「もっと信託報酬の安いファンドが出てきたので乗り換えたい」「今持っているファンドより成績の良さそうな投資信託を見つけた」——投資を長く続けていると、こうした場面に何度も出会います。いわゆる投資信託の「スイッチング(乗り換え)」です。
私は投資家として20年、個人事業主として20年、大家として20年というキャリアの中で、実際に何度か投資信託の乗り換えを検討し、実行したこともあれば、途中で踏みとどまったこともあります。4人の子どもを育てるシングルファーザーとして、限られた時間の中で資産形成を続けてきた立場から、今回は「投資信託の乗り換えで気をつけるべきこと」を、特に含み益がある場合の判定を中心に整理していきます。
そもそもスイッチングとは何か
投資信託のスイッチングとは、保有している投資信託を売却し、その売却代金で別の投資信託を購入することを指します。証券会社によっては「スイッチング」という専用の注文方法が用意されている場合もありますが、基本的には「売却」と「購入」という2つの取引を行っていることに変わりはありません。
ここで重要なのは、NISA口座か課税口座(特定口座・一般口座)かによって、スイッチングの意味合いが大きく変わってくるという点です。
NISA口座でのスイッチングの注意点
まず新NISA口座についてです。新NISAでは、保有している投資信託を売却すると、その簿価(取得価額)の分だけ、翌年以降に非課税投資枠が復活する仕組みになっています。ただし、ここで誤解しやすいのが「復活するのは売却した年の翌年以降」であり、「売却したその年のうちに、その分の枠がすぐに使えるようになるわけではない」という点です。年内であれば、その年の非課税投資枠のうち、まだ使っていない残り枠の範囲でしか新たな買付はできません。
また、NISA口座内での売却には、含み益に対する課税はありませんが、含み損があったとしても、その損失を他の利益と損益通算したり、翌年以降に繰り越したりすることはできません。つまり、NISA口座で含み損を抱えているファンドを「損失を確定させてでも、より良いファンドに乗り換えたい」と考えるときは、その損失分の非課税枠を実質的に失うことになる、という点を理解しておく必要があります。
課税口座でのスイッチングの注意点:含み益がある場合が要注意
一方、特定口座や一般口座など課税口座で投資信託を保有している場合、スイッチングを検討する際に最も注意すべきなのが「含み益に対する課税」です。
投資信託を売却して利益が出ている場合、その利益に対して約20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税の合計、2026年時点の税率)の税金がかかります。つまり、含み益のあるファンドを売却して別のファンドに乗り換えるということは、その含み益部分の約2割を税金として支払い、残りの約8割の資金だけを新しいファンドの購入に充てる、という取引になるわけです。
これは、乗り換え先のファンドがどれだけ優れていたとしても、乗り換えた瞬間に元本が2割近く目減りするのと同じ効果を持つ、ということを意味します。この目減り分を、新しいファンドへの乗り換えによるコスト削減やリターン向上でどれだけの期間で取り戻せるのかを、冷静に試算してから判断する必要があります。
たとえば、信託報酬が年0.5%高いファンドから、年0.1%安いファンドに乗り換える場合、コストの差は年0.4%です。含み益に対する課税で2割の元本が減ってしまうのであれば、その2割分を年0.4%のコスト差だけで取り戻すには、単純計算でも50年程度かかることになります(あくまで簡略化した試算であり、実際にはファンドそのものの運用成績の差も影響します)。このように数字で見てみると、「信託報酬が安くなるから」という理由だけで、含み益の大きいファンドを安易に乗り換えることが、必ずしも合理的とは限らないことが分かります。
乗り換えを検討すべきケース
とはいえ、乗り換えたほうがよいケースも当然あります。私が実際に乗り換えを検討・実行した経験から、判断のポイントを整理します。
1つ目は、含み益がまだ小さい、あるいは含み損の状態のケースです。この場合、乗り換えによる税負担はほとんど発生しないか、むしろ損益通算のメリットを活かせる可能性があります。特に投資を始めたばかりで、まだ含み益が大きくない段階であれば、より良いファンドへの早めの乗り換えは検討する価値があります。
2つ目は、保有しているファンドの信託報酬や運用方針に、看過できない問題があるケースです。たとえば、運用方針が大きく変更された、繰上償還のリスクが高まっている、といった場合は、含み益に対する課税を差し引いても乗り換えを検討する価値があります。
3つ目は、NISA口座内での乗り換えで、かつ、まだその年の非課税枠に余裕があるケースです。この場合、税負担なしで乗り換えができるため、課税口座に比べてハードルは低くなります。ただし、前述のとおり、売却分の枠がすぐにその年のうちに復活するわけではない点には注意が必要です。
乗り換えずに「積立先の変更」で対応する方法
含み益の大きいファンドを乗り換える際の税負担を避ける方法として、私自身がよく使っているのが、「既存の保有分は売却せずそのまま置いておき、新規の積立先だけを新しいファンドに変更する」という方法です。
これであれば、既存の含み益に対する課税は発生せず、今後の積立分から徐々に新しいファンドの比率を高めていくことができます。時間はかかりますが、税負担というコストをかけずに、ポートフォリオを緩やかに移行させることができる、現実的な方法だと感じています。
特に子育て中で忙しい中では、頻繁にポートフォリオを組み替えるよりも、こうしたシンプルで手間のかからない方法のほうが、長期的に継続しやすいという実感があります。
私が乗り換えを判断する際のチェックリスト
最後に、私自身が投資信託の乗り換えを判断する際に確認しているポイントをまとめます。
まず、含み益・含み損の金額と、それに対する課税額(課税口座の場合)を具体的な数字で試算します。次に、乗り換え先のファンドとのコスト差(信託報酬・実質コスト)を確認し、その差で税負担分を回収するのに何年かかるかを大まかに計算します。そして、乗り換えの理由が「なんとなく良さそうだから」ではなく、明確な根拠(コスト構造の違い、運用方針の重大な変更など)に基づいているかを確認します。最後に、既存分は保有したまま積立先だけを変更する方法で代替できないかを検討します。
このプロセスを踏むことで、感覚的な「乗り換えたい」という気持ちに流されず、数字に基づいた冷静な判断ができるようになったと感じています。
なお、以前の記事「投資信託の信託報酬はどこまで気にすべきか」や「NISAの非課税期間が無期限になった意味を家計目線で考える」でも、投資信託選びの考え方について触れていますので、あわせて参考にしていただければと思います。
まとめ
投資信託のスイッチングは、NISA口座か課税口座かによって考慮すべきポイントが大きく異なります。特に課税口座で含み益がある場合は、乗り換えによって発生する税負担が、乗り換え先のメリットを上回ってしまうケースが少なくありません。含み益・含み損の状況、コスト差、乗り換えの理由を数字で確認したうえで、必要であれば「積立先の変更」という緩やかな移行方法も選択肢に入れながら、冷静に判断することをおすすめします。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の金融商品の乗り換えを推奨するものではありません。税制・税率は将来変更される可能性があります。個別の税務・投資・法律に関する判断については、税理士やファイナンシャルプランナーなど専門家にご相談のうえ、ご自身の責任で行ってください。


