会社員から個人事業主に切り替えて最初に驚いたのが、社会保険料の重さでした。会社員時代は給与明細を見ても「厚生年金保険料」「健康保険料」という項目が天引きされているだけで、その金額の半分を会社が負担してくれているという実感はほとんどありませんでした。個人事業主になると、国民年金と国民健康保険という2つの制度に自分で加入し、保険料も全額自分で負担することになります。この「労使折半がなくなる」インパクトを事前に理解していなかったため、独立初年度の資金繰りではかなり慌てた記憶があります。
この記事では、個人事業主が負担する社会保険料である国民年金と国民健康保険について、それぞれの仕組みと、所得水準別にどれくらいの年間負担になるのかを試算していきます。20年近く個人事業主として働いてきた実体験も交えながら、これから独立する方や、すでに個人事業主として働いていて社会保険料の負担感に悩んでいる方に向けて整理します。
個人事業主が加入する社会保険は2種類
会社員(厚生年金・健康保険の被保険者)とは異なり、個人事業主は原則として「国民年金」と「国民健康保険」という2つの制度に加入します。国民年金は老後の年金給付の土台となる「基礎年金」の部分にあたり、20歳から60歳までのすべての国民に加入義務があります。国民健康保険は、会社の健康保険に入っていない人(自営業者、フリーランス、退職者など)が加入する医療保険制度で、市区町村(または国保組合)が運営しています。
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会社員が加入する厚生年金・健康保険との大きな違いは、保険料の決まり方と、負担者が誰かという点です。厚生年金・健康保険は給与額に応じて保険料が決まり、その金額を会社と本人が半分ずつ負担します(労使折半)。一方、国民年金は所得にかかわらず定額、国民健康保険は前年の所得に応じて金額が変動し、いずれも全額を自分ひとりで負担します。この「全額自己負担」という構造が、個人事業主の社会保険料を重く感じさせる最大の要因です。
国民年金保険料の仕組みと金額
国民年金保険料は、所得の多寡にかかわらず定額で、毎年度見直しが行われています。2026年度の目安としては月額17,000円前後(制度改正や物価スライドにより毎年度変動するため、正確な金額は日本年金機構の最新発表を確認してください)で、年間にするとおおむね20万円強の負担になります。
国民年金には、前納割引の制度があります。1年分をまとめて前払いする「1年前納」や、2年分をまとめて前払いする「2年前納」を利用すると、口座振替の場合で数千円から1万円台の割引が受けられます。個人事業主は資金繰りの波があるため一括前納が難しい時期もありますが、資金に余裕がある年は前納を活用することで、実質的な負担を多少なりとも軽減できます。
また、国民年金には「付加保険料」という上乗せ制度があります。月額400円を追加で納めることで、将来受け取る年金額に「200円×納付月数」が上乗せされる仕組みで、2年受給すれば元が取れる計算になるため、余裕があれば加入を検討する価値があります(国民年金基金に加入している場合は付加保険料と同時加入はできません)。
国民健康保険料の仕組み(所得割・均等割・平等割)
国民健康保険料は、多くの自治体で次の3つの要素を組み合わせて計算されます。ひとつめは「所得割」で、前年の所得に一定の税率(自治体によって異なりますが、おおむね8〜11%程度が目安)を掛けて算出します。ふたつめは「均等割」で、世帯の加入者数に応じて1人あたり定額(年間数万円程度)がかかります。みっつめは「平等割」で、世帯単位で定額がかかる自治体もあります(平等割を設けていない自治体もあります)。
これら3つの要素はさらに、「医療分」「後期高齢者支援金分」「介護分(40歳以上65歳未満の場合)」という3つの区分ごとに計算され、合算されます。つまり国民健康保険料は、所得に連動する部分と、世帯の人数に連動する部分の両方があるため、扶養する子どもの人数が多い個人事業主ほど、均等割の負担が積み重なりやすい構造になっています。
国民健康保険料には上限額(賦課限度額)が設定されており、所得がどれだけ高くても、この上限を超えて保険料が増え続けることはありません。2026年度時点の目安としては医療分・支援金分・介護分を合わせて年間100万円台後半程度が上限とされることが多いですが、上限額は毎年度見直されるため、正確な金額はお住まいの自治体の発表を確認してください。
所得別シミュレーション:事業所得300万・500万・800万円の場合
ここからは、国民年金と国民健康保険を合わせた年間負担を、事業所得(経費・青色申告特別控除を差し引いた後の金額)別に試算してみます。あくまで一般的な料率を用いた目安であり、実際の金額は自治体や世帯構成によって変わる点にご留意ください。
事業所得300万円のケースでは、国民年金は定額で年間約20万円、国民健康保険は所得割の対象となる所得(事業所得から基礎控除等を差し引いた金額)に対して概算で年間15万円前後となり、合計で年間およそ35万円程度が目安になります。事業所得500万円のケースでは、国民年金は同じく年間約20万円、国民健康保険は所得割の対象所得が増える分、年間30万円前後まで上がり、合計で年間およそ50万円程度になります。事業所得800万円のケースでは、国民年金は年間約20万円、国民健康保険は所得割が積み上がり、賦課限度額に近づいてくる自治体もあるため年間50万円前後、合計で年間およそ70万円程度が目安となります。
このように、所得が上がるにつれて国民健康保険料の負担が重くなっていく一方、国民年金は定額なので、所得に占める国民年金の割合は相対的に下がっていきます。年間の事業計画を立てる際は、この社会保険料の負担分を、所得税・住民税とあわせて「税・社会保険料の合計負担率」として見積もっておくと、手取りの見通しが立てやすくなります。
会社員の社会保険料(労使折半)との比較
会社員の厚生年金・健康保険は、保険料を会社と本人が半分ずつ負担する労使折半です。たとえば標準報酬月額に対する厚生年金保険料率はおおむね18.3%(労使合計)で、本人負担は半分の9.15%程度です。健康保険料率も協会けんぽの場合で都道府県ごとに異なりますが、おおむね10%前後(労使合計)で、本人負担は半分程度になります。
つまり会社員は、保険料の半分を会社が負担してくれている上に、厚生年金は将来受け取る年金額に報酬比例部分が上乗せされるという給付面のメリットもあります。個人事業主の国民年金は基礎年金のみで報酬比例部分がないため、会社員時代と同じ保険料水準の負担をしていたとしても、将来受け取る年金額は個人事業主のほうが少なくなる傾向があります。この差を埋めるために、小規模企業共済やiDeCo(個人型確定拠出年金)、国民年金基金といった制度を活用して、老後資金を自分で積み増していく必要があるというのが、個人事業主特有の資産形成における重要な論点です。
負担を抑えるためにできること
国民健康保険料には、前年所得が一定基準以下の世帯に対する「軽減制度」があります。均等割・平等割部分について、所得水準に応じて7割・5割・2割といった段階で軽減される仕組みで、自治体への申請は原則不要(住民税の申告情報から自動的に判定される)ですが、住民税の申告をしていないと判定されないケースもあるため、所得が少ない年でも住民税の申告(または確定申告)は必ず行っておくべきです。
また、災害等で著しく所得が減少した場合や、失業(倒産・解雇等)した場合には、申請によって国民健康保険料が減免される制度もあります。個人事業主の場合、事業の廃業や著しい所得減少があった際に、自治体の窓口やホームページで減免制度の対象になるか確認してみる価値があります。
国民年金についても、所得が少ない場合の「保険料免除・納付猶予制度」があります。全額免除から4分の1納付まで段階があり、免除を受けた期間は将来の年金額には反映されますが(全額免除でも国庫負担分の年金額は確保されます)、未納のまま放置するよりも将来の年金受給資格・年金額の両面で有利です。資金繰りが厳しい時期に「保険料が払えないから放置する」のではなく、免除・猶予の申請をしておくことが重要です。
さらに長期的な視点では、小規模企業共済等掛金控除の対象となる小規模企業共済やiDeCoへの加入は、掛金が全額所得控除になるため、社会保険料そのものは減らせなくても、所得税・住民税の負担を軽減しながら老後資金を積み立てられる手段として、あわせて検討する価値があります。
まとめ
個人事業主の社会保険料は、国民年金(定額、年間約20万円強)と国民健康保険(所得割・均等割・平等割の合算、所得に応じて変動)の2本立てで、いずれも全額自己負担です。会社員の労使折半と比べると、同じ収入水準でも実感する負担は重くなりがちで、事業所得が上がるほど国民健康保険料の負担も増えていく構造になっています。
年間の資金繰り計画を立てる際は、所得税・住民税に加えて、この社会保険料の負担も合わせて見積もっておくことが欠かせません。前納割引や軽減・減免制度、付加保険料や国民年金基金、iDeCoといった制度を組み合わせることで、負担を抑えつつ将来の年金額を積み増していくことができます。まずはご自身の事業所得の水準で、年間どれくらいの社会保険料になるのか、お住まいの自治体の料率で一度試算してみることをおすすめします。あわせて、国民健康保険料の減免制度や、社会保険料控除の仕組みについても理解を深めておくと、税と社会保険料をセットにした資金計画が立てやすくなります。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、2026年時点で公表されている制度・料率をもとにした目安の試算です。国民健康保険料は自治体によって料率・上限額が異なり、国民年金保険料も毎年度改定されるため、正確な金額はお住まいの自治体や日本年金機構の最新情報をご確認ください。個別の税務・社会保険・法律判断については、本記事の内容のみに基づいて行わず、必ず税理士や社会保険労務士など専門家にご相談ください。


