を表にまとめた。あくまで一般的な目安であり、個々の資産状況や家族構成によって最適解は変わる。

状況 医療保険の必要性 理由
生活防衛資金が生活費6か月分以上ある 低い 高額療養費適用後の自己負担は貯蓄内で十分吸収できる
生活防衛資金が生活費1〜2か月分程度しかない 高い 急な入院で即応資金が不足し、事業資金や借入に頼るリスクがある
先進医療(重粒子線治療等)を選択肢に入れたい 中〜高い 先進医療特約付きの医療保険でカバーするのが効率的(特約保険料は月数百円程度と安価なことが多い)
個室・差額ベッド代にこだわりたい 中程度 差額ベッド代は高額療養費の対象外。頻度は低いが希望するなら備えが要る
扶養する子どもが複数おり収入減の影響が大きい 保険より収入源の分散を優先 医療保険では収入減そのものは補えないため、就業不能保険や複数収入源の方が本質的な対策になる
すでに国民年金基金・小規模企業共済等で資産形成を優先している 低〜中 資産形成を止めてまで保険料に回す必要性は低いことが多い

この表で伝えたいのは、「医療保険=無条件で入るべきもの」でも「医療保険=不要なもの」でもなく、自分の生活防衛資金の厚みと、先進医療をどこまで選択肢に入れたいかという2つの軸で判断すべきだということだ。感情ではなく、この2軸に自分を当てはめて考えると、答えは驚くほどシンプルになる。

僕が実際に選んだ保障の考え方

個人事業主として、投資家として、そして兼業で大家業にも関わってきた20年の経験を踏まえて、僕が実際に採用している保障の組み方を紹介する。

1. 生活防衛資金を厚めに確保する

民間の医療保険に月1万円前後を払い続けるより、その分を生活防衛資金の積み増しに回す方が、長期的には自由度が高いと判断した。生活防衛資金は医療費だけでなく、事業の谷間や急な出費全般に使えるので、汎用性がまったく違う。

2. 先進医療特約だけは薄く確保する

先進医療の技術料は高額療養費の対象外で、数十万円〜数百万円になり得る。ここだけは発生確率は低くても影響が大きいため、月数百円程度の先進医療特約を単体、もしくは掛け捨ての医療保険の特約として薄く確保している。保険料が非常に安い割に、リスクの大きい部分をピンポイントでカバーできるからだ。

3. 収入減対策は保険ではなく資産からのキャッシュフローで

就業不能保険という選択肢もあるが、保険料水準と資産からのキャッシュフロー(家賃収入・配当)を比較し、僕の場合は後者を優先する方針にした。一人で子どもたちを育てている以上、収入が完全にゼロになる期間を作らないことが最優先事項であり、これは保険よりも資産設計そのもので対応すべき課題だと考えている。

4. 限度額適用認定証とマイナ保険証の連携を常に確認しておく

いざというときに窓口での一時的な立て替えが発生しないよう、加入している国民健康保険の窓口やマイナポータルで、限度額情報の連携状況を定期的に確認している。制度があっても、使い方を知らなければ意味がない。この「知っているかどうか」の差が、いざという時の家計の安定度を大きく左右する。

民間医療保険を選ぶなら確認したい3つのポイント

ここまで「医療保険は必須ではない」という立場で解説してきたが、それでも加入を検討する場合に、僕が実際にチェックしている3つのポイントを紹介しておきたい。何となく勧められるままに契約するのではなく、自分の生活防衛資金の水準と照らし合わせて必要な部分だけを選ぶという発想が大切だ。

1. 入院給付金の日額よりも「一時金給付」の有無を見る

従来型の医療保険は「入院1日につき5,000円」といった日額給付が中心だったが、近年は入院日数が短期化しており、日額給付だけでは実質的な備えが薄くなりがちだ。それよりも、入院や手術をした際に一時金としてまとまった金額(10万円〜30万円程度)が支払われるタイプの方が、差額ベッド代や先進医療以外の諸費用に柔軟に使えて実用的だと感じている。

2. 保険料払込免除特約の要否を確認する

一部の医療保険には、契約者が特定の状態(所定の高度障害など)になった場合、以後の保険料の払込が免除される特約がある。個人事業主の場合、収入が途絶えたタイミングで保険料の支払いまで重なると家計への負担が大きくなるため、この特約の有無とコストは確認しておく価値がある。ただし特約分だけ保険料が上乗せされるため、生活防衛資金で十分にカバーできる範囲であれば、無理に付ける必要はないと考えている。

3. 更新型か終身型かで長期的なコストが大きく変わる

医療保険には、一定期間ごとに保険料が見直される「更新型」と、契約時の保険料が変わらない「終身型」がある。更新型は若いうちの保険料は安いが、年齢が上がるにつれて保険料も上昇していく。長期的な総支払額で比較すると、更新型より終身型の方が有利になるケースが多いというのが、僕がいくつかの商品を比較した際の印象だ。ただし終身型は途中解約時の元本割れリスクもあるため、加入前に払込総額のシミュレーションを必ず取り寄せることをおすすめする。

比較項目 更新型 終身型
加入時の保険料 安い やや高め
年齢上昇に伴う保険料 更新のたびに上昇 契約時のまま変わらない
長期(30年超)の総支払額 終身型より高くなりやすい 更新型より抑えられやすい
向いている人 短期間だけ保障を厚くしたい人 長期的に一定の保障を維持したい人

医療費控除とのダブル活用で実質負担をさらに圧縮する

高額療養費制度と並んで、個人事業主が見落としがちなのが「医療費控除」だ。1年間(1月1日〜12月31日)に自分や生計を一にする家族のために支払った医療費の合計が10万円(総所得金額等が200万円未満の場合はその5%)を超えた場合、超えた部分を所得から控除できる。確定申告を毎年自分で行っている個人事業主にとっては、会社員よりもむしろハードルが低い制度だと言える。医療費の領収書は普段の帳簿づけと同じ感覚で集計できるからだ。

ここで注意したいのが、高額療養費として払い戻しを受けた金額は、医療費控除の対象額から差し引く必要があるという点だ。つまり「窓口で払った金額」ではなく「最終的に自分の懐から出た金額」が控除の対象になる。二重に得をする制度ではないが、高額療養費の対象外だった差額ベッド代(治療上の必要があると医師が判断したケースに限る)や、通院時の交通費なども合算できるため、実際に計算してみると想定より控除額が大きくなることが多い。

課税所得の目安 所得税率+住民税10%の合計 医療費控除30万円を適用した場合の軽減額目安
195万円以下 15% 約45,000円
195万円超330万円以下 20% 約60,000円
330万円超695万円以下 30% 約90,000円
695万円超900万円以下 33% 約99,000円

この表からわかる通り、課税所得が高くなるほど医療費控除の節税効果も大きくなる。高額療養費で自己負担そのものを圧縮し、さらに残った自己負担分を医療費控除で翌年の税負担から差し引く。この二段構えを知っているかどうかで、実質的な医療費負担は大きく変わってくる。確定申告ソフトに領収書の金額を入力するだけの単純作業なので、面倒がらずに毎年淡々と処理することを僕は心がけている。

高額療養費の「世帯合算」を家族の医療費に使う

子どもが複数いる家庭で意外と知られていないのが「世帯合算」という仕組みだ。69歳未満の場合、同一世帯・同一の医療保険に加入している家族が同じ月に21,000円以上の自己負担をそれぞれ負った場合、それらを合算して高額療養費の対象にできる。個人ごとに見れば上限額に届かない医療費でも、家族全員分を合算すれば上限を超え、払い戻しの対象になるケースがある。

たとえば、ある月に子どものひとりが入院して自己負担が3万2,000円、別の通院治療でさらに2万4,000円の自己負担が発生したとする。個別に見ればどちらも高額療養費の上限には届かないが、世帯合算すると5万6,000円になり、所得区分エ(自己負担限度額57,600円)であれば僅差で対象外、区分オ(35,400円)であれば対象になる、という具合に判定が変わってくる。国民健康保険は世帯単位で保険料が計算されるため、この合算ルールとの相性がよく、個人事業主として国保に加入している場合は特に意識しておきたいポイントだ。申請の際は、同じ月にかかった家族分の領収書をまとめて保管しておくだけでよく、特別な準備は必要ない。

所得水準別のシミュレーション:自己負担と必要な備えはどう変わるか

「区分ウ」を基準にケースを紹介してきたが、所得水準によって自己負担の上限も、備えるべき金額も変わる。年収300万円・500万円・800万円の3パターンで、100万円の医療費(保険適用分)が発生した場合の自己負担と、必要な医療費即応資金の目安をまとめた。

年収の目安 所得区分 自己負担限度額(月額) 医療費即応資金の目安(2〜3か月分)
約300万円 区分エ 57,600円 約12万〜17万円
約500万円 区分ウ 80,100円+α 約17万〜25万円
約800万円 区分イ 167,400円+α 約34万〜50万円

所得が上がるほど、高額療養費制度による自己負担の圧縮効果は相対的に小さくなる。事業が順調で所得区分が上のランクに上がった年ほど、実は医療費のリスクに対する生活防衛資金の重要性が増すという、直感とは逆の構造になっている点は意識しておくべきだ。売上が伸びたときほど、その分だけ医療費即応資金も積み増しておく。これを毎年の確定申告のタイミングで見直すのが、僕が続けている習慣だ。

知人に見た「保険のかけすぎ」という失敗例

僕の周りの個人事業主仲間の話になるが、独立当初に不安から入院給付金日額5,000円の医療保険に加入し、そのまま20年近く見直さずに払い続けていた人がいる。月々の保険料は約8,000円、年間にすると約9万6,000円、20年間の総支払額はおよそ190万円にのぼる。その間に実際に入院したのは一度だけ、5日間の入院で受け取った給付金は2万5,000円だった。差し引きすると、190万円近くを払い込んで受け取ったのは2万5,000円というのが実態だ。

この人の場合、独立当初から生活防衛資金として生活費8か月分を確保していたので、実は最初から医療保険がなくても高額療養費制度と貯蓄だけで十分に対応できる状態だった。にもかかわらず「保険に入っていないと不安」という感情だけで契約を続けてしまい、見直しの機会も作らなかった。この話を聞いて僕が学んだのは、医療保険は「入ったら終わり」ではなく、生活防衛資金の水準が変わるたびに要・不要を定期的に見直すべきものだということだ。特に事業が軌道に乗って貯蓄が積み上がってきたタイミングは、保険を見直す絶好の機会だと思う。

よくある質問(Q&A)

Q1. 高額療養費の払い戻し申請に期限はありますか?

A. 診療を受けた月の翌月1日から2年で時効になる。2年以内であれば過去にさかのぼって申請できるので、「請求書の金額をそのまま払って忘れていた」という場合でも、領収書があれば取り戻せる可能性がある。加入している国民健康保険の窓口に、診療を受けた年月と医療機関名を伝えれば手続き方法を案内してもらえる。

Q2. 高額療養費と医療費控除は両方使えますか?

A. 制度としては別物なので両方使えるが、前述の通り医療費控除の対象額からは高額療養費として払い戻された金額を差し引く必要がある。高額療養費で自己負担を圧縮し、残った自己負担分と差額ベッド代・通院交通費などを医療費控除に回す、という順番で考えるとわかりやすい。

Q3. 国民健康保険料を滞納していても高額療養費は使えますか?

A. 保険料の滞納が続くと、通常の保険証ではなく「資格証明書」が交付され、いったん医療費の全額を窓口で自己負担しなければならないケースがある。個人事業主は収入の波が大きく保険料の支払いが後回しになりがちだが、滞納が生じそうな場合は放置せず、早めに自治体の窓口へ相談して分割納付などの相談をしておくことをすすめる。

Q4. 医療保険の保険料に回すお金があるなら、iDeCoや小規模企業共済を優先すべきですか?

A. 目的が違うので単純比較はできないが、僕自身は「医療費即応資金は流動性の高い普通預金で確保する」「老後資金の積み立ては税制優遇のあるiDeCoや小規模企業共済で行う」というように役割を分けて考えている。医療保険の保険料を減らして浮いた分を、まず生活防衛資金の底上げに回し、その後で老後資金の積み立てに回すという優先順位を僕は採用している。

まとめ

個人事業主にとって医療保険は、「入るか入らないか」の二択で考えるものではない。高額療養費制度により、保険適用内の治療費の自己負担は所得に応じて月数万円〜10万円弱程度に収まる設計になっており、これは十分な生活防衛資金があれば貯蓄でカバーできる範囲だ。本当に備えるべきは、高額療養費の対象外となる先進医療の技術料や差額ベッド代といった限定的なリスクと、そして医療保険では解決できない「働けない間の収入減」という個人事業主特有の課題だ。

この記事で紹介した自己負担限度額の表、貯蓄配分の目安、判断基準の表を、ぜひ自分自身の所得区分や家族構成に当てはめて計算してみてほしい。感情ではなく数字で判断すること。それが、会社の保障がない立場で家計を守り続けるための、いちばん確実な方法だと僕は考えている。

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※本記事は高額療養費制度や医療保険に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品への加入や解約を推奨するものではありません。所得区分や自己負担限度額、多数回該当の基準は制度改正により変更される可能性があるため、実際の手続きや金額については、お住まいの市区町村の国民健康保険窓口、または加入している健康保険組合、社会保険労務士等の専門家に必ず確認してください。個々の資産状況・家族構成・健康状態によって最適な保障内容は異なります。本記事の内容に基づいて生じたいかなる損害についても、筆者は責任を負いかねます。

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